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撃攘の盾… 拾玖



亀裂を生じたイージスの盾



ウルオロシアナ軍による北海道軍事進行が始まって2日目の夜に入った。
既に日本とウルオロシアナには多大な人員の犠牲と艦船、航空機の損害が出ていた。

ウルオロシアナ軍は、北方四島の国後より長距離誘導ミサイル23機。
海中からは原子力潜水艦モノマルフ級とディーゼル機関キロ級潜水艦より12本の魚雷がオホーツク海洋上の海上自衛隊、イージス艦隊へ向けて矢継ぎ早に発射された。




イージス艦「はぐろ」CIC (戦闘指揮所)



『魚雷12、距離300』

対潜水艦ソナー員の、敵魚雷距離報告から5秒後。

海上自衛隊イージス艦隊、数百メートル後方で大きな爆発が起きた。

暗い海上に白く吹き上がる8本の大きな水柱が立ち上がった。

『デコイにより、魚雷8爆破確認! 魚雷4、艦隊後方250』

『各艦デコイ発射、面舵30』

イージス艦「はぐろ」艦内CIC (戦闘指揮所)に対潜水艦ソナー員と艦長の落ち着いた声がイージス艦隊、各艦CIC に響いた。

イージス艦隊は、一糸乱れぬ操艦で右へ舵を切りながら各艦艇は大きく左に傾いた。

数秒後、イージス艦隊後方に大きな水柱が4本立ち上がった。

『デコイにより魚雷4 爆破確認』

イージス艦「はぐろ」CIC ソナー員から敵魚雷全て消滅の報告が静かに伝えられた。

直後に、早期警戒幾より無線が入った。

『早期警戒幾よりイージス艦隊へ、国後より更なるミサイル10基発射確認』

イージス艦防空レーダーは、先に国後l発射されたウルオロシアナ長距離誘導ミサイル23機を早期警戒幾と衛星位置情報により、ミサイルを的確に捉えつつイージス艦隊から発射された迎撃ミサイル23機はウルオロシアナ長距離誘導ミサイルの迎撃軌道に入っていた。

更に10基の迎撃ミサイルがイージス艦隊「はぐろ」「さみだれ」「きりさめ」から発射された。

その数秒後、イージス艦隊の迎撃ミサイルがウルオロシアナ長距離誘導ミサイル18機の迎撃に成功。

『敵ミサイル18撃墜、5機 本艦隊に向かう!』

イージス艦CIC (戦闘指揮所)内に緊迫した防空レーダー員の声が響く。

『各艦、チャフ発射! 取り舵20、主砲、機関砲迎撃体制』

イージス艦隊は、敵ミサイルが発するレーダー波を撹乱する金属片のチャフを発射後、一斉に左へ回頭。

各艦「さみだれ」「きりさめ」「やはぎ」「なとり」の主砲がイージス艦の防空システムにリンク、機関砲、主砲弾の割り当てを瞬時に行い、各艦から機関砲、主砲弾が連射された。

