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#ネタバレ 映画「泣き虫しょったんの奇跡」

「泣き虫しょったんの奇跡」
2018年作品
「惻隠の情」
2018/9/10 21:53 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

これは、まちがいなく「将棋」の映画でありますが、先日ニュースになった「就職・採用活動のルールの廃止」の話でもありますし、深層的には「大相撲」を中心とする、昨今のスポーツの話だと思います。

★★★★☆

追記 ( 「惻隠の情」 ) 
2018/9/10 22:11 by さくらんぼ

優勝おめでとうございます。

美しき日本の魂を見たような気がしました。

「 “Born in Japan”の全く新しいタイプのヒロインが誕生した。9月8日に激闘の末、全米オープンの王者の座を手にした大坂なおみ選手だ。…

その後の表彰式での彼女の振る舞いが、世界の称賛と同情をさらに集める結果となった。…

式が始まり、結果に不満足な観客から大ブーイングが巻き起こると、彼女は瞬間、サンバイザーをぐっと押し下げて顔を覆い、涙を隠した。その後、表彰台のインタビューで、司会者の質問に対し、目に涙を浮かべながら、『質問の趣旨とは違うのですが、ごめんなさい。皆さん、彼女(セリーナ・ウィリアムズ)を応援していたと思うのですが、こんな風に終わらせる結果になってごめんなさい。試合を見てくれてありがとう』と言い、小さく頭を下げたのだ。…

そのインタビューで、『なぜ、表彰式で謝らなければと思ったのか』と問われると、『その質問は私を感傷的にさせるわ。だって、彼女(ウィリアムズ)は24回目のグランドスラムを取りたかったでしょ。誰もが知っていたわ。(でも)私がコートに立った時、私は自分が違う人間のように感じた。(その時の私は)セリーナのファンではなく、対戦相手と対峙する一人のテニスプレイヤーになっていた。でも、ネットのところで、彼女とハグをした時、私はまた、(セリーナのファンだった)子どもに戻ったような気がしたの』と涙ぐみながら語った。…

つまり、マイペースに見えるキャラの内面には、誰よりも人の気持ちを思いやる優しさと、いったんコートに立てば、不屈のファイターへとあっという間に憑依する強靭なメンタルを持ち合わせているということだろう。 」

( 東洋経済オンライン2018/09/10 11:40 「大坂なおみが世界の称賛と同情を集めたワケ 全く新しいタイプのヒロインが誕生」 より抜粋 )

追記Ⅱ ( 「惻隠の情」 ) 
2018/9/10 22:30 by さくらんぼ

>そのインタビューで、『なぜ、表彰式で謝らなければと思ったのか』と問われると、『その質問は私を感傷的にさせるわ。だって、彼女(ウィリアムズ)は24回目のグランドスラムを取りたかったでしょ。誰もが知っていたわ。(追記Ⅱより)

“泣き虫しょったん”こと、小学生の頃から将棋を始めた瀬川(松田龍平さん)は、試合の初戦で、同じ小学校の幼なじみでありライバルの鈴木(野田洋次郎さん)と当たり、勝ってしまったのです。鈴木は負けたら即引退だと宣言していました。

瀬川は勝利の苦さを思い知らされ、トイレに駆け込み一人泣くのです。それがトラウマになり、さらに、それを刺激することも色々起こり、やがて彼は勝てなくなっていきました。

>(でも)私がコートに立った時、私は自分が違う人間のように感じた。(その時の私は)セリーナのファンではなく、対戦相手と対峙する一人のテニスプレイヤーになっていた。(追記より)

瀬川に必要だったのは、大坂さんと同じような、「いったんコートに立てば、不屈のファイターへとあっという間に憑依する強靭なメンタル」(追記より)だったのです。

追記Ⅲ ( きれいな勝利、汚い勝利 ) 
2018/9/11 6:30 by さくらんぼ

>瀬川は勝利の苦さを思い知らされ、トイレに駆け込み一人泣くのです。それがトラウマになり、さらに、それを刺激することも色々起こり、やがて彼は勝てなくなっていきました。(追記Ⅱより)

スポーツの試合には、ときに反則行為(すれすれの行為)があり、結果、きれいな勝利、汚い勝利が生まれます。

極端な例を挙げれば、選手個人のみならず、国ぐるみのドーピングもあれば、アメフトの世界では、「わざと相手の選手にケガをさせる意図でタックルする」という、もはや反則ではなく、傷害事件と呼びたいほどの重大行為もありました。

