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#ネタバレ 映画「日本沈没〈2006年〉」
日本沈没〈2006年〉
2006年作品
不幸とは、心の居場所が無くなること
2006/7/25 17:17 by 未登録ユーザ さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
ひとり廃墟の街を歩く草なぎ君が、妙に淋しげです。
この映画の多くを占めるのは、沈没する日本列島で右往左往する人たちの描写ですが、草なぎ君だけは、まるで別世界を生きているように、生気が感じられない。
それもそのはずです。彼は失業者なのです。しかも、悩める恋をする。
だから、しなければならぬ仕事は無い。
かと言って、国家非常事態の中、遊びに行く場所も無いし、第一そんな気分でもない。それに、里帰りした家では、母は逃げずにここで最後の時を待つと言い、彼が捨てた家業の酒屋は、女の姉弟の手で立派に成功しており、今や草なぎ君など「用無しだ」と言わんばかりの様子でした。
さらには一目惚れしたハイパー・レスキュー隊の彼女からは、ふられた訳でもないのですが、一緒に海外へ脱出する事に色よい返事がもらえない始末でした。でも、彼女を見習って人助けに精を出す気も起きないし、まさに宙ぶらりんの心境だったのです。
今の彼には自身の幸福感を満たす、心の在り処、心の居場所が無いのです。生きているだけでは満たされないものがあるのですね。
草なぎ君は潜航艇のパイロットとしての特殊技能、それも世界トップクラスのものを持っていますから、世界中どこへ行っても仕事はできるはずです。これ以上日本にいてもしょうがないのなら、すぐさま出国すれば良いはずなのに、ひとりで出国しても幸福感は感じられないと薄々感じていたのでしょうね。しばらくは、ぼんやりと過ごすことになります。
やがて、そんな彼にも生きる目標が出来るのです。
命とひきかえの大仕事ですが、彼は、もしかしたら幸福感すら感じていたのかもしれません。なぜなら、彼はこの仕事に、自分の居場所を見つけたからです。現代に日本沈没がリメイクされる意味はこのあたりにあったのかもしれません。大変真面目に作られた辛口の大作です。もちろん特撮シーンも素晴らしい。
追記
2006/8/19 7:24 by 未登録ユーザさくらんぼ
心の居場所が無いのは、草なぎ君だけではありませんでした。
日本を救う女性大臣は、彼女の良き理解者であり、彼女にとっては「心の師」とも言える総理を事故で失ってしまい、不幸にも後任の副総理とはまったく馬が合いませんでした。
又、女性大臣の離婚した夫が日本沈没研究の第一人者であるために、関係がギクシャクしています。つまり、大任を任されたのは良いのですが、上にも下にも弱みを見せて相談できる人は居らず、彼女にも心の居場所が無かったのです。
さらに、女性大臣は、日本沈没研究のプロジェクトを夫から政府の所管に移管し、夫の居場所も無くしてしまいました。
又、ハイパー・レスキューの彼女は、勇敢だから、人助けがしたいから、という単純な理由だけで隊員になっているわけでは無いようです。彼女は昔、自身も大震災で救助された体験が有ります。恐怖の体験でした。どうも、それがトラウマになっているのではないかと思うのです。だから身近で大災害が起こると、恐怖のあまり逃げ出すのではなく、逆に恐怖のあまり現場へ駆けつけ、自分の目で安心を確認せずには居られなくなったのではないでしょうか。その安心を確認する行為には人命の救助も含まれます。
彼女は災害の中にしか居場所を見つけられない哀しい存在になってしまったのです。そんな彼女に射した一条の光が草なぎ君だったのです。草なぎ君が小さな女の子を助ける姿を見て、その腕の中にこそ安心が、自分の本当の場所があると確信したのでした。
追記Ⅱ ( 日本沈没とは難民問題 )
2015/10/2 18:05 by さくらんぼ
こんな風に日本が沈没するのは、ありえないと思っていましたが、バブル崩壊で経済的に沈没し、東日本大震災の大津波で実体としても沈没し、原発破壊で国土も事実上失いました。
でも、まだ未体験のことがあります。それは海外への避難です。あの、国宝を手土産に、日本国民が離ればなれになり、各国に頭を下げて、受け入れてもらうエピソードです。
そして今、ヨーロッパで起きている難民問題。
この問題はいろんな角度から論評できるでしょうが、彼らの国土の惨状や、難民の規模の大きさから、彼らの国が沈没してしまったと考えるのも一つの見方になるでしょう。
考えても見てください。
国も、家も、財産も、すべて失った人が、誰も頼る人がいない見知らぬ国へ、生きのびるために命がけで逃げてくる。
その時の、彼、彼女たちの、体力はもちろんのこと、メンタルはどうなっているのでしょう。
心の中に、無意識のうちに核となる、拠りどころとなる、それらのものが無くなっている人は、どんな気持ちになっているのでしょう。
今こそ、この日本沈没をリメイクし、その辺りにライトを当てて欲しいと思いました。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)