獣医ミクロ経済:獣医師の労働時間の推移
キーポイント
・2018年頃以前は残業時間が減少傾向で、それ以降はやや増加傾向
・残業時間に男女差がないことが特徴
・全体の労働者と比較して長時間労働
はじめに
獣医ミクロ経済統計シリーズとして、今回は獣医師の労働時間の推移を紹介します。厳密に医療系の職業と言えるのか難しい獣医業ですが、行っている業務内容は医療系の仕事が多いです。長時間労働につながるイメージですが、実際はどうなのかを統計調査をもとにみていきたいと思います。
2023年の全体労働者と獣医師の比較
2023年の全体との比較では、全企業規模別で全体労働者よりも獣医師の残業時間が長いことが分かります。女性よりも男性の方が残業時間が長いことも同様の傾向ですが、5人から9人の小さい事業規模では獣医師の男女差がないことが特徴のようです。
また、10-99人の企業規模の男性は残業時間が50時間と長く、ひと月の労働日が20日と仮定すると毎日2.5時間残業している計算となります。ちなみに人の医者では10人以上の企業規模男女合計で24時間です(医者は他院へのアルバイトなどで実際はかなり長いですが)ので、中規模の事業者で働く獣医師は激務をこなしている可能性があります。
1000人以上事業者の獣医師の残業時間
獣医師が所属する事業者としてはイオンペットなどの大規模小動物臨床事業者や製薬会社などがあると考えられます。北海道nosaiもここです。
2016年は男女ともに残業時間が跳ね上がっており、サンプル数の少なさによる外れ値の可能性があります。
その他では比較的横ばいで推移しています。他の企業規模にない特徴としては、月160時間を基準とすると残業時間がマイナスになる年があり、比較的労働時間が短い可能性を感じさせます。
男女の差はあまりないようですが、近年は女性の方が残業時間が長い傾向があったようです。他の投稿でも示していますが(https://note.com/apt_mango3973/n/n94e12ba110ff?sub_rt=share_pw)、2020年頃から女性の平均年齢が下がっており、比較的新人の従業員の労働時間が長かった可能性があります。
100-999人事業者の獣医師の残業時間
この規模の事業者としては比較的規模の大きい産業動物臨床(nosaiなど)や系列病院所属の小動物病院、ペット関連企業になります。
2010年から2011年は残業時間が跳ね上がっている以外は安定して10時間あたりで推移しています。2023年単年でみると女性の残業時間が少ないですが、10年単位の推移でみると男女差はほぼないようです。ここは全体労働者との違いになり、女性獣医師も比較的長時間労働を行っているようです。
10-99人事業者の獣医師の残業時間
10-99人の事業者は小規模なnosaiや従業員を雇って経営をしている小動物臨床病院が含まれます。
100-999人事業者と同様に男女差はほぼなく、女性獣医師も長時間労働をしている傾向がみられます。また、100人以上事業者よりも残業時間の水準は長くなっています(20時間から40時間の推移)。
残業時間はやや減少傾向にありますが、2018年頃から再び上昇傾向に入っているとも読み取れます。
5-9人事業者の獣医師の残業時間
5-9人の事業者は個人経営の小動物臨床や大動物臨床が含まれると考えられます。
残業時間は減少傾向が続いており、10-99人事業者と異なり2018年からの反転傾向もあまりみられません。
男女差はなく推移しており、10-99人事業者と比較して残業時間の水準はやや短いようです。
まとめ
獣医は医療系の仕事であり、長時間労働のイメージがあるかと思われますが、実際に長時間労働を行っているようです。特徴的なのは男女差があまりなく、女性も長時間労働を行っていることです。近年は、獣医系大学の女子学生比率が増加しており、女性獣医師比率が増加することが予想されています。小規模な事業者でも忙しく働けることは幸せなことですが、ライフワークバランスも考える必要があるかもしれません。