#ネタバレ 映画「県庁の星」
「県庁の星」
2005年作品
君には何も期待しない
2006/3/3 23:13 by 未登録ユーザ さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
スーパーに派遣された県庁・係長の野村は、寝具売り場の担当になりました。
さっそく寝具用品をデパートの様にディスプレイすると、呆れ顔のパートの二宮から、「スーパーは、客は日用品の補充に来るだけ。夢を見るならデパートへ行く」というような事を言われ、すぐにディスプレイは解体されました。
あの時、二宮は、こう心の中で叫んでいたのだと思います。「そんな事、客は誰も期待しちぁいないんだよ。恥かかせんなよ。みっともないよ。やめなよ」って。
その隠しておきたかった哀しみに、野村から無神経に触られた。だから激怒したのです。
「誰にも期待されない」こと。
これは哀しいことです。
一昔前によく言われた「窓際族」もそうでした。
だからこそ、安売りの弁当を好んで買ってくれる客や、期限切れを欲しがるホームレスにも有り難味を感じていたのです。だから弁当を否定した野村に激怒したのです。又、淋しい「枕の常連クレーム客」までも暖かく迎えたのです。
でも、野村も県庁ではエリートコースから外れ、誰にも期待されない存在になって、同じ哀しみを味わっていましたね。
話は変わりますが、この映画、クリスマス・シーズンが舞台です。
二宮が野村をデパートへ誘いました。
理由は仕事の為ですが、屋上でクリスマス・ソングを聴きながら、クリスマス・ディスプレイの近くで夕食を食べる姿は、密に二宮が仕組んだ、秘密のデートの様でした。
チョッピリ哀しくて、グッと来るシーンです。
やはりデパートは夢を見に行く処なのですね。
追記 ( 連ドラ「まれ」に見る、映画「県庁の星」 )
2015/6/5 10:32 by さくらんぼ
NHKの連ドラ「まれ」を観ています。
とくにBSで「あまちゃん」と二本連続放送しているのは、ありがたいですね。
実は「まれ」は「あまちゃん」みたいに面白いという噂を聞いて、私は途中から参戦しました。ですからレビューを書くのは自信がありませんし、そもそも、まだ最終回も迎えていませんので、フライングを承知で、少しだけ書かせていただきます。
「まれ」の主人公・津村 希は、生まれつきの性格もありましょうが、「夢追い人」である父を反面教師として育ち、リアリストとしての人生観を持っていました。
だから、輪島市役所に就職して、安定の象徴である公務員になったのです。
しかし、幼児期からの夢であるケーキ職人になることをあきらめられず、とうとう退職して、ケーキ修行の旅に出ます。
今どき、公務員を退職して夢を追いかけるなんて、普通の親御さんから見れば、いや、世間一般の声から言っても、「?」と言ったところでしょう。下手をすると、公務員仲間を失うだけでなく、転職先でも「なんかカラーが違う」とイジメられる心配すらあります。そうなったら居場所がない。
でも、少々違うのです。
どうも、この「まれ」は違うのです。
オープニングの海岸でも、フィギアスケート選手のごとく飛び跳ねている通り、人間としてのパワーがあります。
それに…ここで少し、映画「県庁の星」を思いだしてください。
良くも悪くも代表的公務員、県庁の係長が、民間派遣研修で、スーパーへ派遣され、いかにも中小の民間らしい、軟派!?な仕事をしていたスーパーに、役所ライクな硬派な改善を指導する話でした。
ある意味「まれ」も似ていますね。
希は数か月しか役所にはいませんでしたが、役所で仕事の初体験と言うものをしたのです。何にしろ初体験は、その人に刻み込まれます。それは彼女に、良い意味で役所的思考と言うスキルを与えました。それは全体の利益のための、高い視点からの、指導・調整役というスキルです。
彼女は、見かけこそ世間知らずの小娘ですが、内面的にはアーティスティックなケーキ職人と、リアリスティックな役人と言う、2つの異文化キャラを内包したのです。
ちょうど、大企業に勤めていた人が定年退職し、中小企業などに再就職すると、仕事のやり方が大企業と中小企業とでは違うことがあるので、良くも悪くも驚いてしまう、という話を実際にも聞いたことがあり、それにも似ています。
たとえば希の役所時代の課長は大変厳しい人でしたが、ケーキ屋さんの師匠の厳しさとは階が違います。
役所の課長さんの厳しさは、大人のそれであり、あまり隙がありませんが、ケーキ屋さんの厳しさには、自己中や、わがままが混じっているように感じます。
もちろん例外もあるでしょうが、誤解を承知で言えば、おおむね、これは職人全般に言えることでしょう。若いころから一つのことだけに精進していると、どうしても頑固・天狗になりやすいのだと思います。でも市役所の役人は、少なくとも数年ごとに担当する仕事が変わるので、天狗にはなれないのです。そこにも厳しさの質の違いが生まれます。
希には、その違いが分かりました。相手を正しい道に導くことができるスキルが育ちつつあったのです。
べつに公務員に限ったことではありませんが、異業種間の転職はマイナスにならない、という意見があります。まさに、その通りの状況を希は生きているのです。
まだ、ドラマの途中ですから、ハッキリとは言えないのですが、この「まれ」の語っていたことは、破壊力とか、尖がった人材とか、そんな時代が求めていることなのかもしれません。
追記Ⅱ ( 「右脳」「左脳」そして「ウノウ」 )
2015/6/18 7:21 by さくらんぼ
NHKの連ドラ「まれ」の続きです。
このドラマ、最近は「右脳」「左脳」の話題がよく出てきますね。
これは、
「右脳」=「ケーキ職人」=「アーティスト」
「左脳」=「役人」=「リアリスト」
という事でしょう。
やはり「まれ」は、この二つのせめぎ合いを描いているのでしょうか。
ところで、私の古巣・掲示板の運営は「ぴあ映画生活」さんですが、昔は「ウノウ」さんという名の会社が運営していました。お世話になりました。珍しい社名だったので覚えていますが、今、知っている人は、どれぐらいいるのでしょうね。
追記Ⅲ ( 「外出自粛」という孤独 )
2020/4/28 22:10 by さくらんぼ
新型コロナの昨今、感染が心配な銀行員。
しかし、ニュースによると、銀行に話し相手を求めて出かける人もいたようです。
その方がどのような気持ちだったのかは分かりません。
でもふと、(映画の)話し相手を求めてたびたびクレームに訪れる老婦人と、その寂しさを察知して話し相手になるヒロイン、そして、理不尽なクレームは拒否せよという主人公の公務員。
あの痛く哀しいエピソードを思い出しました。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)