eモータースポーツのレギュレーションの考え方
どうも、岡田です!
昨日、グランツーリスモ7(GT7)で開催されるeモータースポーツ『e-DGMS(主催:ダイワグループ様)』の2024シリーズ第4戦のエントリー募集がスタートしたのですが、なんと募集開始12分で定員に達し、募集終了となりました。
このイベントは2022年から運営に携わらせていただいており、以降レギュレーション(ルール)制作とレース中の解説、ゲストプレイヤーが操る車両のリバリー(外装カラーリング)を担当させていただいています。
これだけ人気の大会のルールを作らせていただいて、参加者の皆さんがどのように攻略してくるのか、いつも楽しみにして解説させていただいております。
さて今回は、GT7でのレギュレーション作りを題材に、あまり話題にはならない?eモータースポーツのレギュレーション作りにおいて、僕なりの考え方をまとめてみようと思います。
■試すのか?楽しませるのか?
eモータースポーツのルールを作る際、まず最初に考えるのが「試すのか?楽しませるのか?」の配分です。
「試す」というのは、例えば賞金が掛かった大会で、上手な選手を選抜する予選レースだったりする場合で、そういう時はなるべくシンプルなレギュレーションになるようにします。
GT7で言えば、タイヤと燃料の消耗倍率は少なめで、ピット戦略が必要な場合でもなるべく突飛な戦略が考えられないようなものにします。
eモータースポーツはマシンが突然不調になったり、予想だにしない事態で大番狂わせが起こったりなどせず、とにかくイコールコンディションでプレイヤーの腕のみの優劣を見ることが出来る唯一のモータースポーツだと思ってます。
なので、クルマもワンメイク、タイヤ燃料消耗はもはや無し、ノーピットで周回数も少なめ…このようなレギュレーションにすると、とにかくGT7というゲームで車を速く走らせられる(スプリンターな)プレイヤーを焙り出せるレギュレーションになります。
しかし…それじゃ面白く無いんですね。
なのでそこから、開催するイベントのコンセプト・参加者のレベルなどから加味し、雨を降らせてみたり、タイヤ・燃料消耗倍率を増やしてみたり、マシンのレギュレーションの自由度を増やしてみたりして、「楽しませる」比率を上げていきます。
一番「楽しい」状態は「誰が勝つか見当もつかない」状態としてます。
極端に言えば、参加者にランダムにワンメイクじゃない車両を割り当て、天候も変化倍率最大にして雨が降ったり止んだりさせて、戦略も3通りくらい考えられるもので、車両のダメージが入る…ようなレギュレーションです。
ただですね…この要素をあまりにも入れすぎると、凄く「ゲームっぽく」なるのと、大会が終わったあとの後味が悪くなる可能性が増えます(笑)
実車のレースで起こる外的(天気や車両トラブルなど)要因とは違い、eモータースポーツの外的要因は主催が用意するものです。
やろうと思えば車は壊れず消耗せず、天気もずっと晴れにできるのに、わざとそうしない訳ですからね。
参加者の本来の実力を発揮できなかったのが、主催の意図によるもの…という捉え方もできてしまうので、優勝候補者が負けたときの後味は何とも言えない感じになってしまうことも…💦
この「試す」と「楽しませる」の比率を、まずは考えるようにしています。
■消耗に関して
ピットインを必要とするレギュレーションを作る際、GT7やアセットコルサに関してはタイヤ消耗・燃料消費の「倍率」を触ることが多いです。
まず前提として、中途半端に長いeモータースポーツは面白く無いんですね。
10時間とか24時間の耐久で、1台に複数名が乗るような耐久は別の楽しみが出てきますが、基本的に最初と最後が見所となるモータースポーツで、更に突然のトラブルがほぼ起こりえないeモータースポーツ。
1時間ものeレースを最初から最後まで見る人は稀だし、参加してる方もしんどいです。
なのでレースの時間を長くても20分、周回数で言えば10周ほどにまとめながらも、耐久レースを見ているかのようなドラマチックさを生み出そうとするためには、タイヤさんと燃料さんに早く消耗してもらわないといけない訳です。
で、この消耗について。
例えば燃料で、満タン100%スタートで消耗倍率が2倍なのと、半タン50%スタートで消耗倍率が1倍なのとでは、理論上走れる距離は同じです。
ですが、消耗倍率が大きいレース程、走り方や車種、セッティングの違いなどで、消耗進行に差が生まれやすい傾向があります。
なので僕の考え方として、車両がワンメイクで、先の「試すか?楽しませるか?」で「レース運びの上手さ」を試す要素の方が大きいレースでピットイン要素が欲しい…というレースを作る場合、消耗倍率を上げ気味にしで、選手間での差が分かりやすいようにします。
逆に色んな車両が走るレースや、参加する選手のスキルにある程度の差があうことが事前に分かっているようなエンジョイ要素の大きいレースでは、タイヤ消耗倍率は下げ気味にして、駆動方式によるタイヤ消耗の差を薄くして色んな車両に勝機があるようにしたりします。