ウルオロシアナ長距離誘導ミサイル3機がイージス艦隊主砲により破壊された。

残りのミサイル2機が急速にイージス艦「はぐろ」へ接近。

『機関砲発射』

「はぐろ」艦長の指示にイージス艦「はぐろ」のCIWS機関砲が火を吹いた。

「はぐろ」の200メートル先で1機撃墜、2機目は「はぐろ」の100メートル手前で機関砲により破壊。

ミサイルの破片がイージス艦「はぐろ」へと降り注いだ。

「はぐろ」の機関砲により迎撃されたウルオロシアナ長距離誘導ミサイルの破片が、イージス艦「はぐろ」の右舷広範囲に鈍い金属音をたてて勢いよくぶつかった。

『ダメージコントロール報告急げ!』

「はぐろ」艦長の声が艦内に響いた。

各所から、順次異常無しの報告がCIC に入ってきた。

その中で、イージス艦の要であり目となるフェーズド アレイ レーダー損傷の報告が入った。

『右舷フェーズド アレイ レーダー損傷の可能性あり! 損傷箇所の確認に入ります』

ダメージコントロールよりCIC に報告が入った。

『レーダー班長!防空システムに支障あるか?』

「はぐろ」艦長は防空システム監視班長に問い掛けた。

『防空迎撃システムは稼働するも正確な迎撃が困難と思われます』

防空システム支障の報告は、ギリシャ神話にあるどんな厄災もはね除ける「イージスの盾」に亀裂が入った事を知らせるものだった。


そこへ、イージス艦「はぐろ」に追い討ちをかけるウルオロシアナ軍の長距離誘導ミサイル発射の報告が早期警戒幾から入ってきた。

『早期警戒幾よりイージス艦隊へ。国後より長距離誘導ミサイル20発射。航空機の離着陸確認。ウルオロシアナ本土から航空機増援の可能性あり』

飛行隊編成


早期警戒幾の無線は、自衛隊稚内基地、臨時航空基地となった稚内空港、千歳基地所属の202飛行隊  F15 二十機、203飛行隊F35  十五機、紋別空港の航空自衛隊千歳203飛行隊ステルスF35 十五機と、航空自衛隊小松基地から駆けつけたF35  十機、F2  十機、 F15  十機,  航空自衛隊松島基地と三沢基地から駆けつけたF 2 十幾、 F15  十五幾は小樽沖空戦、サロマ湖沖空戦、オホーツク海洋上のイージス艦隊援護など、分散されていた航空自衛隊戦闘機は、それぞれが空戦を終えて紋別空港に待機していた戦闘機群にも伝えられた。
女満別空港では航空母艦「いつくしま」航空隊の弾薬、燃料補給中継点として「いつくしま」艦載機受け入れ体制も整った。

小松、千歳、三沢、松島、各基地から紋別空港に集まった戦闘機群は、パイロットの士気を高める意も含め、急遽  紋別飛行隊と命名された。


北海道、各基地に戦闘機が集まったことで、稚内空港、千歳基地所属飛行隊はイージス艦「はぐろ」艦隊の直援機とされ、紋別飛行隊はウルオロシアナ軍サロマ湖上陸阻止。「いつくしま」航空隊は国後から飛来する敵戦闘機への対処、または排除といった任務を持つこととなった。

紋別飛行隊

『我々、紋別飛行隊は紋別空港からオホーツク海、領海、領空警戒、ウルオロシアナ航空機、及び艦船の排除を担う戦闘群となった。
国後飛行場に再びウルオロシアナ本土から戦闘機が集結しているようだ。
だが、四島の敵機には「いつくしま」航空隊が対応する。
 長距離誘導ミサイルによりイージス艦「はぐろ」の防空レーダーに支障が出た模様。
「はぐろ」艦隊直援機として稚内空港の飛行隊が対処しているが、必要に応じて我々も援護に向かう。
現在根室沖にいるイージス艦「まや」が撃沈された護衛艦「ゆうだち」乗員の救助を救難ヘリと現場に残した補給艦に任せてサロマ湖に向かっている。
 これから話すことは稚内基地司令から我々に送られたメッセージだ。
我々は日本を、日本国民を、そして各々の愛する家族を守る為、強靭な盾とならなければならない。
 だが、強靭な盾だけでは力を消耗するだけだ。
強靭な盾とは強力な矛があってこその盾だ。
我々は憲法九条という矛盾に縛られているが、実戦ではそんなものはくそ食らえだ。
 やられたらやり返す、やらなければ殺られるのだ!
皆、国土や国民、我々の家族を守るという決意の基に自衛隊に入隊したものと思う。
 皆の過酷な訓練は今この時のためにある。
指令の私が憲法九条という矛盾に楯突いてはいるが皆は日本領海、領空に入ってくるウルオロシアナ軍に対して警告は怠ることの無いように…皆の無事を祈る…という稚内基地司令からの言葉を代弁させてもらった。
司令は、航空機の撃墜、艦船の撃沈も已む無し、と言っていた。
実際、自分も初めての実戦に加わり恐怖を覚えた。
 皆も…先程の空戦で、やらなければ殺られる、ということを身をもって感じたことと思う。
更に、夜間の空戦は我々には恐怖を感じるが、敵戦闘機パイロットも同じ気持ちだと思う。
戦闘機同士の衝突もこの目で見た。
 暗視ゴーグルも多少は役に立つが、I F F(敵味方識別装置)だけが頼りになる。
俺は経験済みだ、皆も訓練を思い出して十分力を発揮してほしい。
これより出撃に備え!
そして…紋別飛行隊隊長として皆に言う。
必ず生きて帰ってくるように、以上だ』

紋別飛行隊員は気合いの入った返事を残し、ミーティングルームを出ていった。

千歳基地203飛行隊長であった二等空佐、小林編隊長は紋別飛行隊長を稚内基地司令神田より任されることとなった。
二日目の夜間戦闘ともなると疲労感は隠せないが、相次ぐ敵機飛来に休むことは許されなかった。

