昨年から進行しているプロジェクト"Foojin'Z"とはどういったものなのか?
宇津木です。
世界的に新型コロナウイルスが蔓延し、日本にも第2波と思わせる状況が続いている。2020年の正月には誰も想像できなかった事象が、世界の各地で起こっているのが現実だ。しかしこの先も人々が生活していく中では経済活動を止めるわけにはいかず、少なくともこの先数年はウイズコロナ時代の生活様式に、自分自身をアダプトさせることが求められるはずだ。
実際働き方や周囲を取り巻く環境が刻々と変化する状況で、ついに俺も今月50の大台を迎える。このように世界が大変革の真っ最中であろうと、時間の流れだけは普段通りに進行する。当然足掻いてみても無駄なのも分かっているので、これを機に自身の考えや気になったトピックをマイペースで書いていこうと思った。初回は普通、自己紹介的なところから書くのだろうが、それはまたの機会にするとして、今自身が最も力を注いでいることについて書こうと思う。
フラッグシップ”Foojin’Z”
昨年から進行しているプロジェクトがここに来て大きく完成に近づいている。5世代目となるFoojin’Z(フウジンゼータ)だ。
初代Foojin’Zの初リリースが2003年なので、18年前ということになる。現行で販売されているシーバスロッドの中では、おそらく3本の指に入る長寿シリーズだろう。ちなみに弊社では各世代のゼータにそれぞれ呼び名がついている。
1)初代ゼータ:2003年発売
2)ALL NEWゼータ:40t高弾性カーボン(当時)採用。2006年発売
3)クワトロゼータ:APIAで初の4軸カーボン搭載。2010年発売
4)AGSゼータ:フル4軸ブランク+AGSガイド搭載。2013年発売
では5代目ゼータは何と呼んでいるか?実はまだ決まっていない。
当然ながらコンセプトやプロダクトゴールはしっかりと固まっており、アイテムによっては98%、それ以外もほとんどのアイテムが90%以上のところまで進んでいる。
だから5代目ゼータにまだ呼び名はなくても気にはならない。これからゆっくりと考えることにする。
5代目ゼータのコンセプトとは何か?
今回はブランクにとことんこだわった!と言いたいところだが、そんなことは当たり前なので一言で表すにはうまい言葉がすぐに浮かばない。ただ実行したことは自分の常識を疑い、まず一旦クリアにすること。そして一つ一つ積み上げていく作業である。
アピアでは東レのプリプレグを使っている。ここで少しブランク素材のカーボンについて触れたい。プリプレグとはいわゆるカーボンシートのことで、複数のカーボンシートを巻いて焼成し、ブランクが出来上がる。問題はどういうカーボンシートを使うかだ。よく釣竿の素材で30tカーボンとか40tカーボンとか聞いたことがあると思うが、これはシートのことではなく炭素繊維(カーボンの糸)の弾性率を示す。カーボンシートは炭素繊維と、それを繋ぐ樹脂(レジン)で構成する。
問題はここだ。
ブレイクスルーし続ける東レカーボン”TORAYCA”
開発スタートにあたり、新しいインプットを求め東レ本社の勉強会に参加させてもらうことにした。
東レは素材の研究・技術開発(R&D)をおこなっており、カーボンでは世界のトップシェアを誇る会社だ。カーボン素材は用途としても幅広く、日進月歩の先端技術である。
釣具やゴルフ、テニスなどのスポーツ用途から、ロケットや旅客機などの航空宇宙用途、車やF1、生活用途など実に幅広く使われている。
では技術革新された最新のカーボン素材がいち早く投入されるのは、これら様々な用途の中でどの分野だと思います?
実は意外に思われるかもしれないが、我々の釣具業界はいち早く投入される分野なのだ。
逆に旅客機のように、安全が最も重視される分野は、釣りやその他業界が使用した膨大なデータを元に技術革新を重ね、20年とかの時を経てようやくボーイング787のように実用化される。
東レ内ではすさまじい勢いで技術革新が進んでおり、それらを自身にインプットしていく。プリプレグの特性、現場のアンバサダーの声、それらをスクリーニングすることで、5代目ゼータの大まかな設計図が出来上がっていった。
それにしても毎回思うのだが、炭素繊維のような強くて軽い素材の研究開発は、かなり限界まで来ているのではないかと思う。だが東レ担当者の話では、まだ理論強度のごくわずかしか実現できていないという。カーボン素材にはこの先、まだまだブレイクスルーされる可能性があるとのことで、実に楽しみである。そのうち10ftの長さで、100gのルアーをフルキャスト、そして自重100g以下。そんなロッドが当たり前のような時代が来るのかもしれない。
そして現在、TORYACAの最新素材は第3世代と言われるカーボンの実用化が始まっている。「M40X」と「T1100G」というカーボン繊維を使用したプリプレグである。それぞれの弾性率は「M40X」が40t、「T1100G」は33tとなる。レジンは両方ナノアロイ樹脂を使用している。すでにチラホラとこれらの素材を搭載し始めている機種も目にするが、これらの特性や向き不向きを理解したうえで搭載すると、強烈な武器となる。
東レの勉強会は本当に面白い。オレは勉強することが習慣化されていないので、気を抜くと簡単に置いていかれる。しかしのめり込む深度と比例するように、ワクワク感もあがっていく。
うん。5代目Foojin’Zはこれらの素材のポテンシャルを、最大限に引き出すようなロッドにしよう。
5代目Foojin’Zのコンセプトは「先端カーボンへの挑戦」である。
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