戯曲台本『トランス』声劇配信の上演許可申請について
はじめに 私と『第三舞台』
僕は舞台演劇が大好きです。そんな中「一番好きな劇団は?」と聞かれれば『第三舞台』(※現在サードステージと名前を変えております)と答えます。
前談がとても長いですが、少しだけお付き合いくださいね。
『第三舞台』は僕の青春時代そのものです。この劇団は、現在、日本劇作家協会会長兼代表理事を務める鴻上尚史氏が中心となり発足されました。
思い返せば初めて舞台へまともに立った作品は大学の演劇サークルで取り組んだ「スナフキンの手紙」という作品でした。
アンケートで”あの人がずっと話して終わるかなと思ったらあとから結構いろんな人が出てきておもしろかった”と書かれたくらいの長台詞に苦心。劇外では小動物みたいなかわいらしい一つ上の先輩がいわゆる”サークルクラッシャー”で人間関係が完全に崩壊。演劇の厳しさをいろんなところから感じました。
そして忘れもしない『シンデレラストーリー』。主演の王子様役の後輩が稽古中に骨折し私が代役に。大学4年のサークル引退後でしたが、本番までの時間がなく、そこに卒論作成も重なり、苦手なダンスも多く非常に苦労しました。※ここらへんで私のあだ名が”王子”になりました。いまだに一部の人からそういわれます。
そんなわけで鴻上さんの脚本は私の学生演劇の始まりと終わりを彩っていただきました。他にも劇団のジレンマについて書かれた「リレイヤーⅢ」、鬱屈とした雰囲気が滲む「ハルシオン・デイズ」、閉口していた想いや理想を表現した「ピルグリム」、男なら一度は挑戦したい「朝日のような夕日をつれて」などなど。上げればキリがないですね、大好きな作品がたくさんあります。
声劇に少しだけ触れる
さて、そんな中今回は、鴻上尚史さんの脚本『トランス』を上演することにいたしました。脚本の内容についてはここでは本旨からそれるので割愛いたします。
そして今回は音声のみのオンライン配信上演を行います。この音声のみのオンライン配信は”声劇”と呼ばれ一部界隈で楽しまれています。
こういう感じです。僕的には”リアルタイムでジャズみたいに掛け合う読み合わせ”みたいな感じです。最終形が”声のみ”になりますので、軽くやるのではなく、”読み”だけを本気で演じます。声劇で主に利用される台本の検索サイトなんてのも存在していたりします。
ニッチな世界ではありますが、かなり奥深い界隈です。声劇についてはこのくらいの説明にとどめます。
声劇で商業使用されている脚本を上演すること
さて、おさらいから本題に入っていきましょう。今回は「声劇でトランスをやりたい」となりましたが、配信や講演における”フリー”な脚本ではなく、版権のある商業脚本を上演するには著作権者の許可が必要になります。
ということでここからは『トランス』上演にあたり、許可申請のために行ったことについて触れていきます。
”声劇”で舞台脚本を申請の手順を踏んで上演した、というのをあまり周りから聞きませんでしたので、今後挑戦してみたいという方々のために記録として残そうと思いました。これはそういう記事です。舞台演劇を愛好されている方には上演申請なんて慣れっこかもしれませんが、”配信”となると少し毛色が違ったり、うまく伝わらなかったりすることもありましたのでご参考になれば幸いです。
台本申請にあたって行ったこと
さて、まずは版権元のサードステージさんに”お伺い”のメールをしました。配信で声だけの芝居をするということはマイノリティであると自覚していましたので、そもそも許可がいただけなくて当然。返信がなくても仕方ないな、くらいの気持ちです。残念ですがその時はあきらめるしかありません。メールにしたのも、いきなり電話をして時間をとらせてしまうのが申し訳ないなというふうに感じていたからです。
メールで送った内容はざっくりこの2つです。
この”お伺いメール”ですが、最初から「どういう条件ならOKですか?」と聞くのは違うように感じました。劇団は舞台演劇などが専門です。”声劇”のようなよくわからないコトに対してこんな聞かれ方をされると、そもそも声劇がなんなのか調べるところから始めなくてはならないし、具体的な案を考える必要もあります。こうしたことに時間を取らせてしまうのは申し訳ないと私自身感じておりました。それに、おそらく”声劇”という未知のものに対して、著作権者から案を出そうとすれば、おそらくやったことのある肌感覚でしかわからない部分を厳しくせざるを得ず、演じる側からすれば厳しい条件で条件が提示されるかお断りになるのが目に見えておりました。なので、できるだけ端的に分かりやすく、これなら脚本を守りつつ許可がいただけるのでないかという点を考慮し、想定される状況等を細かく付記しました(僕はできること、やれることを事前にどれだけできるかを行動としてお見せできることが誠意だと思っている性質だったりするのでそれもあります)。
難しく書いていますが、もしひとことでまとめるなら「〇×△~これで、大丈夫ですかね?」という感じです。
お伝えした条件は以下の通り。
そうしたところ比較的すぐに「配信という一般的ではない形式ですが、それなら大丈夫です、許可申請をお送りください」という連絡が来ました。私、感動。。。トランスを声劇でできるかも…!?
ただ、ここで頭を一回冷静にしまして…。行き違いや誤解がないよう、ここでようやくはじめて先方へ電話をかけることにしました。ご返答いただいた内容の確認や配信回数等についても詳細を事務局の方に伺います。
個人的な意見ですが、創作物は著作権法だけでは作品を守り切れない部分があるように感じています。戯曲の作者様は作品イメージやそもそも創作物の考え方の点で自由度が高い方もいれば、厳粛な方もいらっしゃいます。そのニュアンスについて、細かいところを双方向のやりとりができる電話で確認したかったわけです。”法律がいいからOK!”ではなく作者様に配慮した脚本の取り扱いや、そこへつながる部分についてもくわしく確認しておくことがとても大事だと感じます。
電話である程度の不安は消えましたので、定型書式にて上演申請を行いました。あとは待つだけです。
ついに上演許諾!
そして10日ほどで上演許諾の通知が来ました。嬉しい!!!
もっと時間がかかる場合もありますので、数か月前から申請を出しておくことをオススメします。
たとえ無料配信だとしても、こうした脚本は許可申請がほとんど有料ですのでご注意を。舞台人からすると、逆に声劇台本のほとんどが無料上演できることの方が驚きなんですけれどね…。
ちなみに今回は上演2回の申請を行いました。1度目がリアルタイム配信(スタジオから)、2回目は主に1回目の配信を録音しておき、それを配信する形式をとりました。上演回数・配信回数が増えると許可申請の費用も増しますので、要確認です。
また、実際に読む脚本についても触れておきます。公演をする際の台本をコピーして出演者に配るのが暗黙で行われていることがありますが、今回私たちは演者全員が脚本書籍を購入して、配信に臨みます。作者様にお金が入るのも大事ですからね。大切な脚本を上演させていただき本当にありがとうございます!
そして上演へ
※上演は無事終了いたしました。
長尺作品の声劇を愛好する『長尺研究会』3名でお送りいたします。
”声劇”とはだいたいオンラインでデバイスを通してのやりとりですが、今回はスタジオから3人顔を突き合わせての配信となります。
実は『トランス』を3人でやってみたいと初めてお話したのは2年前でした。私の自己満足に他二人が巻き込まれて…と私は認識しているのですが、大好きな二人と(こういうこと言うとなんか重いらしいです…ごめんなさい)、この大好きな作品をようやくお届けできるのが嬉しいです。ぜひ聞きにいらしてください。お待ちしております。
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