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感性を高めれば、違った世界が見えるかもしれない

「月が綺麗ですね」なんて、実際に言われたいとは思わないけれど、私はこういった日本語の表現がたまらなく好きだ。

「私にとって月はずっと綺麗でしたよ」なんて、上手にお返事する言葉すら私には思いつきはしないけれど、そんな言葉を返せる人に実は凄く憧れる。

わたしが好きな音楽家TAKUYA∞さんも、とにかくそういった表現力に長けている。

「I love you」を好む人には、もしかしたらもどかしくも感じるのかもしれないけれど、彼の紡ぎだす素敵な言葉たちに、私はいつも心を奪われる。

まだ眠れないのは
もう君が既に夢の中にいるから
【IDEAL REALITY】

お分かりかもしれないが、これは夏目漱石にみられた比喩表現とは全く違う。もちろん、ただのロマンチックな言葉かというと、それも違う。

この詞に用いられている撞着語法と呼ばれる表現は、通常は互いに矛盾していると考えられる複数の表現を、そうであるかのように語る修辞技法のひとつだ。

簡単に言えば、「生ける屍」や「公然の秘密」など、本来矛盾している事柄をひとつの言葉として表現したものである。

この曲の「IDEAL REALITY」という題名も、「理想」と「現実」という矛盾する単語が続けて並べられているところが面白い。

この表現は、印象深いキャッチコピーを作りたい時などにもよく用いられる表現方法らしいのだが、4分間という時間の中にうまく組み込まれるその言葉たちは、まるで小説のように、物語の広がりを想像させる。

君の心を照らそうとして
真夜中の太陽になろうとした
【AWAYOKUBA-斬る-】

あなたは、このフレーズからどんな物語を思い浮かべるだろうか。

実際には、わずか10秒足らずの足早に過ぎていく言葉であるのに、どうしてもその先にある次の言葉や、物語を知りたくはならないだろうか。

もちろん、ひとつの曲であるので物語ではないのだが、わたしは、彼の書く詞は小説のようだと感じることがよくある。

この歌は、こう続いていく。

手をのばせば触れられるくらい
近くに居るのに全ては知れない

なるほど、だから「真夜中の太陽」なのかと、私はその言葉の奥深さを感じた。

たったひとつの言葉の表現がきっかけとなって、サウンドだけではなく、これからこの曲がどう展開されていくのだろうかという、物語(メッセージ)に、私はつい、興味を惹かれてしまうのだ。

他のアーティストで言えば、昨年ヒットした、あいみょんの『マリーゴールド』なんかも、聴き手に想像させる物語性があるような気がしている。

麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる

「麦わら帽子を被った君」を「マリーゴールド」に例えたこの比喩表現。この比喩表現だけでも十分素敵なのだが、私の場合は、この曲の「マリーゴールド」自体が「太陽」を表現する比喩なのではないかと考えたりする。

聴き手によって捉え方が変わる歌かもしれないと、作詞をした彼女自身が話しているように、日本語というのは、表現ひとつで色んな意味を想像させる事が可能となる。

若者の間で、歌詞に物語性のある昭和の楽曲が最近人気となってきていると聞くが、全体を通して反復的に同じ言葉が繰り返されるだけの歌や、どこかで聞いたような言葉を並べた深みのない詞に、皆どこか物足りなさを感じ始めてきているからではないだろうか。

私たちは別に、歌詞で聴く曲を選んでいる訳ではないはずだけれど、日本人の中でも英語の歌詞を使うアーティストが人気だったり、無意識に洋楽をカッコいいと思ってしまうのは、もしかしたらそんな理由もあるのかもしれない。

少し話が外れてしまったが、そんなわけで、高い感性を持った人の表現からは、様々なことを感じ取る事が出来る。

だから私は、こういう日本語の表現が好きだ。

こんな素敵な言葉を受け取れるよう、受け手の私自身も感性を高めていきながら、今後も心の感覚で、素敵な言葉の世界を楽しんでいきたい。

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