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パン作りは戦いだった

「パンつくりたいねー」

 私に似て食べ物には敏感な我が子たち。
 最近、すこししゃべりが達者になってきた上の子が、ある日、一日中言い続けた。食べものが出てくる絵本をみたり、テレビをみたりして言うことはあったけれど、この日のきっかけはよくわからない。しいて言えば、帰省した旦那の実家で、甥っ子くんが頻繁に「ほれ食えそれ食え」とばかりにパンを焼いてくれたことを覚えていたのかもしれない。心当たりはそれくらいしかなかった。ちなみに美味しかった。

 私も、つくることはやぶさかではない。
 しかし、材料が家にない。強力粉の消費期限が切れていたことに加え、量も調べたパンの作り方に書いてある規定量分はなかった。
 仕方ないので、その日は「パンの材料を買ってくるから明日にしよう」と言ってギリギリ事なきを得たが、それでもずっと「パンつくりたいねー」と言っていた。しつこいぞ(笑)

 本当は子供と買いに行きたかったのだが、最近は下の子の寝かしつけのために昼食後、私が寝室に引っ込むことを覚えた上の子は、その日見事に寝てしまっていた。私は在宅勤務の夫に起こされた。買い物に行きたいから起こして、と言ったので問題はなかったのだが、続く言葉に衝撃を受ける。

「雪降ってんぞ」

 うそやん、と思ったが本当だった。

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 リビングの窓の外にはうっすらとした銀世界。そこに舞い降りる粉雪。うそやん、寝落ちる前は寒さ以外にそんな気配なかったやん。
 しかし、子供のためならばと老骨に鞭打って(?)、とにかくあったかい格好になって家を出た。

 寒い。

 とにかく寒かった。それでも「子供がやりたいって言ってるんだから」と頑張って、必要なものは全部買って家に帰ると

 子供がギャン泣きで起きてた。
 ママがいなかったことに怒る子供にこう言って宥める。

「パンの材料買ってきたからね^^」

「つくる」

「(勘弁してくれ)今日は時間がないから、明日ね」

 別の意味でごねられそうだったが、なんとか納得してくれた。ありがとう。


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 そして翌日。
「パン作る?」と聞くと「作る!! 手洗う!!」と元気なお返事。
 私がボールやら粉やら準備をしている横に立ち、

「まずはっ、ボールと粉を用意します」
「粉を、混ぜますっ(←まだ何もしていない)」
「お砂糖を入れますっ」

 ちなみに、これらのセリフは3歳の子供が自ら編み出しているわけではない。
 お気に入りの番組「グレーテルのかまど」に登場するイケメンがそういうセリフをしゃべっていて、それを真似ているだけである。だけであるが、一部セリフや名詞などを入れ替えていたりするので、子供の言語習得の過程を眺めている気分になる。

 上の子が一生懸命作る気分を盛り上げている横では、ベビーゲートに阻まれてキッチンに入れない下の子が「抱っこ〜〜〜〜〜〜!!」とギャン泣きである。とはいえ、流石に下の子の相手をする余裕はないので、謝りながらも抱っこはしない。

 そんな大騒ぎの横で、私は上の子に材料を見せながら計量し、用意ができたところで本人にボールの中へ投入してもらった。
 本来はスケッパーで混ぜるようであるが、ないのでゴムベラで代用。充分。しかも、上の子は汚れたり濡れたりすることが好きではないので、むしろ持ち手があるため粉で汚れずに済んでよかったのかもしれない。
 この時点でも下の子はギャン泣きしてる。ごめん。

 さて、ある程度生地に粉気がなくなってきたところで練りの工程である。
 すると、子供が踏み台から降りて言った。

「電車のテレビ見る」

 見切りはっや!!
 もちろん、3歳幼児にできる作業だとは思わなかったので私がやるつもりではいたが、一切やりたいとかごねなかった。ちょっとくらいここでごねごねしてもよかったのよ、パンだけに。

 とりあえずご所望の電車のテレビをつけると上の子はテレビにかじりつき、下の子も兄につられてテレビの前に陣取った。
 ここからは私一人の戦いである。

 結論から言えば、「体力がないとパンはこねられない」。
 作り方にはこねる方法と時間が書いてあったが、だいたい10分から15分で薄い膜が作れるくらいには伸びる生地になるはずだった。はずだった。

