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眼科症例報告:温罨法が有効であった角膜疾患を繰り返す犬の症例
はじめに
ブルドックなど、まぶたが垂れ下がっている犬種では、上下眼瞼のメニスカスが角膜に接触しておらず、まばたきによるワイピングができない特徴があります。これらの犬種では涙液の量が足りていても、ドライアイ傾向にあるために角膜疾患を引き起こすことが多いです。本症例は角膜疾患を繰り返しましたが、温罨法により徐々に調子を取り戻しました。犬種特有の眼瞼とマイボーム腺機能不全が根本原因となり角膜疾患を引き起こした症例について紹介します。
初診時稟告
ブルドック、8歳5カ月、オス
膀胱炎をよく起こすとのこと。
皮膚の膿皮症と指間炎をよく起こすとのこと。現在治療中。
3か月前、近医にて両目の充血と黄色眼脂を指摘。ロメフロキサシン点眼液、ヒアルロン酸点眼液、ジフルプレドナード点眼液などの処方により改善。
1か月前、点眼を終了したところ、再び黄色眼脂がみられたとのこと。
本日は、調子が良いとのこと。
初診時検査所見
眼瞼では、両眼共にマイボーム腺開口部が詰まり気味で、下眼瞼は下垂していました。
眼瞼 内側上方マイボーム腺開口部白色カリフラワー状、マイボーム腺開口部白色多数、下眼瞼下垂/マイボーム腺開口部白色多数、外側上方2箇所マイボーム腺開口部隆起白色、下眼瞼下垂
腫脹 -/-
発赤 -/-
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右眼角膜では渦状の白色混濁がみられました。また、混濁部に向けた新生血管がみられました。
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初診時診断
>診断
確定
両眼 マイボーム腺機能不全、下眼瞼下垂
右眼 マイボーム腺腫、角膜症、角膜炎
疑い
両眼 角結膜炎
>視機能
光覚 障害なし/障害なし
形態覚 障害なし/障害なし
>加療計画
両眼 角結膜炎:来院時には両眼の炎症や黄色眼脂は改善されていた。これまでの治療経過や自然治癒したことから細菌感染性の角結膜炎を発症していたと考えられる。細胞診では細菌は確認されておらず、加療は必要ないと判断した。
両眼 マイボーム腺機能不全、下眼瞼下垂、右眼 角膜症:右眼で渦状の角膜混濁が認められた。マイボーム腺開口部で白色部が多いこと、マイボーム腺マッサージで透明の液体が排出されずらいこと、涙液が少ない傾向であること、下眼瞼下垂で涙液が角膜表面に滞留しないことなどから角膜表面環境が悪いことが確認された。両眼ともに治療ない場合は角膜症が進行する可能性があるため、涙液の補充とマイボーム腺機能不全に対する治療が必要である。当面はビブラマイシンの内服により眼瞼の感染や炎症を抑え、その後は温庵法によりマイボーム腺の状態の改善を図る。
>治療
人工涙液 両眼1日3回
ドキシサイクリン内服 1日2回14日間
再診 2週間後
稟告
初診後3日目から目やにが出なくなったとのこと。また、しょぼつきがなくなったとのこと。
検査所見
右眼の混濁と新生血管は不変。
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加療計画
経過良好と判断した。温罨法を開始。
治療
温罨法 両眼1日2回
再診 2か月後
稟告
2週間前に草むらに入った。
その後、左眼のしょぼつきが続き、涙が多く、黄色い目やにがでる。
左目をこすっている。
検査所見
右眼の角膜混濁は消失していた。
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左眼は流涙が多く、角膜内側上皮側に地図状の混濁がみられた。混濁部はフルオレセイン陽性となった。
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綿棒で混濁部を掻把したところ、角膜上皮は容易に剥離した。また、剥離後はフルオレセイン陽性部位は拡大した。
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加療計画
診断
左眼 SCEEDs:左眼内側下方に辺縁明瞭地図状陥凹、新生血管は見られない、フルオレセインでは後期で拡散のない染色、綿棒掻爬により容易に広がる。左眼びらん部に対して綿棒による掻爬を実施、コンタクトレンズを装用して経過観察を行う。
左眼に対して二次感染予防としてガチフロを処方。
治療
綿棒デブライドメント 左眼
バンデージコンタクトレンズ装用 左眼
ガチフロ 左眼1日1回
ヒアルロン酸点眼液 左眼1日3回
再診 3か月後
稟告
左眼は徐々に目を開けるようになっていった。
両眼共に目やには多い。
検査所見
左眼のびらんはみられず、改善していた。
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加療計画
右眼の角結膜炎はやや悪化している。角膜表面環境によるものの可能性がある。ヒアルロン酸点眼液を処方する。
左眼のSCEEDsは完治した。
治療
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日3回
5か月後 再診
稟告
右眼は充血し、黒目は白い。黄色眼脂が出ており、しょぼついている。
左眼は調子が良い。
検査所見
右眼は浮腫混濁を起こし、全周輪部から新生血管がみられた。新生血管は中層にみられ、末端が火炎状を呈していた。
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加療計画
診断