オリンピック・パラリンピックを前にして、関係者は気を引き締めなければなりません。

映画によると、プロ将棋への登竜門である「奨励会」の昇段試合では、死に物狂いの棋士も、前述したほど極端では無いにせよ、時に汚い戦いをしているようです。26歳までに4段になれなければ退会させられ、プロへの道は閉ざされて、それまでの人生は無駄に終わるからです。

一方、トラウマのため、「きれいな試合しか出来ない」主人公・瀬川は、汚い試合にうんざりした友人からグチを聞かされ、瀬川自身もそれを実感し、さらに勝てなくなって行くのです。言いかえれば、「きれいな試合だけで」奨励会3段まで行った瀬川の才能は凄い。

追記Ⅳ ( 勝負の品格 ) 
2018/9/11 9:03 by さくらんぼ

>これは、…深層的には「大相撲」を中心とする、昨今のスポーツの話だと思います。(本文より)

興味深いシーンがあります。

喫茶店の女店員を、突然、瀬川がつき飛ばしてしまうのです。

奨励会時代、瀬川が通っていた喫茶店の女店員が、瀬川に恋心を抱いたようで、笑顔で何かと話しかけては「応援してます」みたいなエールをくれるのです。

よほど想いが募ったのでしょう。ある日、女友達と思われる2~3人から、ぽんと背中を押され、女店員は瀬川に近づきました。告白の瞬間か。

その時です。帰ろうとする瀬川と鉢合わせになり、瀬川は反射的に、手のひらで彼女をつき飛ばしてしまうのです。

床に転がって、「何で…」と目を丸くする女店員。

「あっ、ごめん…」と戸惑っただけで、助けもせず、逃げるように立ち去る瀬川。

女店員はその後、別の男性と結婚しました。

量もわずかですし、完全にカットしても、映画の流れに支障はないような、蛇足的なエピソード。相手は無名の新人さんでもかまわないはず。それなのに、ヒロインには主役が張れる、人気の上白石萌音さん。しかも、(失礼ながら)彼女のイメージは、スレンダー美女ではなく、ふっくら美人。

このエピソード。もしかしたら「大相撲の試合」ではなかったのか。

そう言えば裸も、(男たちが)銭湯に入るシーンで表現されていました。

では土俵は。それは将棋盤でしょう。そこで二人が勝負をするのです。そう言えば、やたらと試合の途中や、直後に、立ち上がるシーンもありましたし、時間制限で急かされるところも。

それらを総合すると、この映画の深層は「大相撲」だと思えるのです。

では、なぜ。

それは、たぶん、昨今の大相撲の中には、勝つことへの強いこだわりは見えても、敗者への「惻隠の情」が見えない者もいるからでは。もしかしたら、勝負の、選手の品格は、その「中央に存在する」のかもしれないのに。

大相撲にも希薄になった「勝つことへの恥じらい」。

もしかしたら、それを描きたいがために、この映画「泣き虫しょったんの奇跡」が作られたのかもしれません。

追記Ⅴ ( 隠されている美しきもの ) 
2018/9/11 11:36 by さくらんぼ

映画の途中、ふと「時代劇」を観ているような気持ちになりました。

頭に浮かんだのは「たそがれ清兵衛」です。

追記Ⅶ ( さまざまな旅立ち )
2018/9/11 16:35 by さくらんぼ

「奨励会」を退会していく人たちの様子が、いくつも描かれます。

なにかのサークルにいても、新人さんも、退会する人もいます。年齢性別問わず、良い人なら、新人さんが来るのは嬉しいもの。逆に退会する人が出るのは寂しいもの。

特別友だちと言うほどではなくても、「そう言えば、最近見てないな…」と思い、周囲に尋ねてみると、「あの人、辞めたらしい」との返事が来るばかり。そんな時は寂しいものです。

でも、辞める前には、定例会で挨拶ぐらい欲しかったとか、送別会をしてあげたかったとか、いろいろ思ったこともありますが、辞める方にも、(ときにはプライバシーがらみの)色んな事情とか、万感の思いがあって、結局「消えるように辞める」のが、一番今の自分には相応しいと思っていたりするものだと、なんとなく解る時が来るものです。一番親しかったごく少数にだけ見送られて。

追記Ⅷ ( 二つの例え話 ) 
2018/9/11 22:02 by さくらんぼ

>“泣き虫しょったん”こと、小学生の頃から将棋を始めた瀬川(松田龍平)は、試合の初戦で、同じ小学校の幼なじみでありライバルの鈴木(野田洋次郎)と当たり、勝ってしまったのです。鈴木は負けたら即引退だと宣言していました。(追記Ⅱより)

