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0104:ヒナギク

日が沈んで少し経った頃。私は空を見上げていた。

辺りは暗さに包まれているが、空にはまだうっすらと雲が見えている。夜がやってくるまであともう少し。そうかと思えば、雲よりもっと高いところにはキラキラと瞬く星が輝いている。

どうしたらいい?自分はどうしたい?

何もかもに行き詰まりを感じ、頭でそう考えてはみるものの、結局答えなど見つからない。

そんな時に見上げた空だった。

上京し、憧れた業界での就職が決まったものの、実力重視の世界は思っていたよりも厳しかった。上には上がいると毎日のように思い知らされる。勢いのあったあの頃の自分はどこへ行ってしまったのだろうかと思うくらい、今のわたしに自信など微塵も残ってはいなかった。

小さな光は、周りを取り囲む眩しい光の数々に一瞬で呑み込まれ、見えなくなってしまう。

私は数日の有給休暇をもらい、友人の結婚式に出席する為に地元を訪れた。建物や人がひしめきあっている東京とは違い、田舎は時が止まっているかのように静かだ。

ボタンひとつで声が聞け、顔も見れる時代なのだから無理もないが、気付けばもう1年近くも実家に顔を見せていなかった。

1年の月日が流れているというのに、ここは何ひとつ変わっていない。変わったとすれば、せいぜいが新しい家が数軒建ったか、昔からやっているお店がいくつか店を畳んだ程度だろう。

私は馴染みの公園の、馴染みのベンチに腰掛け空を見上げた。1月の冷たい空気が、肌に突き刺さる。

___星を見たのはいつぶりだろう。

私はスーッと大きく息を吸い込むと、深く、深く深呼吸をした。先程まで自分の肌を突き刺していた空気は、肺に入った途端心地さに変わっていく。穢れのない、透き通った空気が身体中に染み渡っていった。

私は右手をゆっくりと、空に向かって伸ばした。雲の上の、小さく輝く星を掴みにいくように。

自分の目からいつのまにか涙が溢れていることに気付き、伸ばした手で頬を拭う。私は、前にもここで泣いたことがあった。上京を反対した母と大喧嘩し、家を飛び出した私が座っていたのもこの場所だったのだ。

根拠のない自信に満ち溢れ、東京で働くことを夢見たあの頃の自分が思い出される。希望を胸に、純粋に自分の可能性を信じていたあの頃の自分が。

溢れる涙が止まることはなかったが、私からは笑みがこぼれる。

変わっていないのは、私も同じだな。

そう思うと、途端に全てが馬鹿馬鹿しくなった。心の中のモヤに覆い尽くされていただけで、私の答えなんて最初から決まっていたのだ。

明けない夜のように闇の広がっていた私の心の中に、ようやくひと筋の光が差し込んだような気がした。

夜明けはきっと、やってくる。

***

■ 雛菊

平和 / 希望 / 純潔

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