ねえ、このさけ、ぼくがすきなのとちがうよ。 ぼくがすきなやつには、「フレーク」なんてかいてなかったよ。 そうだね。いつものさけフレークは品切れだったの。 漫画みたいにほっぺを膨らませている5歳児は、いつもの鮭フレークじゃないことに怒っている。 私のおなかの中で、細胞分裂を重ねてうまれた生命体が あのふにゃふにゃで首もすわっていなかった生命体が さけフレークが気に入らないと怒っている。 人間の成長はすごい。 もう世界は終わりです。 ただしひとつだけ、あなたにと
朝、園についたら、カオナシがいた。 大喜びの子どもと教室へ向かうと、今度はドラキュラとピーチ姫が踊っていた。 私が子どものころにはなかった、ハロウィン。 ママ、かぼちゃのスープをつくってよ。 かぼちゃはいつもたべないけど、きょうはとくべつ。 だって、ハロウィンだから。 いつもは苦手な写真を、今日はたくさん撮るよ。 きっと、未来の私は、写真を見て涙を流すだろうから。 今日のきみを思って。 (209文字)
じゅわじゅわ。 網の上で、脂がしたたる。 さっきまで赤かったお肉が、綺麗な焼き色になってきた。 すこーしずつ、網の模様が、肉に刻まれる。 美しい正方形。 香ばしいにおい、白い煙。 もうすぐ食べ頃だね。 あ、それ、私が食べたかったの。 と思ったときには、もう網の上は空っぽ。 心にぽっかり穴があく。 でも、表情は変えない。 それ、食べたかったなんて言えない。そんなずうずうしいことは。 頭の中で計算する。 お皿の上のお肉は8枚。4人だから1人当たり2枚。
キーンコーン、カーンコーン。 教室のドアを開けると、そこには無数の顔があって、楽しそうに笑ってる。 何が楽しいのだろう。 毎日笑って、あんなに楽しそうに駆け回って。よくわからない。 教科書に書いていることは、何一つ面白くない。 塩酸と水酸化ナトリウム水溶液が混ざって食塩水になることの、何が大切なのだろう。 休み時間になぜ、一人でトイレにいけないの。 早くここから抜け出したい。 家に帰ったらトマトがあった。 赤くて、つやつやに光って。成功の象徴みたいだと思った
我が家の定番の卵料理。それはスクランブルエッグだった。 卵3個をボウルに割入れ、菜箸でとく。良く混ざったら熱したフライパンに卵を流し込む。 買ったばかりのテフロン加工のフライパンは、油をひかずとも、焦げ付くことはないだろう。そもそも太りやすい家系なんだから、油は控えなくてはならない。 ジュージュー。ジュージュー。 ほどよく火が通ったら、フライパンの中をぐるぐるかき混ぜる。 おいしそうに湯気が立ちのぼる。黄色い、そしてところどころ白い、柔らかそうなスクランブルエッグ。