コンサルティングファームの稼ぐ力のばらつきの理由とは?
コンサルティングファームの成長性や収益性はバラバラ
コンサルティング業務において、クライアントの財務分析は頻繁に行われますが、コンサルティング各社の、そして自社の財務状況を十分に理解していないコンサルタントも少なくありません。
非上場のコンサルティングファームは財務状況を公開していませんが、上場企業のファームでは決算で詳細な財務状況が確認できます。
例えば、ムービンは2022年時点のコンサルティングファームの業績を一覧でまとめており、売上や営業利益率など、主要な財務指標を見てもファームごとの成長率や利益率に大きな差があることが分かります。
コンサルティングファーム 売上高・業績ランキング|転職サービスのムービン (movin.co.jp)
その差は何に起因しているのでしょうか?ここでは、稼ぐ力を示す営業利益率について掘り下げて考えてみます。
営業利益率はどう決まる?
営業利益率は「売上総利益率」と「販管費率」によって決まります。基本的な計算式は以下の通りです。
営業利益=売上高-売上原価-販管費
つまり、営業利益率は次のように表されます。
営業利益率=100%-売上原価率-販管費率
=売上総利益率(粗利率)-販管費率
このように、コンサルティングファームの稼ぐ力は「売上総利益率」と「販管費率」の2つの要素によって決まります。
売上総利益率を左右する要因
売上総利益率は、コンサルティングサービスでどれだけの粗利を得ているかを示す指標です。高い粗利が得られるファームは、コンサルタントを高価格で売ることができています。高く売れる理由として、まず挙げられるのが「ブランド力」です。ファームの実績と信頼によるブランドがあるからこそ、高い価格設定が可能になるのです。
次に「稼働率」が重要です。コンサルタントの人件費が売上原価に含まれるため、稼働率が下がると売上総利益率も低下します。
また、給与以外の魅力でコンサルタントを惹きつけることも、売上原価を抑え、売上総利益率を高める観点から効果的です。働きやすい環境や福利厚生、魅力的なクライアント・案件の存在などが、間接的に売上総利益率を高める要因となります。
販管費率を左右する要因
販管費には、役員報酬、バックオフィススタッフの人件費、採用費、オフィスの家賃、広告宣伝費など、多岐にわたるコストが含まれます。
これらの支出は、企業運営に不可欠なものである一方、販管費をどれだけかけるかはファームごとの経営判断に委ねられています。例えば、役員報酬が業界平均を大きく超えている場合や、オフィスが一等地に構えられている場合、また採用に多額のリソースを割いている企業では、販管費率が自然と高まります。特に採用費は、コンサルティング業界では人材獲得競争が激化しているため、外部のエージェントを活用することが多く、エージェントフィーが積み重なると販管費が大きく膨らむ要因の一つです。
さらに、広告宣伝費も販管費に大きく影響します。ファームの知名度向上やブランド力強化を目的とした大規模な広告キャンペーンは、一時的にはクライアント獲得に寄与するものの、同時に販管費を押し上げる要因となります。特に新興ファームや規模の小さいファームにとっては、広告宣伝への投資が命運を握るため、この費用をどう最適化するかが重要です。
ただし、販管費が低ければ必ずしも良いというわけではありません。経営陣がしっかりとしたコーポレートガバナンスを確立し、無駄なコストを抑えつつ、必要な部分には適切な投資を行うバランス感覚が求められます。ガバナンスが甘いと、徐々に無駄なコストが積み重なり、最終的には利益を圧迫することになるため、長期的な企業の健全性を確保するためには、販管費の適切なマネジメントが不可欠です。
各社の営業利益率の違い
実際に各社の決算を確認すると、売上総利益率や販管費率には大きなばらつきが見られます。まず、営業利益率が最も高いベイカレントコンサルティングのケースを見てみましょう。
ベイカレントコンサルティング(2024年2月期)
売上高:939億円
売上原価:426億円
売上総利益:513億円(売上総利益率:55%)
販管費:170億円(販管費率:18%)
営業利益:342億円(営業利益率:36%)
ベイカレントの特徴は、売上総利益率が非常に高く、販管費率を低く抑えている点です。この2つの要因により、同社は36%という驚異的な営業利益率を実現しています。
次に、中小企業向けのコンサルティングを展開している船井総研ホールディングスのケースを見てみます。同社もベイカレントほどではありませんが、業界内で高い営業利益率を誇っています。
船井総研ホールディングス(2023年12月期)
売上高:282億円
売上原価:175億円
売上総利益:107億円(売上総利益率:38%)
販管費:35億円(販管費率:12%)
営業利益:72億円(営業利益率:26%)
船井総研の売上総利益率はベイカレントに比べて低く、これは中小企業向けコンサルティング市場では価格感度が高いため、粗利を多く乗せにくいことが要因と考えられます。しかし、販管費率が12%と非常に低く抑えられており、この厳しい市場環境でも堅実な経営が行われていることが伺えます。粗利が出にくい状況の中で、効率的な経営管理を行い、販管費を最小化することで、しっかりと利益を確保しているのです。
最後に、近年赤字に陥っているプロレドパートナーズの状況を取り上げます。新興系のファームである同社は、近年業績が不調です。
プロレドパートナーズ(2023年10月期)
売上高:27億円
売上原価:20億円
売上総利益:8億円(売上総利益率:28%)
販管費:11億円(販管費率:41%)
営業利益:▲4億円(営業利益率:▲14%)
プロレドパートナーズの赤字の主因は、売上総利益率が低いことに加え、販管費率が41%と非常に高いことです。2021年10月期までは黒字だったものの、2022年以降赤字に転落していることから、継続的な案件確保が難しくなり、売上が損益分岐点を下回ったことが背景にあると推測されます。
以上、本稿ではコンサルティングファームの「稼ぐ力」の要因をみてきました。上場しているコンサルティングファームにこれから入社することを考えている人は、このあたりの財務状況も確認することが望ましいでしょう。
なお、PLだけでなく、BSも各社様々です。資本回転率(売上高÷総資産)も相当なばらつきがあります。
興味ある方は各社の決算をみて、さらに深掘りしてみてください。