余談ですがe-DGMSの場合、ここ最近はPP600以内であれば車両のチューニング・セッティングを自由にしていますが、燃料消耗の倍率を高めにしてパワー重視の車がやや不利になるようにしています。
というのも、GT7のPP制レギュって、基本的に車重を増やしてパワーを上げた方がラップタイムは速くなるんですね。
その傾向で参加車両全て、出せるだけパワーを出すセットが定石になってしまうと、せっかくチューニング自由にしてる意味が無くなっちゃうので、バランスを見て燃料倍率は弄るようにしています。
■スリップストリームの効き
GT7、そしてアセットコルサにおいては、先行車両の背後に着くことで空気抵抗を減らしストレートスピードを稼ぐ『スリップストリーム』の効きを調整できます。
GT7ですと「強い」「弱い」「リアル」の3段階で、分かりづらいですが「リアル」は「弱い」よりも効きません。
スリップストリームの効きというと、背後に着いた時の加速度が上がるようなイメージかと思います。
それもあるのですが、スリップストリームが効く「範囲」も段階に応じて変わってきます。
アップデートのバージョンにより変わってるかもしれませんが、GT7ですと「リアル」でおよそ0.75秒差以上で効かなくなり、「弱い」だと1.5秒差くらいまではスリップが効きます。
ここでもはやり、「試す」レースなら「リアル」で逆転の可能性を薄くし、「楽しませる」レースなら混戦を演出させるため「弱い」を選ぶことになります。
(「強い」は流石にブースト並みに効くので、ほぼ選ばないです)
僕は結構、上手い人を集めたレースであっても「弱い」を選ぶ傾向があって、スリップストリームはある程度効きが強いルールの方が「判断を問うレース」になると思っています。
燃料の消耗倍率が大きいレースであれば、単に相手を抜くのではなくスリップで速度を稼いだ分アクセルを抜き、最後まで背後について燃費を稼いだり、タイヤ消耗がカギなレースであればスリップが効く範囲内でタイヤを守ったり、やっぱり前に出る…など、速く走るだけじゃない要素を入れたくなるんですよね(笑)
そういう所でも、レギュレーションを作った人の性格が出る項目かと思います。
■接触について
レギュレーションを作っててあまり楽しくないのが、接触についての裁定や基準を作るところです。
実車とeスポーツで大きく違う所は、裁定を行う方法です。
実車でのペナルティは「ドライブスルーペナルティ」や「ピットストップペナルティ」が主で、事案があってすぐにリプレイ検証が行われ、レース中にその裁定がすぐさま実行されるときに行われます。
だいたいピットロードを制限速度で通過すると30~45秒前後のロスなのですが、コースのピットロードの長さによってまちまちという、よく考えると結構曖昧なペナルティですよね(笑)
で、eスポーツの場合、基本的にゴールした後に裁定を行い、リザルトにタイムを加算してペナルティを執行します。
これはGT7に限らず、アセットコルサもそうなのですが、基本的にレース中にリプレイを見返し裁定する術・時間が無いためにそうなることが多いです。
GT7ですと、レースが終わった後にリプレイをセーブし、そのリプレイを再生してから検証・裁定を行います。
リアルと違い、検証する車両の至る所から見て裁定を決定できるが故に、場合によってはリアルレース以上に裁定に時間がかかることもあります。
その分、「接触でスピンさせられて失った秒数」などをしっかりと計算でき、その秒数をペナルティ対象の車両にタイム加算を行えるので、リアル以上にしっかりとした裁定ができるし、求められます。
iRacingはスタッフがWatchでレース部屋に入り、いつでも巻き戻し自由で、手動でドライブスルーペナルティの指示も出せるのですが、手間・工数や公平さから、同じようにレースが終わってからペナルティというのが主流ですね。
ちなみに、昔とある大会で公式戦仕様のグランツーリスモを使って、ペナルティジャッジのお仕事をさせてもらったこともあるのですが、グランツーリスモ公式戦のペナルティは「ゲーム上に設けられた減速ゾーンで強制減速」という、ゲームならではの執行方法が採られています。
レース中にペナルティをスピーディーに、適切な裁量で執行できる公式戦ならではのシステムですが、コースごとに設定されるペナルティソーンの場所によって、減速が0.5秒でも実質2秒のロスになってたり、逆にロスになってなかったりするので、事前にゾーンで減速してどのくらい影響があるのか知っておかなきゃいけない、難しい仕事でした💦
とまあ色々と、eモータースポーツのレギュレーションを決める側の視点で書いてみましたが、如何でしたでしょうか?
eスポーツならではの、ソフトによって色々と項目が違ってたりするので、専門的な知識も必要ではありますが、リアルレースとは違う、短い時間で手軽でドラマチックなレースを作り出すことも出来るので、結構作る側も楽しいですね。
定員で募集締め切りをしたe-DGMS Rd.4も、ナイトロ(加速装置)を活用した仕掛けのあるレギュレーションにしてみているので、是非8月4日20時20分からの配信を、観る側でも楽しんでいただければと思います!
今回は以上!
岡田