部下を3名亡くしてはいるが、悲嘆に暮れることさえ絶え間ないウルオロシアナ軍の攻撃が許してはくれなかった。

激怒する稚内基地司令


小林は稚内基地司令、神田一成に国後と択捉島の飛行場破壊を提案していた。
小林の提案する根拠は、事実上北方四島は日本の領土であることで攻撃したところで他国への攻撃にはあたらないのでは、と提案した。
航空母艦「いつくしま」艦隊には巡航ミサイルを積む護衛艦が存在している事と、これから根室海峡を通過するためにも必要なことだと司令に伝えてあった。

稚内基地司令は航空母艦艦隊旗艦「いつくしま」へ、国後と択捉の飛行場攻撃の意向を伝えた。

「いつくしま」艦長からは攻撃命令があれば即応する、と返事があった。
今や前線基地となっている稚内基地として、基地司令である神田は、国後と択捉の飛行場破壊は緊急を要するものと考え、防衛省上層部に直接北方四島の国後と択捉の飛行場攻撃を伝えた。
北方四島は事実上日本の領土となり攻撃は他国への攻撃にあたらない、とグレーゾーンではあるがピンポイントで飛行場のみを攻撃できる能力と装備が「いつくしま」艦隊にあることを告げ、「いつくしま」艦隊、旗艦である「いつくしま」艦長の承認も得ていると告げた。
緊急を要するものは必要に応じて国会を通さず出動できる、という自衛隊法76条第1項を掲げ攻撃に対してはグレーゾーンだが敵の圧倒的な航空機の数に対し、航空機の数において劣性であることで、緊急を要するものとして防衛省に承認を求めた。

だが、防衛省上層部からは承認できないと返答があった。

稚内基地司令、神田一成はそれでも食い下がって攻撃の承認を要求した。

しかし、日本の領土とはいえ実効支配しているのはウルオロシアナなので他国への攻撃とみなされる事になる恐れがあると承認を却下された。

神田一成は激怒した。

『我々現場の自衛官に犬死にをしろというのか!既に航空機、ミサイルの攻撃で劣性に追い込まれいている事を認識しろっ!現場では自衛官の血が多く流されていることが分かっているのか ! 私は攻撃命令を出す。命令違反の処分は私が全て受ける』

神田はそう言って防衛省上層部との交渉を一方的に終えた。

そして稚内基地司令神田一成は「いつくしま」艦隊に国後と択捉の飛行場のみの攻撃命令を出した。

奮闘する「はぐろ」艦隊


『早期警戒幾より各基地へ。
国後から航空機多数離陸、離陸幾数は50を越えている。
千歳基地へ打診、空中給油幾の要請と早期警戒幾の交代を要請する。
右エンジンに若干の不調あり』


『稚内基地了解した。給油幾は上空待機している幾が向かう」

『千歳基地了解。滑走路に多少難あり。着陸は女満別空港に変更されたし。交代早期警戒幾離陸準備を開始する』

『警戒幾了解』

空中給油機は数千メートル上空の早期警戒幾へと向かっていった。

右舷のフェーズド アレイ レーダーに支障をきたしたイージス艦「はぐろ」へ、ウルオロシアナから多数の長距離誘導ミサイルと戦闘機がイージス艦「はぐろ」へと接近していた。

イージス艦「はぐろ」は右へ回頭、左舷にフェーズド アレイ レーダーを敵飛来ミサイルと航空機へと向けた。

艦橋の4方向にあるフェーズド アレイ レーダーの故障していない左舷2つのフェーズド アレイ レーダーを向けた。

『敵長距離誘導ミサイル、本艦への直撃コースに入る』

左舷のフェーズド アレイ レーダーしか使えなくなったイージス艦「はぐろ」はミサイル回避に制限を持たざるを得なくなっていた。

『全艦、チャフ発射 ! 面舵10,機関全速回避、迎撃始め!』

「はぐろ」は敵ミサイルをレーダーで捉えながら、防空システムを「きりさめ」「さみだれ」へとリンク、迎撃ミサイルを各艦艇から発射させた。

「やはぎ」「なとり」から短距離防空ミサイルが発射された。

「きりさめ」「さみだれ」から10機の迎撃ミサイルが発射された。
続けて10機の迎撃ミサイルが発射された。

数秒後10機の長距離誘導ミサイルが破壊されたt。

残りの10機が「きりさめ」「さみだれ」の迎撃ミサイルを掻い潜り「はぐろ」へ襲いかかっていった。



続く…

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