ドイツ人と「進撃の巨人」の話をしたら、ちょっと気まずくなった。
「エルディア人の腕章は、昔のJewsみたいです。」
授業前のアイスブレイクで、ドイツ人生徒さんにそう言われました。
わたしは戦争の時代には生きていない、ドイツ人でも、ユダヤ人(=Jews)でもない。そんな第三者の私としては、進撃の巨人は「好きなアニメ」という存在でしかありませんでした。でも、ドイツ人の彼にとっては違いました。
私は少し前にファイナルシーズンが公開されたのを機に、進撃の巨人を見返していました。歴史的要素を想像させたり、ダークな要素を持っていて、個人的にはとても惹きつけられるんですよね。
「ドイツのネルトリンゲンは、エレンたちが当初住んでいた場所にそっくりなんですよ。」
そう話したところ、冒頭の言葉を投げかけられました。
ドイツ人がマーレ人とか、エルディア人がユダヤ人とか言っているわけではないにも関わらずです。私はただ、地形の話をしたかっただけ。
「作者の方はこの作品は特定の国や民族を指すものではないと話しているようですよ」と補足はしましたが、そんな言葉は耳にすら入れてもらえませんでした。
一応物語の内容に触れておくと、
巨人になれる人種=エレンをはじめとしたエルディア人は悪魔の民族
とされ、エルディア人は壁外人類から長年差別されてきました。これは、差別され、迫害を受けてきたユダヤ人と重なります。パラディ島にある大きな壁や、マーレにあるエルディア人居住区は、ユダヤ人強制居住区の「ゲットー / ghetto」を想像させます。これはヨーロッパに住んでいれば、よく見かける比較的身近なものです。エレンの父や、ガビ、ライナーがつけていた腕章や、星のマークもそうです。ダビデの星を想起せずにはいられません。そして、エルディア人を懐柔し「悪魔の血」を根絶しようと試みるマーレ人は昔のナチを想起させます。また、パラディ島内の建築は昔のヨーロッパらしい木組み様式が採用されています。これも大事な要素だと思います。
進撃の巨人自体が差別的な作品だ、ということを言いたいわけではありません。これだけユダヤ・ナチスを想起させ、民族問題にまで踏み込んでいるようなアニメを、ただの"面白いコンテンツ"として消化してしまっていた自分にゾッとしたのです。ちょっとグロくて戦闘シーンがかっこいいだけの作品ではありません。進撃の巨人はただのエンタメとして扱われるべきではないと思うのです。ドイツ人の彼のやるせなさそうな表情を見てそう思いました。
もし私と同じように、遠い国のことだから、白黒写真の時代のちょっと昔のことだから、と言って怖いもの見たさで作品を楽しむ人がいたら、もうそれはやめにしませんか。日本は平和な国です。だから、日本にいると世界の暗い過去と直面することは少ないです。進撃の巨人は、もっと世界のこと、ナチ・ユダヤの歴史、ホロコーストについて知る糸口になるべきだと思います。私たちはもっと知るべきなんだな、と思いました。
かなり真面目な話になりましたが、こういった異なる考え方に触れられるのも日本語教師の醍醐味だと思います。ここまで読んでいただき、ありがとうございました😊
📷カバー写真
チェコ・プラハのブルタバ川にて🇨🇿
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