#ネタバレ 映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
2014年作品
バードマンとはネット住人のこと、かも
2015/4/15 14:17 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
映画が始まって20分もたった頃でしょうか、急に私の心臓がドキドキし始め「これヤバいかも」と思ったのでした。腹上死ならぬ「劇場死」の危険を感じたからです。
どうも、この映画の得体の知れない何かが、私の心の深層部分を直撃したらしい。
こんな経験は過去に一度だけ。
若いころにジャズ・トランぺッター(コルネッター)日野照正さんのコンサートを前席中央で聞いた時以来です。
あのときも、冗談では無く、本当に心臓が止まるかと思いました(ジョギングで心臓に疲労感を感じていましたから)。
かつて映画「ダイ・ハード」が公開された時、新聞のレビュー欄には「10年に一本の傑作」だと書いてありました。
また、シューマンはショパンを表して「諸君脱帽だ」と言ったとか。
ならば、この映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 」には、その両方をもって、私は称賛します。
この映画の主題はと言うと、それは「境界線」だと思います。
国境もそうですが「境界線」はたいていハイテンションです。
劇中で、主役・リーガンの娘が、ビル屋上の縁に腰かけて下界を眺めていました。あれが、その分かりやすいワンピース。
彼女はアドレナリンを補給していました。
そのヒントで探していけば、劇中にはその記号がいっぱいあります。
リーガンは症状から統合失調症だと思われますが、それも境界線の記号。
では、主題は分かったけれども、それで、何を映画は語っていたのかというと…
それは、ネットに書き込んだり、YouTubeに投稿したりする、仮想空間の「境界線」にいる、私たち自身のことを語っていたのでしょう。
だから、これは劇団の話ではないと思います。
戦争映画が、かならずしも戦争を描いていないのと同じ。
ただし、その表現がハンパない。
サウンドも含めて、斬新でアートの領域にまで達している。
映画では舞台に出る人たちのドタバタが描かれていましたが、あれは、ネットに投稿しようとする私たちも、全世界が観客となる舞台で演じているのと、ある意味同じだ、という事を語っていたのかもしれません。
私はネット投稿していますが、大多数のオジサンはPCにはさわりもしないと思います。この映画は、そんな人たちがネット・デビューすることにエールを送る話ですね。
でも、ネットは一つ間違うと(無知)、プライバシーが丸裸にされてしまいます。劇場からうっかり締め出されて、下着姿の醜態をさらす主人公の姿がそれですね。
でも、上手く演じれば(斬新)、全世界から称賛を受けることも不可能ではない。
現に、ブロガーから人気が出て、本を出され、お金持ちにもなり、世界中にファンがいる方もいらっしゃるでしょう。
彼(彼女)たちこそが、ネット空間を自由自在に飛び回るバードマンその人でもあります。そして鬱々としたリーガンの夢でもありました。
だからネット住人は、一食抜いても、ぜひ劇場で音と映像のシャワーを浴びるべき必見の一本です。
そして映画のラスト。
ネット世界への飛翔に成功したリーガンの前では、もうバードマン(ここでは過去の夢の記号)は用無しですね。
もう、リーガン自身が空を飛べるようになったのですから。
★★★★★(ラストに、アンコール代わりの、特典映像があれば、なおよかった。)
追記 ( ようこそ匂いの無い世界へ )
2015/4/17 9:39 by さくらんぼ
>もう、リーガン自身が空を飛べるようになったのですから。
ラストの病室でのエピソード。
リーガンは鼻を怪我したため、お見舞いの花の匂いを嗅いでも、匂いが分からないと嘆いていました。
でも、あれは、鼻を怪我したから、匂いが分からないのではなくて、匂いを分からなくするために、鼻を怪我したシナリオにしたのでしょう。
「匂いが分からない」。
それは、仮想現実の記号と見ます。
だから、あの病室のシーンは丸ごと映画「マトリックス」の様な仮想現実(ネット世界)なのでしょう。
だからリーガンは、望めば空だって飛べる。
だから、娘も、それをまったく驚かない。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)