ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜(2017年)

画像1 ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜は田中経一著の小説「麒麟の舌を持つ男」を、「おくりびと」などで国際的に知られる滝田洋二郎監督が映画化した作品。ちなみに田中氏はかつて「料理の鉄人」を手がけた演出家である。
画像2 主人公の佐々木充(二宮和也)は音楽で言えば絶対音感のように、一度食べた味は絶対に忘れない、必ずその味を再現できるという「麒麟の舌」の持ち主。幼い頃に両親と死に別れ、施設で育った過去を持つ。料理人となって店を構えていたが、こだわりが強くて気難しいその性格から味に一切の妥協を許さず、自ら店を潰してしまう。抱えた多額の借金の返済をしながら、今はその特殊な能力を使って依頼人が望む味を再現し、受け取った破格の報酬をあてに、特に目標もなく気まぐれな生活を送る日々を過ごしている。
画像3 剛くんが演じているのは、そんな充と同じ施設で育った幼なじみの柳沢健。親代わりとなって面倒を見てくれた児童養護施設「すずらん園」の園長の鈴木(大地康夫)の葬儀に顔を出さなかった充を叱責し、なんとか立ち直らせようと言葉を掛けるが、充はかつての情熱を取り戻すことなく、燻り続けていた。
画像4 充と同じく料理人の道を歩んだ柳沢は、充の店で一緒に働いていたが、店が潰れてからは中華料理店の雇われ店長として鍋を振る。味に関してのプライドが人一倍高い充は、柳沢の店の味付けにも度々口を出して絡むが、充が唯一心を許せる相手は自分しかいないと自覚している柳沢は、そんな充とはしばしば口論しつつも温かく見守っていた。そんな時、充にある大きな仕事が舞い込んだ。依頼人はとある中国人だが…?
画像5 充は中国へと飛んだ。依頼人の名は、ヨウ・セイメイ=楊晴明(笈田ヨシ)。楊の依頼内容はかつて満州国である日本人が作り上げた満漢全席をも凌ぐ民族融合料理である「大日本帝国食菜全席」を再現してほしいというものだった。充はその伝説のフルコースのレシピについて調査を進めるにつれ、満州国に渡ったその料理人について深く知る必要性を感じる。とにかくそのレシピに隠された謎を解き明かすべく、関わった人々を訪れる旅に出た。ここまでが序幕。
画像6 充は楊から宮内省の大膳寮で天皇の料理番をしていた鎌田正太郎(伊川東吾)を紹介される。当時、鎌田は大日本帝国食菜全席の仕事を受けた山形直太朗(西島秀俊)の助手として、共に満州に渡ったとのことだった。この山形直太朗という男の物語を充が追うという形で、物語は舞台を1930年代の満州に移し、満州編として進んでいく。楊(青年期→兼松若人)は鎌田(青年期→西畑大吾)同様に、この時満州に赴いた直太朗の助手として働いた仲間であった。
画像7 大日本帝国食菜全席を天皇来訪時に披露するため、四季折々の豊かな素材を使った108のレシピ考案のために厨房に入り浸り、研究に明け暮れる。楊は直太朗の卓越したスキルや料理人としてのセンス、味の再現力に驚愕し、直太朗の手となり足となって協力する。
画像8 直太朗の妻、千鶴(ちづ=宮崎あおい)も一緒に満州に渡っていた。千鶴は直太朗たちが考案したレシピを一つずつ丁寧に撮影し、写真付きで編集することを提案する。慣れない異国の地での重大任務を担った直太朗にとって、千鶴の存在は大きかった。あおいさん、船を編むとか、こういう良妻賢母的な役もよくハマってます。
画像9 レシピ作りに行き詰まり、思うように仕事が進まないことに苛立つ直太朗は、次第に鎌田や楊に八つ当たりするようになる。自分の才能と腕に絶対的な自信を持つ直太朗は仲間の仕事が許せず、全て一人で抱え込んで精神的に追い込まれる。凡人には理解し難い、天才であるがゆえの孤独である。
