#ネタバレ 映画「サーミの血」
「サーミの血」
2016年作品
血の誇り
2017/10/10 8:54 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
NHK朝ドラ「花子とアン」や「ひよっこ」では(とくに前半)、貧しい田舎の娘が憧れの都会へ出てくる話が描かれています。この映画ではそれに「差別」がプラスされているのです。
さらに、それらや映画「ドリーム」みたいに陽気ではありません。この映画「サーミの血」にはひんやりとした北欧の空気感があります。小説で言えば純文学の気真面目さ。
そして映画「ドリーム」にはあまり描かれていない「血の誇り」も芽生えています。物事のネガとポジですね。ここがポイント!?。
主人公・エレの押さえた演技が良いです。
★★★★
追記 ( 血の誇り )
2017/10/10 9:19 by さくらんぼ
映画の邦題は「サーミの血」ですが、原題も「SAMEBLOD」で同じですね。この映画には「血」が形を変えながら出てきます。
トナカイの耳に切れ目(刻印)を入れる。
エレが男たちに暴行されて耳を切られる。
エレが恋人ニクラスのザーメンに喜ぶ。
お茶に入れた溶けたチーズ。
お茶に入れたショートケーキのクリームなど。
そして、その血を嫌わない人と、嫌う人が出てきます。それでも相手に対する感情が測れますね。
追記Ⅱ ( アイデンティティー )
2017/10/10 9:55 by さくらんぼ
サーミの人たちが着ている民族衣装、たぶんあれは正装ですね。とても美しい。でもエレは、村を逃げだすときにそれを焼きました。そして盗んだ洋服を着るのですが、その服もやはり正装的なものでした。そして腰ひもや襟のフリルなど、「どこかサーミ的」とも思わせるものでした。
そんなエレが捨てずに隠し持っていたものは一本のナイフです。父の形見であり「サーミ人の誇り」の記号でもあるのでしょう。学校の先輩に見つかって「男でも殺るの」と冷やかされ、取り上げられそうになると敢然と抵抗しました。
捨てても焼いても消えず、それどころか守らなければならない「アイデンティティー」の発露ですね。
ちなみに、その先輩とは喧嘩になったかというと、まったく逆で、いっそう仲良しになってしまいました。アイデンティティーをしっかり持った人は、どこへ行っても一目置かれるようです。
追記Ⅲ ( 架け橋 )
2017/10/10 10:18 by さくらんぼ
>ちなみに、その先輩とは喧嘩になったかというと、まったく逆で、いっそう仲良しになってしまいました。アイデンティティーをしっかり持った人は、どこへ行っても一目置かれるようです。(追記Ⅱ)
チラシによると監督はサーミ人の血を引いているそうです。でも息を潜めて生きるのではなく、このような映画を作り、数々の映画賞を受賞しました。
カズオ・イシグロさんは、日本人の血を忘れない作品作りをし、ノーベル賞の受賞となりました。
当時のエレにそのような力は有りませんでしたが、彼女がしなければならなかったのは、本当は、一人逃げだして密かに暮らすことではなかったのです。
追記Ⅳ (映画「猿の惑星/創世記〈ジェネシス〉」 )
2017/10/10 14:29 by さくらんぼ
関連する話を映画「猿の惑星/創世記〈ジェネシス〉」のレビューにも書きましたので、よろしければご覧ください。
追記Ⅴ ( 割り切れぬ思い )
2017/10/10 15:33 by さくらんぼ
>そして映画「ドリーム」にはあまり描かれていない「血の誇り」も芽生えています。物事のネガとポジですね。ここがポイント⁉。(本文より)
世界で唯一「核兵器の加害者である米国と、その被害者になった日本」。両者のトラウマは表裏一体なのかもしれません。
追記Ⅵ ( そして姉妹の哀しみ )
2017/10/10 17:19 by さくらんぼ
>そして映画「ドリーム」にはあまり描かれていない「血の誇り」も芽生えています。物事のネガとポジですね。ここがポイント。(本文より)
「兄弟は他人の始まり」という言葉がありますが、これは「姉妹の哀しみ」の映画でもあります。
被差別の痛みを映画「猿の惑星/創世記〈ジェネシス〉」に頼らなければ理解できない私にも、映画「サーミの血」に描かれたそれは胸に沁みました。
サーミは一人村を出ていきます。一人突っ走ります。置き去りにされる妹。
サーミの、そしてたぶん監督の、「置き去りにしてきたサムシングへの悔恨の情」を記号化したものが妹なのでしょう。この映画は、そんなものたちへの鎮魂歌でもあります。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)