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0106:マンサク

それは、とある朝のことだった。

時刻は6:00。「早く起きて!」というその声で、閉じていた眼をうっすら開ける。せっかくの休日だというのに、そんなことは彼には全く関係がないようだ。

目の前には防寒具に身を包んだ彼の姿。子供なら可愛いのだろうが、いい大人が朝っぱらからなんなのだろう…。数年前、サプライズ好きの彼は私に内緒でカマクラを作っていたことがあった。今年は雪だるまでも作ったのだろうか。

今朝はひどく冷え込んでいるらしく、布団から出るのが躊躇われた。まだボーッとする頭を働かせ、私はのそのそと布団を出る。私のノロノロ運転が待ちきれないのか、彼はベッドから降りた私の背後から両肩に手を添えると、その肩を押して私を窓へと向かわせた。

不自然に閉められたカーテン。

窓の前に到着すると、「いくよっ!」と言いながら彼は思いっきりカーテンを開け放つ。

私は驚いたリアクションをとろうと、必死に対象の雪だるまを探した。だが、どれだけ窓の下を探してもそれらしきものは見当たらない。

あれ…?

と思ったその時、耳元で彼が囁いた。

「下じゃない、上を見て。」

私は視線を上へと移す。

わあ…!

その瞬間、私からは意図せず声が溢れた。

目の前にはキラキラと輝く細氷。それは、これまで見た中でも1番美しいと感じた。

まるで、ウエディングドレスを見に纏った花嫁がダンスを踊っているかのようだ。キラキラ、クルクルと優雅に舞い続けるそれから、私は目を離せない。

「本物のダイヤモンドみたい。」

私は彼に話かける。

「そうだろ?僕もそう思ったんだ。でもほら、どっちが綺麗??」

私の視界が、彼の左手で遮られた。

薬指の第一関節には、小さく輝くダイヤモンド。

指輪なんて、いつの間に用意していたのだろうか。突拍子もない彼の行動に、私は笑顔をこぼす。

「ちょっと、貴方がつけてどうするのよ。」

そう言いながら、私はゆっくりと自分の左手を重ねた。

彼は指輪を私の指へと付け替える。

「凄く綺麗。」

今度は自分の指先で輝くダイヤモンドに目を奪われる。そんな私の額に、彼は優しく口づけを落とした。

本当はロマンチックな夜のプロポーズに憧れていたけれど、朝からこんなにも幸せな気持ちになれるのだから、これはこれで悪くない。

でも、プロポーズの言葉だけは後でちゃんと言ってもらおう。そんな事を考えながら、私は思いっきり彼の身体を抱きしめた。

***

■ 満作
ひらめき / 神秘

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