#ネタバレ 映画「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」
「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」
2013年作品
トラックという印籠もある
2014/3/5 21:45 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
子供の頃、両親や親戚の人、学校の先生などからキチンと褒められた記憶がありません。そんなにダメん坊ではなかったはずですが・・・。
でも、近所に一人だけ、道で私を見つけるたびに、「まあ、まあ、ご立派になられて!!!」と、はちきれそうな笑みを浮かべて、大声で、過分な社交辞令を言ってくれるオバサンがいて、あの、あふれる笑顔と感情の入った声は、今でも忘れられません。
あれが、もしかしたら、今も私の深層で心の支えになっているのかもしれないと、ふと思いました。キチンとしたお礼は言わなかったけれど、オバサンありがとう。人間はやっぱり褒める事も必要です。
そんな私も中年になりました。
ある日、ふと、気がつくと、道を歩いていて、向こうから歩いてくる知らないオバサンが、突然道の反対側に移動することに気がつきました。誤解ではありません。何度もあれば分かります。あきらかに私は避けられているのです。引ったくりの危険があるとでも思っているのでしょうか。たしかに私はむさくるしいオッサンですが、心は錦ですよ。
でも、避けられるたびに自尊心が傷つきます。
しかし文句を言ったら、不審人物にされてしまいます。だから、最近では、オバサンを見ると、こちらから先に道の反対側に逃げるように移動したりすることもあります。傷つかない為に。
そうやって、皆、だんだん歳をとっていくのでしょう。歳をとるということは、そういうことなのでしょう。
そういうオジサンたちの愛するTV番組に「水戸黄門」があります。映画のクライマックスで取り出す印籠。ただのくそジジイだと思っていた男が水戸光圀であることが分かります。即座にひれ伏す権力者たち。。。
そして、映画「ネブラスカ」の冒頭には、寒々として、荒涼とした道を一人歩く男(エディ)の姿がありました。
あれは、胸に刺さります。
エドワード・ホッパーの絵画が疎外感を描いて有名です。高倉健の映画の冬景色の厳しさも。でも、あれらには、まだ、まだ、浸れる詩情があります。
しかし、ネブラスカの冒頭は、ただただ痛い。
あのときエディは心の中で言っているのです。
「俺は行くんだ。もう、だれにも頼むものか。だれにも説明などするものか。どうせ俺の気持ちなど誰も分かろうとはしないから。俺は一人で這いつくばっても、あそこへ行き、一人で100万ドルを手にするのだ」と。
あの荒涼とした景色は映画全体を覆う基調トーンですが、オーバーに言えば、もう、冒頭のシーンだけでも映画一本分の感動がありました。
そして、ラストです。
トラックを運転して悠然と町をパレードするウディがいました。
あの時、トラックとは黄門様の印籠だったのです。
歳をとると、みんな、それぞれの印籠が欲しくなるのです。何が、印籠なのかは人それぞれでしょう。だから、流行の断捨離でも、隠居した爺さまの持ち物を勝手に処分してはなりません。
そして・・・はたして、本当にエディは昔の恋人を忘れているのでしょうか。
良い映画でした。
中年以降の鬱積したモヤモヤが最高潮に達した人生晩年。禅の修業などしても悟りを開けなかった人々に対する水戸黄門の印籠映画でした。
それと、みんな、お芝居が上手です。本当に。
★★★★★
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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