画像10 そんな直太朗に千鶴は言う。「周りの人をもっと信じて」と。直太朗は最初は千鶴を突っぱねたが、次第に仲間との関係が改善し、周りの人々の存在が自分を窮地から救ってくれたことに気づき、改めて千鶴に感謝するのである。しかし、直太朗夫妻に悲劇が襲った。
画像11 身篭っていた千鶴は、娘の幸(さち)を出産すると同時に亡くなってしまう。妻が亡くなったその日から、厨房で頑なに仕事を続ける直太朗に対し、「こんな時まで仕事をするのはやめたらどうだ?」と周囲の人間は彼を非難した。一心不乱にビーフカツを作り続ける直太朗は「妻に結婚を申し込んだ時に作った料理なんだ」と悲しそうに微笑む。仲間と共に妻との思い出のビーフカツを食べるシーンはグッときました。それからは妻の忘れ形見の幸を、周囲の信頼できる仲間たちと一生懸命守り育てていく。
画像12 幸が喜ぶ料理を作ろうと工夫を凝らす生活を続けているうちに、直太朗は料理の本来の楽しさを思い出していく。人のために料理を作ることは皆を幸せにする。そのことを実感した直太朗は、人間としてさらに大きく成長していく。
画像13 そして長い歳月をかけ、改良に改良を重ねた大日本帝国食菜全席はいよいよ完成。この映画に出てくる料理がもういちいち美味しそうでたまりません笑。ちなみに料理の監修は服部幸應氏だそうです。
画像14 満州国ハルビン関東軍司令部の三宅少将(竹野内豊)は直太朗の仕事を称賛するとともに、とんでもない謀略を申しつける。天皇に毒を盛って暗殺しろと言うのだ。しかもその罪は全て楊に着せろと。実のところ、鎌田は助手という名目で直太朗を見張るスパイとして送り込まれていたのだが、知らなかったのは直太朗と楊だけで、最初から仕組まれていた計画だった。楊に危険が及ぶことを察知した直太朗は経緯を悟られまいとして心ない言葉で楊を傷つけたフリをして、仕事場から楊を追い出して逃がす。
画像15 大日本帝国食菜全席のレシピが国家に悪用されることがないよう、直太朗は楊にレシピを託し、偽のレシピを三宅少将の前で燃やして見せる。三宅の指示に背いた直太朗は罪を1人で被り、処刑されてしまう。
画像16 直太朗のおかげで関東軍司令部の手から逃れ、命を救われた楊は中国料理界の重鎮となっていた。直太朗と幻のフルコースにまつわる話の顛末は、楊自信から明かされることとなる。楊は直太朗から託されたレシピを直太朗の娘・幸に渡す。幸はそのレシピで洋食店を開店したが不慮の事故から店が全焼し、幸も命を落としてしまう。その幸の一人息子が充だったのである。つまり、自分は直太朗の孫であり、その麒麟の舌を受け継いでいる。充が解明した謎は、実は70年の時を越えて繋がる一つの家族のストーリーだった。
画像17 実はこのレシピの謎解きは料理に対する情熱を失った充を心配した柳沢が仕組んだもので、充以外はみんな知っていた。柳沢が充に「すずらん園には行ったか?園長に会いに行けよ。」と度々促していたのは、園長が直太朗から幸に引き継がれたレシピを充に渡すために大切に持っていたからだった。祖父が母へ、母が充へ残した想いを途切れさせてはならない。園長は充に会って直接伝えたかったが叶わず、手紙にそう書き遺して亡くなったのだ。
画像18 レシピの最後には母である幸が充の大好物のカツサンドのレシピを書き遺していた。そのカツサンドを食べながら「美味いなあ、うめぇ!!」と言って涙ぐむニノのこの顔!序盤は心を閉ざして不服そうな顔ばかりの充の心象を表す抑えた演技でパッとしなかったニノでしたが、最後に家族の温かさと人の優しさを再認識し、心を取り戻す充を表した演技はさすがニノ!と思いましたね。カツサンド食べたくなり、ソッコー買いに行きました笑。ご馳走様でした!

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