#ネタバレ 映画「ファヒム パリが見た奇跡」
「ファヒム パリが見た奇跡」
2019年作品
暴力は「ドロー」になじまない
2020/8/21 21:35 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
将棋の藤井聡太さんが大活躍されている現在、チェスの天才少年の映画を観るのも良いかもしれません。
丁寧に作られた良作です。
同じくチェスを題材に選んだ映画「完全なるチェックメイト」に、勝るとも劣りません。
囲碁、将棋、チェスも分からない私でも、 それなりに楽しめましたよ。
★★★★☆
追記 ( 二つの映画に流れる「ドロー」の思想 )
2020/8/22 9:20 by さくらんぼ
( 映画「完全なるチェックメイト」のネタバレにも触れています。)
『 ならば映画「完全なるチェックメイト」は“ドローという人生の知恵”を教えてくれたのかもしれませんね。ラストで主人公のフィッシャーが勝ったとき、対戦相手のスパスキーが感服した様子で、スマイルを持ってスタンディングオベーションをしました。あそこに感動が集約されていたように思います。
スパスキーのしたことは、ゆとりある大人の対応です。彼は試合に負けはしましたが、人によってはスパスキーの人柄に感服しファンになったかもしれません。試合に負けはしましたが、傷跡を最小化することに成功したのです。
そんなスパスキーに比べ、主人公:フィッシャーは勝つことだけに特化した生き方をしていました。だから負けたらもちろんのこと、勝っても痛々しい。試合に限らず人生全般も痛々しい。
これはチェスの映画では無かったのかもしれません。チェスに限らず、どんな舞台ででも、勝ち方、負け方は、美学のひとつですね。もっと言うと処世訓であり政治なのかもしれません。
そう言えば、今日観た寅さん映画でも、武田鉄矢さんふんする振られ青年に対して、似た者どうしの寅さんは振られ方の美学を語っていました。 』
人生「時にはドローの方が良い時がある」ことは、誰に教えられなくとも理解していたつもりですが、あくまでもドローは例外であり、原則的に勝負はハッキリとつけるべきで、そうしない、そうできないのは、未熟者か不誠実な態度だぐらいに思っていました。
しかし映画「完全なるチェックメイト」は逆に、人生、原則として「白黒ははっきりつけない方が良い」と語っていたように思えたのです。
「チェスの思想」でしょうか。これが素直に映画「ファヒム パリが見た奇跡」にも流れていました。
追記Ⅱ( 「我が国に貢献した者には特例を認める」というドロー )
2020/8/22 9:48 by さくらんぼ
>しかし映画「完全なるチェックメイト」は逆に、人生、原則として「白黒ははっきりつけない方が良い」と語っていたように思えたのです。(追記より)
主人公・少年ファヒムの父は、昔の日本人と同じで、子どもの教育のためには暴力を使う事がありました。
しかし、「暴力」は「ドローの思想」からも外れているのです。
そして、それは「移民を力づくで排除する」ことへもつながっていきました。父が苦労するシーンがあるのはその為かもしれません。
しかし現実問題として、移民を無条件で受け入れるわけにもいきません。
そこで、フランス大統領が言うように、「我が国に貢献した者には特例を認める」というドローへと繋がっていくのです。
こうして、(これも大事)関係者の便宜もあって、チェスで貢献したファヒムとその家族は、めでたくフランスで暮らすことが出来るようになりました。
これが話の構図のようです。
追記Ⅲ ( 剃刀の刃は欠けやすいが、斧は丈夫 )
2020/8/22 10:09 by さくらんぼ
一流メーカー製であっても、性能を限界まで追求したレーシングカーは、とても気難しくデリケートな存在らしいですね。
レース中、エンジニアが掛かりきりで診ていないと、いつトラブってもおかしくない、そう思います。
しかし、同じメーカー製でも、市販車のファミリーカーは丈夫で長持ちなのです。
切れ味を極限まで追求した剃刀の刃は欠けやすい、しかし、切れ味の鈍い斧の刃は丈夫、そういう事だと思います。
チェスでドローを尊ぶのは、勝負にこだわりすぎて性能限界を目指すと、相手の罠に落ちて負けることがある。しかし、ドローに甘んじるなら、罠に落ちずにすむかもしれない。
そういう意味もあるのかもしれません。
ドローなどという高級な概念がなかなか理解できず、ひたすら勝負にこだわっていた少年ファヒムが、クライマックスで大勝負に出ようとしたとき、相手の「しめしめ、これで勝てるぞ!」という顔色を読んで、ドローに戦術変更したシーンもありましたから。
追記Ⅳ ( 「移民」ではなく「不法滞在」 )
2020/8/22 10:32 by さくらんぼ
「移民」と書きましたが、ファヒムたちは「不法滞在」ですね。
不法滞在者は強制送還が原則でも、「我が国に大きな貢献をした者には特例を認める」(ドロー)という、フランス大統領のお話です。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)