
#ネタバレ 映画「マッチスティック・メン」
「マッチスティック・メン」
マッチスティック・メン : ポスター画像 - 映画.com (eiga.com)
2003年作品
それは、人の心の一番大切なものを利用した、卑劣で唾棄すべき詐欺だった
2003/10/5 10:29 by 未登録ユーザ さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
予告編などから、主人公が実の娘と出会うハートフル・コメディーだと思っていた
そろそろ中年になったニコラス(主人公)は、一人暮らしのためか、知らぬ間に人生の軌道がズレてきてしまっていた。そんなとき、離婚した妻と暮らしている娘と会い、娘の影響で軌道修正されていくストーリーだと思っていた。
映画は期待どおりの展開をはじめた。ニコラスも好きだし、娘役の少女も上手い。DVDが出たら購入を考えても良いのかもしれない。そんな風に思えるぐらい途中ですでに満足していた。音楽も美味しい。
しかし、終わり近くに悲劇が起きた。映画の雰囲気が一変する
ハートフル・コメディーだとばかり思っていたこの作品が、観客を騙すことに軸足を置いていた事を知るのである。
天才詐欺師だったはずのニコラスと私は完璧に騙された。その見事さは昔のテレビ番組「スパイ大作戦」を思い出す。
では、なぜニコラスと私は騙されたのか、それは赤の他人の少女が、ニコラスの娘を騙り詐欺師に加わっていたからである。そうやって、ほのぼの系の映画に見せたからである。ニコラスも私も完全に油断していた。これはシナリオの素晴らしいアイディアの一つだ。
このストーリーには一抹の寂しさが漂う
それは、人の心の一番大切なものを利用した、結婚詐欺のような、卑劣で唾棄すべき詐欺だったからだ。その時の被害者の怒りと哀しみは凄まじいものだろう。ニコラスは「騙される者の哀しみ」を思い知らされた。しかも強すぎた衝撃に対して、ニコラスはどのようにして立ち直るのか。
さすがに監督もそれには気づいていたようだ。
日本映画のようにエンディングが長いのもそのためだろう。
映画はニコラスとニセ娘との再会を見せる。このときニコラスは、父のまま娘の新たな旅立ちを見送る。娘「私の名前は・・」、ニコラス「知ってる」このセリフがいい。娘のままで良い。
ところで相棒の後日談は出てこない。肉親だと思っていた人間からの裏切だけは、別格だからだろう。エンディングには、強い薬を使って観客を騙した監督が、苦心して副作用を繕う、そんな姿が見えたような気がしたのは錯覚だったろうか。
追記
2003/10/7 7:37 by 未登録ユーザさくらんぼ
本当に娘は大金を手に出来たのか
娘との再会シーンで、彼女たちは一番安いカーペットを買う。また、恋人には誠実そうな青年を選んでいた。監督はなぜそうさせたのか。
思えば、ラストでニコラスを騙し、銀行の暗証番号を聞きだすシーンで、暗証番号を直接聞いたのは、ニセ精神分析医のみである。一緒に聞くはずだったニセ警官は追い出され、別室でテレビのモニターで聞いていたが、「ピー、ピー」というノイズが入り「聞きづらいなぁ」と言っていた。
具体的な作戦はシナリオライターに任せるとして、ニセ精神分析医の裏切りで、大金を独り占めされた可能性もある。つまり娘はカネを取り損ねたなどと空想したりしている。
追記2
2003/10/7 19:09 by 未登録ユーザさくらんぼ
後に教えて頂いたが、やはり娘も騙されていたようだ
私はそのセリフはなぜかまったく記憶がないのですが。
映画のバランス感覚を思えば、娘だけは悪の道に染まらせたくはない。ならば娘もこの犯罪で懲りなければならないのでしょう。だから娘も騙されるシナリオなのでしょうね。
それから娘との再会ですが、そうする事で、二人の心の中に沈殿した、それぞれの色々な想いが、ショートして落ち着くのでしょうね。だから大切なシーンだと思います。昔、私の先輩で、お見合い結婚する前に、一度初恋の人に会って気持ちを整理したと話してくれた人がいました。そんなことを思い出しました。
