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経過

何かと思い出深い入院生活を終えてから数ヶ月が経ち、以前より当時の自分を俯瞰出来るようになってきたように思う。

入院中は十色の感情が混じりあいマーブル模様と化していた心の内。現在も鮮やかとは言えないものの、少しは晴れた色になってきたように感じている。

顔を洗って、化粧水を塗りたくる。
廊下を歩いて、裸足に感じる微かな涼しさ。
ドアを開ければ、巻雲に瞳を奪われる。
夏の終わりのひとつまみの平和が、確かにそこにある。
それでいいんだ。

時には雨も降りたがる。
アスファルトを打つ幾万の波紋。
土の匂いと蛙の相槌。
真っ暗闇の園に映る、俯いた顔と心象風景。

本音を言えば、暗がりも雨も大嫌い。
ずっと平和で快晴で。
秋と冬だけを繰り返す、そんな世界が理想郷。

でも、そんな世界はどこにもない。
だから怖くてうろたえる。
入院したって変わらない、この雨の中を歩いてる。

22時、毛布に飛び込んだ。
昼間にもらった優しさを、少しずつ胸に溶かしてく。
朝まで無くならないように。少しずつ、少しずつ。そうして朝がやってきたら、これみよがしに背伸びをする。
くすっと笑った巻雲が、次の季節を連れてくる。

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