右眼 免疫介在性角膜炎:角膜の浮腫混濁、中層新生血管から角膜炎と診断した。塗抹鏡検ではバクテリアはみられず、感染は疑われない。ステロイドにより抗炎症治療を開始する。
治療
ジフルプレドナード 右眼1日3回
ガチフロキサシン点眼液 右眼1日1回
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
再診 3か月1週後
稟告
調子が良く目が開くようになった。
検査所見
右眼角膜新生血管はやや退縮した。浮腫混濁は改善した。
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加療計画
右眼 角膜炎:著明改善、新生血管は退縮し火炎状所見は消失した、結膜などの浮腫はみられない、角膜上皮の混濁は残存している
1週間での著明改善が見られた、さらに2週間継続しその後ステロイドを漸減する。
治療
ジフルプレドナード点眼液 右眼漸減
ガチフロキサシン点眼液 右眼漸減
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
温罨法 両眼1日2回(右眼は消炎後)
再診 6か月後
稟告
右眼がしょぼついている。
検査所見
右眼下方に角膜上皮地図状混濁と新生血管がみられた。混濁部はフルオレセイン陽性となった。綿棒による掻把で容易に上皮が剥離した。
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加療計画
診断
右眼 マイボーム腺機能不全、ドライアイ、免疫介在性角膜炎、(新)SCEEDs:角膜炎の再燃はみられない、内眼角から数本の新生血管と、角膜表層の混濁領域、混濁領域の辺縁はフラップがみられる、綿棒による掻爬で範囲は3倍以上に拡大した、細胞診ではバクテリアはみられない。綿棒による掻爬とバンデージコンタクトレンズによる治療を行った。二次感染予防を実施する。
左眼 マイボーム腺機能不全、ドライアイ:不変
治療
綿棒デブライドメント 右眼
バンデージコンタクトレンズ 右眼
ヒアルロン酸点眼液 右眼1日3回、左眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
温罨法 左眼1日2回
再診 6か月3週後
稟告
右目は痛みが続いているとのこと。
検査所見
右眼混濁は悪化し、新生血管は増強されている。混濁部はフルオレセイン陽性で綿棒による掻把で容易に剥離される。
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加療計画
右眼 SCEEDs:改善がみられない。ダイヤモンドバーによる掻把とコンタクトレンズ装用を実施する。
治療
ダイヤモンドバーデブライドメント 右眼
バンデージコンタクトレンズ 右眼
ヒアルロン酸点眼液 右眼1日3回、左眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
温罨法 左眼1日2回
再診 7か月3週後
稟告
3日前まで元気がなかった。
右目は目が開いている。
検査所見
角膜の混濁と新生血管は外側へ位置が変わっている。浮腫混濁は改善し、フルオレセイン陽性部位は見られない。綿棒掻把では剥離されない。
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加療計画
右眼のSCEEDsは完治した。
両眼共にマイボーム腺機能不全の治療を継続する。
治療
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 両眼1日1回
温罨法 両眼1日2回
再診 11か月後
稟告
2週間前から右目の黄色眼脂がある。
検査所見
塗抹鏡検ではバクテリアはみられず、角膜の混濁と新生血管がみられた。
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加療計画
右眼 免疫介在性角膜炎再発
治療
ジフルプレドナード点眼液 右眼1日3回
ガチフロキサシン点眼液 右眼1日1回
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
温罨法 左眼1日2回
再診 11か月2週後
稟告
よくなった。
検査所見
角膜の混濁と新生血管は消失した。
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11か月2週後 右眼
加療計画
右眼の角膜炎は改善した。再発を警戒し、ステロイド点眼液を漸減する。
治療
ジフルプレドナード点眼液 右眼漸減
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 両眼1日1回
温罨法 両眼1日2回
再診 1年3か月後
稟告
右目が少し目やにがでるとのこと。
検査所見
左眼に対して右眼は充血している。マイボーム腺開口部の白色は初診時と比較して改善している。初診時にみられた角膜の混濁は消失している。
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加療計画
右眼 角膜炎疑い:塗抹強肩では分葉白血球の割合が増えている。これまでの経過から角膜炎の初期が疑われる。
両眼 マイボーム腺機能不全、角膜症:マイボーム腺開口部は初診時と比較してマイバムの詰まりは改善している。角膜の混濁も消失しており、温罨法が奏功している。
治療
ジフルプレドナード点眼液 右眼1日3回
ガチフロキサシン点眼液 右眼1日1回
ヒアルロン酸点眼液 両眼1日2回
シクロスポリン眼軟膏 左眼1日1回
温罨法 左眼1日2回
まとめ
温罨法により角膜のトラブルが徐々に減っていきました。マイボーム腺開口部の所見と共に温罨法の効果を実感した症例でした。