あてのない怒濤
この記事はエイプリル・ゴースト(以下A)とジューン(以下J:Aのメンター的存在だが、多くは謎に包まれている人物)との対話形式でお送りします。
A:Jさん、新年早々いろいろ詰め込みすぎて、気づけばもう1月が終わってしまったんですけど…。
J:そんなにイベント盛りだくさんだったの?
A:う〜んイベント…というか、やらなきゃいけないこととやりたいことが一気に押し寄せてきた感じです。
J:へぇー。仕事以外の日もやる事が詰まってるってことか。いいじゃない。
A:でもスタートからこんなに勢いづいてると、きっと2月は激しく失速するんだろうなぁって思うんですよね。
J:楽しむことで栄養補給されてんじゃないの。
A:それはそうなんですけど、あのー……Jさんはご存知でしょうけど、加減を知らないっていうか、結構な速度で突っ走ってしまって止まるに止まれないみたいなところがあって。「動」と「静」が極端なんですよね。歯車がギュンギュン回ってる時はメンテナンスっていうのを考えもしないから、部品が壊れた時の修理に長い時間がかかってしまうっていう……。
J:合間を見て息抜きができればいいんだろうけど、Aちゃんの性質上それは難しいのかな?
A:年を経るごとにだんだんと頭では解ってきているんですけど、まだね…身体が覚えちゃってるから…。
J:そのやり方に慣れてるんだ。まぁそれがAちゃんらしさと言えなくもない…とおれは思うけど。2月に失速するってことは休んでもいいよってサインなんじゃないの?
A:んー。そうか…。
J:そういう波みたいな変動があって人間のバイタルは保たれているんだろうからね。
A:Jさんは「とばし過ぎてるな」ってことないですか?
J:あるよ。多分。おれは加速が遅い方だから、今はまだアイドリング中ってとこかな。土壇場で「よしやるぞ」って決めてやるみたいな。
A:へぇ〜。じゃあ決めるまでは勢いをセーブできるんですね。
J:一応のスイッチみたいなのはあるかな。
A:私は切り替え装置がうまく作動しなくて、いろいろやってるうちにいつの間にか加速してるから…。やる気を自分でコントロールできない苛立ちみたいなのが常にあります。で、気づいたら “アウト・オブ・ペトロール” のサインが…
J:徐々に減速するってのも…?
A:…むずかしいかも…。昔から短距離走が得意なタイプだから…(⁈)。
J:(笑)。瞬発力はあるってことなんだよな。それでギリギリまで疾走できるってのも凄いけどな。
A:でもその瞬発力にいつまでも頼っていられるほど若くないってことを自覚しなくちゃとは思うんだよ…。
J:その言いぐさだと、まだしばらくは暴走しそうな感じだな(笑)。
A:いや……心の中では「ホントに誰か止めてくれ〜!」って叫んでるんだけどね〜。
J:行くとこまで行ったらどうなんの?
A:ハイ?
J:え?
A:だからハイになります。
J:それはどういう…?
A:全て燃えて灰になって、無になろうとします。
J:それは……蘇生とかできるの?
A:灰の中に燻っている焔があれば……。
J:それはまた風前のナントカだな(苦笑)。
A:そう。だからやっぱり止まり方を覚えないといけない。
J:「焔の時と灰の時」っていうのが誰かの詩にあったけど、なんかAちゃんはそういうふうに刹那的に生きてる方が似合ってるんじゃないかな。
A:刹那的なのはカッコいいんですけど、そうありたくもあるし、もうちょっとこう…大道を往くみたいにゆったり構えたくもあるなぁ。
J:うん。おれはともかく、たぶん大体の人はAちゃんを後者のイメージで捉えてると思うよ。
A:そう見られているのは喜ぶべきか…。
J:落ち着いた大人に見られてるんだよ⁈ 万々歳じゃない?中身は全然違うのに、そう見せることができるってのはある種の才能だと思うけどな。
A:いや…演技下手だからすぐに見抜かれますって。自分では演技とか、何も装ってるつもりはないのに随分と良いイメージで見られてるってのは、なんか怖いな。
J:あぁ、それ。装ってないっていうナチュラルな表層の下に甲冑とか装着してる、一番手強いヤツ。
A:(笑)。何それ?
J:それともあれか?固くないけど玉ねぎみたいに何枚もレイヤーになってる方か?全然芯にたどり着きませんけど⁈って。
A:な…(笑)なんかあったんですか、そういう実体験が? 急に厭味っぽくなるなんて珍しいですけど。
J:Aちゃんにおれがどんなふうに映ってるか知らないけど、割と邪心的な側面もあるよと。
A:それを私に見せたかったんですね。ありがとうございます。
J:別に感謝されるようなことでは……。
A:でもあれがJさんの邪心だとしたら、すごく可愛らしいですね(笑)。
J:うぅ…、やめて。人を小物みたいに言うの。
A:で、何があったんですか?
J:それはまた別の機会に。
Erlend Oye/Sudden Rush
A:このMV初めて見ましたけど、何かの実験? それとも映画かなんかのオマージュなんでしょうか? インパクトはすごいけど、一度見ただけでは理解できない作りですよね。
J:これもナンセンスというセンスなんじゃないの?
A:ナンセンスにしては意味ありげなシーンがありましたけど(笑)。
J:このアーティストはあれだよね、キングス・オブ・コンビニエンスの片割れだよね。
A:あ、そうです。
J:キングス〜とは対極にある感じの音だね、これは。
A:この曲を含む初のソロアルバムを出した2003年当時は、エレクトロニカにハマってたんでしょうね、アーランド・オイエは。地道にソロ作出してますけど、これ以外はアコースティックなものになってるから、今となってはこれが「異色」っぽく思える。
J:なんかこの気負わない感じがいいよね。
A:そうなんです。いい塩梅の「抜け」があるんですよね。温もりのある声と電子音という組み合わせもまたいいんですよ。
J:それでいてアルバムタイトルは『unrest』なのね(笑)。
A:収録曲の10曲はそれぞれ10人のアーティストと共作したんですって。レコーディング場所も様々で、ベルゲン、ベルリン、ローマ、バルセロナ、ヘルシンキなどなど。意欲的に飛び回ってるアーランドの姿が目に浮かぶ。そういう意味で『unrest』とつけたのかはわからないけど、たぶんそう。
J:へぇ。休息を求めての奔走なんだな、きっと。