また「赤の他人に騙された、赤の他人を騙した」よりも、「親子げんかしたけれど、根に持たずに仲直りしたよ」と考えた方が、お互いに救われるのでしょうね。また、そうする方が、もう自然に思えたのでしょう。だから父と娘のまま別れたのでしょうね。もうあの二人は二度と会う事は無いかもしれないけれど、二人の未来のためにはあれで良かったのだと思いました。
追記3
2003/10/7 19:35 by 未登録ユーザさくらんぼ
本名を聞く事で、娘が赤の他人に変わることに耐えられるほど、自分は強くない
さらに付け加えるなら、怖かったのだと思います。娘の本名を聞く事で、自分の娘が赤の他人に変わることが、それに耐えられるほど自分は強くは無いと、とっさに悟って、「知ってる」と答えて、娘の口を黙らせたのだと思います。
追記4
2003/10/11 8:14 by 未登録ユーザさくらんぼ
ところで、実は私は、(正直に言えば)昔ニコラスさんが嫌いだった
その頃、映画「アパッチ」を劇場に観に行ったのですが、途中で帰ってしまった事がありました。具体的な理由はありません。なんとなくです。そんな事は今までの映画人生でも、ほとんど無い事です。それが、いつの頃からか、ふと気がつくと好きになっていたのです。今では彼の映画は喜んで観に行きます。もちろん「アパッチ」はその後LDで買いましたよ。不思議ですね。
追記Ⅱ
2014/8/26 21:10 by さくらんぼ
まだ「振り込め詐欺」など知らなかった日
「オレオレ詐欺」とか「振り込め詐欺」とかいうものが、日本では、いつ頃から始まったのかは知りませんが、2003年日本公開の、この映画「マッチスティック・メン 」を観たときには「日本ではあまり聞かない詐欺方法だなぁ」と思ったのを覚えています。でも、今思えば、これが劇場型の振り込め詐欺映画だったのですね。
もし、この映画以前に、振り込め詐欺が日本であったにしても、この映画を観たことで「そうか、口八丁で簡単にカネがもうかるんだ!」と、新たに悪だくみをした日本人もいたかもしれない。
でも、悪事にもいろいろあって、昔の、ねずみ小僧次郎吉、などは、カネ持ちからカネを盗んで貧乏人に分け与え、そのために義賊と呼ばれていましたが、振り込め詐欺は、判断力の衰えた老人を、息子と偽るなどして騙し、かけがえのない老後の生活費を盗むんですから、ねずみ小僧が悪党なら、こっちは、さらに罪深い。
先ほどのTVでは「老後貧乏」とかいう特集をしていて、老後には2千万円必要だとか言っていました。だから、若いころから節約と預金につとめる必要があると。
つまり、仮に老人が1,000万円預金を持っていても、けっして余分な金ではないんですね。10万円しか預金がない若者がいたとしても、けっして誤解して妬んだりしてはいけません。
詐欺のニュース報道を単純に見るだけなら「1,000万円もだまし取られた!?とんでもない金持ち老人だなぁ」と思う人もいるかもしれませんが、彼らは、もう老齢で働けず、これからは、若いころに汗水流して蓄えた預金を取り崩しての生活ですから、それをだまし取られてしまったら、生活保護になるかもしれないのです。また、それ以前に、騙されたというショックが大きいはずで、病気になる人もいるかもしれない。老人はストレスに弱いのですから(ショック・ストレス→免疫力低下→発病)。
そして最近、さらに、こんな悪事も行われています。
広島の土砂災害現場では火事場泥棒的盗難や、避難勧告を偽った盗難が行われているらしいのです。本当にひどい話です。火事場泥棒もひどいですが、避難勧告などを偽ったら、オオカミ少年の悲劇にもなりかねない。逃げるとき、一瞬の判断の遅れが生死を分けることもあるからです。これが日本だとは信じがたい。
ねずみ小僧次郎吉を思い出すとき、老人や、災害弱者を狙った犯罪は、日本人の美意識にもはっきりと反することが分かります。犯人は、もし逮捕されたら、自分たちの家族や親戚縁者、孫子にも、どれほどの迷惑がかかるか想像してほしい。口にするのも恥ずかしいこの種の犯罪を、世間様がどれほど忌み嫌うかを知ってほしい。それを知ったら模倣犯など出てこないと思う。そう期待したいです。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)