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#ネタバレ 映画「あの頃エッフェル塔の下で」

「あの頃エッフェル塔の下で」
2015年作品
嗚呼グリーンメタリック(あるいはイスに座るときは気をつけよう)
2016/1/11 7:42 by さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

オーディオ好きの私ですが、今まで二回ほど、それが色あせて見えたことがあります。

就職したての二泊三日・合宿研修の夜(今はあるのかな)、海辺の研修所で、壁にもたれて畳に座り、初対面の同期の女性と話に花を咲かせたひと時でした。あの時初めて、この世にはオーディオよりも幸せな事があるのだと知りました。

もう一つは、グアムに行ったときのことです。それはビーチに新しくできたばかりの小さなホテルでした。チェックインして部屋に入ったら、小さなラナイの窓が少し開き、光の中、レースのカーテンが風にゆれ、ベッドサイドのラジオも、女性DJのきれいな声と、楽しそうな音楽を流していました。このシチュエーションはホテルが演出してくれたものです。安宿でしたが、高級ホテルを含め、他では経験した事がありません。少し心細い一人旅には、こんな心づかいが嬉しいですね。

そう言えば、このホテル、シュノーケルを持ってエレベーターに乗ると、偶然乗り合わせた従業員の男性から、「海へ行くのかい。楽しんで!」と笑顔で話しかけられました。

ここでは、もう一つ驚きがありました。ホテルの横に公園のようなスペースがあって、日曜になると、地元の人たちが数十人、大型ラジカセで陽気な音楽をかけながらバーベキュー・パーティーをするのです。おいしそうな匂いも漂ってきました。

私はラナイからそれを眺め、南の島に必要なのはオーディオのうん蓄や、シリアスなジャズやクラシックではないと思ったのでした。もっと言えば、あの時、日本で部屋にこもり、眉間にしわをよせて音を聴いている自分を思いだし“病んでいる”とすら思ったのです。

ところで冒頭の合宿研修の頃、自宅で私の帰りを待っていたステレオアンプは「ONKYO Integra A-755」という中級機のプリメインアンプでした。それは今でもめずらしいグリーンメタリックの塗装がしてあり大好きでした。その色は緑陰のグリーン、海の紺碧であり、日に焼けた彼女でした。もともとオーディオとは、音楽とは、“愛の代償行動”でもありますからね。

実は、映画「あの頃エッフェル塔の下で」で、主人公:ポールが師事した大学の教授が使用していた、今はめずらしいステレオレシーバーが、やはりグリーンメタリックのONKYO製品だったのです。型番までは見えませんでしたが、「ONKYO Integra R-266」に良く似ていました。

国内ではジャンクで探してもほとんど手に入らないのに、今でもかの国では流通しているのでしょうか。あれのグレードアップ版でもONKYOさんにはリバイバル生産してほしいものです。

私のようなオールドマニアには、あのようなスタイルは、懐かしいので、今でも静かな人気があります。近年の製品では「ONKYO ネットワークレシーバーTX-8050(S) 」が似てますね。残念ながら色はシルバーの色白美人になってしまいました。もう少し、昔風の色気が欲しいですが、ネットラジオも聴けるし、レコードプレーヤーも、つなげるようになっており、定年になってオーディオを再開した人に「といあえず、これで始めない!?」と、アピールする作りになっているようです。

オーディオの話ばかりになってしまいましたが、私はこの映画を、勝手に映画「伊豆の踊子」みたいな純愛ドラマだとばかり思っていました。エッフェル塔をバックに語りあう恋人たちのポスターもそんな雰囲気ですしね。客層の中心をなすおばさんたちも、きっとそう思ったはず。でも実際は違っており、内容はどこか映画「人のセックスを笑うな」を思いださせるものでした。

映画の主題ですが、最初の15分間ぐらいを、うとうとしてしまいました。ごめんなさい。その後の部分は、わりとしっかり観ることができたつもりですが、最初の15分間のロスが災いしてか、結局、最後まで良くわからない映画でした。

