春の日に、「いしのこえ」を聞く
花粉が猛威をふるう季節ですね。外出すると鼻水とくしゃみが止まりません。目もかゆい。そんななか、意を決して「ラッコルタ – 創造素材ラボ- vol.2 成果展 『いしのこえとみかげ』」へ行ってきました。
会場は府中市郷土の森博物館の敷地内にある「旧田中家住宅」。ちょうど「郷土の森 梅まつり」も開催されていて、園内はたくさんの人たちで賑わっていました。常設展や企画展を行う「本館」(プラネタリウムもある!)のほかに、園内には、いくつも移築された建築や梅園、売店などがあり、天気のいい日に散策するのにはちょうどいい場所です。入館料は一般300円、市内在住の方は150円が必要です。
入口から歩いて、園の奥のほうに入っていくと、会場の旧田中家住宅がありました。
和室の会場内には、アートユニットMATHRAX(マスラックス/久世祥三+坂本茉里子)をゲストに迎えたワークショップの成果展示として、2月に参加者とつくった作品と、MATHRAXの作品が展示されていました。
和室なので、膝をついて座り、目の前にある石に触れると不思議な音が鳴ります。音に合わせて照明の色も変化します。隣の石に触れると異なる音と色が現れ、手を動かせば、ゆるやかに音がつながり、和室の空間を漂うような音色が奏でられます。
ワークショップで使った、ひんやりと表面がつるつるとした石は、墓石に使われるもの。府中市には多磨霊園があり、多くの石材店がありますが、そのひとつ(玉川石材工業株式会社)から提供を受けた石を使っています。
地元企業の不要な素材で、創造する
「ラッコルタ - 創造素材ラボ -」は「地元企業から提供された不要な部材を、創造活動に転用する仕組みづくり」として、Artist Collective Fuchu(ACF)が、昨年度から取り組んでいるものです。
今回は、その一環としてアーティストとともに取り組む企画の2回目でした(第1回目の様子は以下のリンク先が詳しい)。
MATHRAXのおふたりが、府中にかかわるようになって「多磨霊園」に関心をもったことや、石をつかった作品をつくられていたことがあり、今回の企画に結びつきました。
今回の展示につながった2月のワークショップでは、石の歴史について話を聞き、自分で好きな石を選ぶことからはじめ、ハンダ付けなどMATHRAXのおふたりに学びながら、参加者が作品づくりにかかわりました。
展示の会場ではワークショップの概要や、参加者が書いたコメントや絵を読むことができますが、なにより作品に触れて、楽しむことで、ワークショップのときの盛りあがりも想像できるのではないかと思います。
生活者の目線から、「まち」を使いこなす
展示会場には、園内を散策していて、たまたまこの企画を見ることになった人たちが多く訪れていました。写真を撮りに、もう一回、訪れた親子連れの姿もありました。梅まつりの賑いは会場を借りたときには予想していませんでしたが、ACFのメンバーにとっては、うれしい誤算になったようです。
狙っていないとはいえ、会場探しが難航するなかで、この場所が候補にあがってきたのは、ACFのメンバーが府中市で暮らす生活者であり、それゆえに地域の情報をたくさん持っていたことも大きいと思います。ACFのミーティングでは、ひとつのアイディアがあると、それを府中の現場に落としこむ無数の情報が出てきます。あの場所がある、あの人がいる、こうやって話をしていくといいのでは……と。今回もそうやってこの場所が見つかりました。
今回、ACFが借りた旧田中邸住宅の部屋は、一般貸出をしているところです。普段はお茶会などに使われるそうで、そのときは一般に公開しない部屋になるそうです。今回は展示という(この部屋としては)ユニークな使い方をしたことで、結果的に園内を散策した人たちがふらっと入れる場所として、ひらかれることになっていました。
展示空間は和室と作品の雰囲気が見事に噛み合うものになっていましたが、思い返せば、ワークショップのときには、話を聞くのに「和室」を使い、作業をするのに「工房」を使うなど、公共の場所の機能や雰囲気を読み解き、企画に使いこなしていたともいえます(付け加えれば、素材の石も、企業への声がけや多磨霊園がある土地柄を読み解くことで出会ったものでした)。
地域の身近にあるものを、生活者の視点から読み解き、文化的な活動に生かしていく。そして、場をつくり、新たな人とのかかわりをひらいていく。それは、東京アートポイント計画が、あえて、まちなかで文化事業を行なっていくことの理由にもつながっているように感じました。