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神社や地域が抱える課題-フィールドワークの現場から-

はじめに


私は民俗芸能に関する研究を長年続けており、現在は複数の大学で民俗学を教えながら、武蔵一宮氷川神社の公式Instagramで神社や地域の歴史を発信する取り組みを行っている。

世界の情勢が刻々と変化し、日本における文化財の観光活用についても変革が迫られている今、神道をはじめ日本の信仰が育んだ文化資源のためにできることは何か。
自分なりに地域と複数年かけて取り組んでいる想いや内容を、あっぱれのnoteの場を借りて報告していきたい。

文化資源と信仰


日本の観光に文化資源の存在が不可欠なのは言うまでもないが、日本が誇る文化財は有形のもの(史跡や美術工芸品等)と無形のもの(風習や伝統技術等)がある。

有形・無形を問わず、これらの文化財は地域の祭礼文化と強く結びついており、地域で活動する中でも、そのように感じる場面は多い。

祭礼である以上、そこには信仰がある。
――つまり、文化財を扱う人間は、文化財を支えている地域の信仰への理解が必要であると言える。

日本の宗教法人数1位は


日本には、固有の宗教である神道や、アイヌや琉球の信仰など、多くの信仰が存在する。

時に日本人は、自らの国のことを指して「無宗教の国」と認識しがちなことがある。
日本人の7割以上が信仰や信心を持っていないと公言したというデータもそれを裏付けている(統計数理研究所「国民性調査」2013年)。

しかし、文化庁「我が国の社寺教会等単位宗教法人数」(令和 3 年 12 月 31 日現在)によるとその総数は179,558法人あり、さらには「単位宗教法人(神社、寺院、教会のような境内建物(法第3条)を有する宗教法人)」(※1)の分類を見ると、神道系と仏教系で大半を占めている。具体的には、神道系は 84,316 法人(全体の47.0%)、仏教系は 76,774 法人(42・8%)、キリスト教系は 4,765法人(2・7%)その他…である。

決して無宗教の国ではない。

その日本で最も法人数が多いのは神道系である。

神道を取り巻く環境


その神道系であっても、信者は減少している。たとえば昭和63年(1988)は9617万7763人いた信者が令和元年(2019)には8009万2601人に減少した(参考:文化庁『宗教年鑑』)。
仏教系は同期間に8666万8685人から4724万4548人と半数近く減少しているため、仏教よりは減少率は低いが、日本固有の宗教である神道でも減少が起きていることは事実である。

『宗教年鑑』を信じる限り、そもそも宗教人口のピークは平成の初め頃だった。そしてその後神道も仏教も減少傾向に転じてゆく。1995年に起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件の影響は大きいのは事実だが、であるとしても日本固有の宗教である神道もが減少しているのだ。

さらに、2013年から2022年にわたる10年間の神社登録件数(※2)を俯瞰すると、神社の減少に歯止めがかからない様子が分かる。2013年から2019年までは平均約150件ずつ減少していたが、コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、2020年〜2022年の平均減少数は約180件を記録しているのだ。

神社・地域の課題


神道の信仰に基づく祭祀施設である神社でも、少子高齢化社会の影響を受けており、以下のように主にヒトとカネに関する複数の課題が問われだしている。

・後継者の不足
・氏子など祭礼を支える関係者の減少(無形民俗文化財)
・収入源の減少
・建築物や山車などの老朽化(有形民俗文化財)


神社の収入源は、主なもので祈祷料や賽銭などがある。祈祷料は、冠婚葬祭で神社による祭祀祈祷やお祓いを実施した際の神社への奉納金だ。
このほか、神社は地域の住民のサポートを受けて運営維持されるため、地域住民から神社維持費として氏子費用を町内会費と同じように徴収していることがある。

しかし、現代の日本は人口減少や少子高齢化の真っただ中にいる。収入も、後継者も、関係者も、当然減少する。経営が厳しくなれば、当然の社殿や山車の手入れにかける費用も不足する。

国や県、あるいは市町村から文化財指定を受けている神社ならまだしも、多くは文化財指定を受けてはおらず、かつ後継者不足から実際には活動をできていない神社(不活動神社)も増えている。

その結果、1人のご神職が地域の複数の不活動神社の担当となり、神事を執り行っているのが今の日本の現状である。

課題解決に向けた取り組み


このような慢性的な課題に対し、現状どのような対策が行われているのだろうか?
近年、神社の収入の一助としても脚光を浴びているものに「御朱印」がある。地域ごと、神社ごとに御朱印や御朱印帳に特徴があることから、神社への御参りや神社巡りをする際の楽しみの一つとして定着しつつある。

また、社殿や山車の修繕のためにクラウドファウンディングを実施する神社もある。2023年には、鳥取県が誇る国指定重要文化財・大神山神社奥宮のためにクラウドファウンディングが実施され修繕費1800万円(※3)が集まった。
修繕のために神社が必要としている金額は1億1千万円だというが、総額は集まらずとも1800万円もの金額が集まったことは、「(自分には)神社が大切である」という人たちが日本に少なからずいることの証である。

クラウドファンディングについては、文化資源の大規模修繕や、レスキュー事業において有効であるものの、継続性については難易度の高さが指摘されている。
 
継続性のあるマネタイズ施策が必要という認識はあっても、御朱印帳に続く商品開発や、祭礼の公開方法や価格設定の見直しなど、実際に実行に移す上でも課題は多々ある。
 
課題は見えていても、いかに取り組むか。
神社だけでなく、日本の地域全体に問われている。


※1:宗教法人は,大きく分けると教派・宗派・教団などといわれる「包括宗教法人」とそれら以外の「単位宗教法人」に分かれ、単位宗教法人には包括宗教法人に属する「被包括宗教法人」と、どの包括宗教法人にも属さない「単立宗教法人」がある。
【参考資料】
文化庁「令和4年の宗教統計調査の結果」
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/shukyo_nenkan/pdf/r04nenkan_gaiyo.pdf

※2【参考資料】
NTTタウンページ株式会社「タウンページデータベース」(NTT東日本・NTT西日本)
https://www.ntttp-db.com/post/ranking021

※3【参考資料】
https://readyfor.jp/projects/oogamiyama
「神社離れ」「氏子の減少」社殿の屋根は老朽化でボロボロに…国指定重要文化財・大神山神社奥宮が苦境に
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/890337?page=4



著者プロフィール
山崎敬子

1976年生まれ。実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。
三隅治雄・西角井正大先生の下で折口信夫の民俗学を学ぶ。
2012~2020年の間、小田原市の町おこし会社で地域活性事業に取り組み、現在、学習院大学さくらアカデミー講師(民俗芸能論)、玉川大学芸術学部演劇・舞踊学科非常勤講師(民俗学入門)、(一社)鬼ごっこ協会・鬼ごっこ総合研究所客員研究員、日本サンボ連盟理事など。

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