疑問点をまとめると、この3つになります。

①なぜ、幼少期の主人公:ポールたちは母親とトラブルになっていたのか。

②なぜ、青春時代のポールの、煮え切らない恋愛ドラマが長々と綴られたのか(ここが餡子なのでしょうが)。

③なぜ、中年のポールはパスポートのトラブルに巻き込まれたのか。

“この3つを割り切れる解”が、映画の主題の可能性大です(妄想ですが)。

でも、申し訳ありませんが、この映画をもう一度観たいとは思わないのです。

それは、この映画の大部分を占める②には「映画「伊豆の踊子」みたいな純情もないし、大人の恋愛ドラマみたいな自己規制もない。ただ、あるのは青少年にはあるまじき恋愛倦怠期だけのようで、そんなドラマは“三日前のハンバーグ”(歌手の菅原洋一さんのニックネームから拝借しました)のごとく、あまり趣味では無いからです(菅原洋一さんは好きですよ。小椋佳さんと同じく、男でもうっとりしてしまうほどの、低音の魅力で)。

最後に、あらためて映画のチラシを見たところ、ベンチに座った彼女の全身は背もたれの向こう側にありますが、彼の方は背もたれのこっち側に右腕(利き腕)を垂らしてもたれています。まるで、背もたれが二人を隔てている壁に見えます。実は、あの写真は、映画の②をワンショットで語ったものだったのかもしれません。これも主題のヒントになりそうです。

やっぱり、女性と語るときは、畳の部屋で、壁に持たれて座ってするのが吉なのでしょう。

★★★★( 長尺の②の部分は趣味ではないけれど、そのクオリティの高さには一目置きました。)

追記 ( 右脚もベンチの後ろにある彼 ) 
2016/1/11 9:33 by さくらんぼ

>最後に、あらためて映画のチラシを見たとこと、ベンチに座った彼女の全身は背もたれの向こう側にありますが、彼の方は背もたれのこっち側に右腕(利き腕)を垂らしてもたれています。まるで、背もたれが二人を隔てている壁に見えます。実は、あの写真は、映画の②をワンショットで語ったものだったのかもしれません。これも主題のヒントになりそうです。

そのチラシでは、彼の右腕、下半分から紗がかかっていて見えません。「あの頃エッフェル塔の下で」という赤いタイトル文字を入れるために白く消したのですね。

でも、映画生活で公開されている写真画像をみると下まではっきり写っています。それを見ると驚くことが分かります。彼は右腕ばかりか、右脚までベンチの後ろ側に出しているのです。ベンチの下板と背もたれのすき間が大きいので、そこに右脚を突っ込んでいるのです。これ、普通ではやらないポーズです。ましてや惚れた彼女の前でやるとは思えません。だから極めて意図的な構図だと解釈できます。

それなのにチラシでは消されてしまっています。これは意図的に隠したのではなく、チラシ製作者側が重要か所だとは気づかなかったからなのでしょう。そう思う方が自然です。

やはりこのシーンは“デートを繰り返しつつも実らない二人のすれ違い人生を”暗示していたわけですね。

追記Ⅱ ( 移民問題 ) 
2016/1/11 9:56 by さくらんぼ

> ①なぜ、幼少期の主人公:ポールたちは母親とトラブルになっていたのか。
> ②なぜ、青春時代のポールの、煮え切らない恋愛ドラマが長々と綴られたのか(ここが餡子なのでしょうが)。
> ③なぜ、中年のポールはパスポートのトラブルに巻き込まれたのか。
> “この3つを割り切れる解”が、映画の主題の可能性大です(妄想ですが)。

ベンチのシーンが重要なキーだという事が分かりましたので、それを使って①②③の連立方程式を解くと、解には”時に愛すべきものから離れる自己分裂”というか、そんな主人公たちの精神状態が見えました。③で“自分のパスポートを使っている他人がいる”と言うエピソードもそれをモチーフとしたものかもしれません。ろくに観もしないで解釈してはいけませんが。

すると、この話は詰まるところ、どこへ行くのでしょうか。それは、もしかしたら“人道上は難民を受け入れなければならないが、テロの不安が膨らんできた”という、そんな自己分裂する今のフランスの空気!?にたどり着くのかもしれません。移民問題とパスポートは近似値でもありますから。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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