>喫茶店の女店員を、突然、瀬川がつき飛ばしてしまうのです。(追記Ⅳより)

上記の二つは対になっているようです。

ライバルであり、幼なじみの親友に勝ち、彼を将棋から引退させてしまったことを、ガッツポーズで喜ぶ人はいないでしょう。瀬川みたいにトイレにこもって泣かなくとも、勝利の痛みをじっと堪えるのではないでしょうか。

又、自分に惚れてくれ、告白に来た女性を、問答無用で、相撲の技みたいにつき飛ばす人もいないはず。振るにしても、相手の気持ちを思い、自分の心も痛いはず。

その「惻隠の情」を描くエピソードとして、これらは挿入されたのかもしれません。

追記Ⅸ ( 舞台装置 ) 
2018/9/12 8:45 by さくらんぼ

>その「惻隠の情」を描くエピソードとして、これらは挿入されたのかもしれません。(追記Ⅷより)

そして、これらのエピソードの焦点として、舞台装置として、便宜「奨励会」が使われたのだと思います。

つまり、「戦争映画が戦争を描いているとは限らない」ように、「将棋の映画が将棋を描いているとは限らない」のです。

追記Ⅹ ( ふと、「タイガーマスク」 ) 
2018/9/12 9:04 by さくらんぼ

往年の人気TVアニメ「タイガーマスク」では、「虎の穴とタイガーマスク」、そして「孤児院」が出てきます。

彼はファイトマネーの一部を「孤児院」へ寄付し、「虎の穴」とトラブルになります。設定ではタイガーマスクが「孤児院」出身だからですが、作者の心の深層では、これも「惻隠の情」ではなかったのかと、映画「泣き虫しょったんの奇跡」を観て思うのです。

そして不思議なのは、勇敢なオープニングテーマ「タイガーマスク」よりも、哀しいエンディングテーマ曲「みなし児のバラード」の方が好きだった子どもたちも、少なくなかったという事です。

追記11 ( 杉原 千畝 ) 
2018/9/12 21:54 by さくらんぼ

外交官・杉原 千畝氏も思いだしますね。外務省と対立してまで、リトアニアで命のビザを発給し、ナチス・ドイツの迫害から、6,000人余りの命を救いました。帰国後、彼は辞職しています。

追記12 ( お詫び ) 
2018/9/12 21:55 by さくらんぼ

この映画「泣き虫しょったんの奇跡」は、映画に違いありませんが、現在もプロ棋士としてご活躍の瀬川晶司氏を描いていますので、氏名には敬称を付けるべきでした。大変失礼しました。

追記13 ( 豊田監督の話 ) 
2018/9/14 17:05 by さくらんぼ

「 豊田:僕はこの作品を“将棋を題材にした人間ドラマ”だと思っています。そもそも将棋ばかりやっている人はあまりいませんし、わざわざ映画館に行って将棋の映画を観ようというお客さんはそんなにいないんですよね。映画はやはり人間ドラマが基本になってくるので、そこは力を入れてやろうと思いました。」

( リアルサウンド 9/14(金) 11:40配信 「『泣き虫しょったんの奇跡』で4度目のタッグ 松田龍平×豊田利晃監督が語り合う2人の関係性」より抜粋 )

追記14 ( 中国紙・北京青年報 )
2018/9/17 11:43 by さくらんぼ

「 10日付の中国紙・北京青年報は、大坂なおみの全米オープン優勝について、… 同紙は大坂の決勝でのプレーについて『完璧だったといえる。抜群のサーブなどでセリーナを圧倒した』と評価したが、まずたたえたのは精神面だ。『年齢と不相応な成熟ぶりをみせた。セリーナと主審の対立に直面しながら全く動揺しなかった』

大坂にとってセリーナは小さいころからの“アイドル”だったと紹介した上で『大坂のパフォーマンスは完全にそのアイドルを圧倒した。立て続けに怒号を発するセリーナと向き合っても20歳の若武者はまったく気後れすることがなかった』と指摘。

セリーナと主審の口論や、場内からのブーイングも大坂の精神状態に影響は与えなかったとし、『弱冠20歳で初めて四大大会の決勝の場に立ったにもかかわらず、彼女の成熟した精神には驚かされた』と脱帽した。」

( 産経ニュース 2018.9.17 10:30更新 【環球異見・大坂なおみ優勝】 北京青年報(中国)「成熟した精神に驚き」「躍り出た東京五輪の金メダル候補」より抜粋 )



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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