 ところがどっこい、練って叩いて押しつぶして、15分を過ぎても子供の見ている25分の録画のテレビが終了する頃になっても、一向に膜ができる気配がない。気配がないのもきついが、正直最後の頃には大汗をかいていて、服が若干濡れて、脇あたりなんてぺったり張り付いてた。息も上がった。
 でも、作り方動画で見たような膜はできない。

 この後の予定もある。お昼ご飯の準備もあるし、子供達を外に連れ出して、昨日降った雪でちょこっと遊ばせてあげたいとか思っていた。実はこの練りの工程の後は60分の発酵タイム。大騒ぎはできないけど、そのぐらいの時間で行って帰って来られると思って今日の予定を考えていた。


 私は練ったパン生地をボールにぶっ込み、オーブン機能で発酵させ、子供達を散歩に連れ出した。グルテンが十分できている気はしないが、頑張ったからなんとかなるだろう。
 散歩のために着たダウンコートが、大汗をかいて発熱している体の熱をしっかり貯めてくれたので、ドアを開ける前から顔まで暑かった。寒いはずの外の風が顔に当たって心地よかった。

 子供達は雪に触ると「濡れちゃった」と嫌がった。それぐらい嫌がるな! 私は小さな雪だるまを作ったが、小さ過ぎて子供達にはよくわからなかったようだった。
 それでも、雪を見られたことは嬉しかったようで、散歩の間中ずっと二人で「ゆき♪ ゆき♪」と言っていた。


 家に帰り、再び子供達にはテレビを見せて、私はパン作りの続きと昼食の準備を始めた。正直、かなり怒涛の展開だった。

 まず、発酵が終了したパンをオーブンからとりだし、8等分にした後成形し、ベンチタイムを設ける。
 ベンチタイムの間に昼食の材料を切り、鍋を使い始めたタイミングでベンチタイム終了。そこから再度整形し、2次発酵のためオーブンへ。再び昼食の準備に取り掛かり、2次発酵が終了する頃には昼食は概ね完成しており、煮込んだりしている間に予熱してオーブンに投入。みんなで昼食。
 そうこうしている間にパン完成。オーブンの音を聞いた上の子が言った。

「パンつくる」

「今できたとこや」

「つくりたかった〜〜〜!!」

 混ぜたじゃないか、というツッコミは幼児には通用しない。
 しかし何とかオーブンからパンを出し、冷ます用の網に載せる。

「眠い」

 これが子育てである。無事に昼食と昼寝までにパンが完成したことをひそかに喜び、子供たちと布団に潜った。
 がっつり寝こけた後にパンを見にいけば、この寒さでガッチガチになるまで冷めたパンがあった。

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(パンがひとつないのは私がつまみ食いしたからです)

 温め直して、みんなでおやつに食べる。ふわふわ、とはいかなかったものの、噛むたびに香るパンの匂いがたまらない。

 しかし、パン一つ作るのにこの騒ぎである。
 上の子はよく「つくりたい」ということがあり、この間「大きくなったら何したい?」と聞いたら「りょうりしたい」と答えた。大きくなったら、というところまで織り込んでいるかはわからないが、料理をしたいらしいということが常々伝わってくる。

 この話は年始の出来事であるが、子供を家で大人一人でみている間、こういうことが起こっているという一例にもなると思う。確かに旦那は家にいたものの仕事をしているわけなので、基本的に子供の相手はしていないし、それは仕方ないので文句もない。
 自分で書いておいてなんだが、子供を喜ばせるためには1日ではとても足りず、1日最低限の家事をこなしながら腐心することのいかにややこしいことか。正直パンを焼きながらお昼作っていた時は「これ見て『子供にテレビばっかり見せて』とかいう奴がいたらぶん殴る」と思いながらこなしていた。まあ誰も見てないんだけど。

 そんなことを思いながら自分はヘトヘトになっても、パンを食べていい顔をする子供達を見ると「またやるかあ」とか思ってしまう自分がまたここにいるんですが。

 でも、またこんな戦いになるんだろうなぁ。
 次はいつできるかな。

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