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#ネタバレ TV『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』

徴税吏員は差し押さえ回避のために働く
2023.11.27


( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

(2023.10.15)

地方公務員の世界はTV界に残された秘境の一つ

『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』日本テレビ  まだ観ていませんが、住民税の徴税のお話のようです。少し前なら、このようなドラマが出来るとは思いもしませんでしたが、TVドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(ケンカツ)などの成功で、地方公務員の世界がTV界に残された秘境の一つであると思って頂けたのかもしれません。役所にはいろんな係がありますから、勉強にもなるドラマが増えることを期待します。しかし、「徴税」という言葉は使っても、「ゼイチョー」は、私の知る限り役所内では聞きません。

(追記)

(ケンカツ)には公務員志望者の教材にしたいほどの、区役所職員の自然でリアルな空気感があるが、「ゼイチョ―」はやや漫画的


第1話を観ました。演出が、(ケンカツ)には公務員志望者の教材にしたいほどの、区役所職員の自然でリアルな空気感がありましたが、「ゼイチョ―」はやや漫画的でした。一般受けするのは漫画的な方でしょうから、視聴率を稼ぐのに貢献すると思います。

それはともかく、家宅捜索が珍しくないような描き方ですが、その前にはたくさんの納税交渉・公簿調査・預金照会等が行われます。ドラマではその地味な9割以上の仕事を端折っているようですので、観る者は誤解の無いよう注意が必要です。

そして、その努力もあって、リアルでは家宅捜索まで行かずに解決する事例がほとんどだと思います。又、納税課内に係が複数あり、(多数の住民である)小口担当、大口担当にわかれていれば、自治体によって違いもあるでしょうが、小口担当は家宅捜索の経験を一度もせずに卒業するのが普通でしょう。家宅捜索という言葉さえ聞かずに。

通常の実地調査は毎日のように出かけるかもしれませんが、仕事は玄関先での納付依頼が中心です(中に入れてもらえない事が多いため)。やむをえず差し押さえる場合でも、普通の納税者であり、滞納額が数十万円であれば、どこかの銀行預金の差し押さえで、通常は済む話です。タンス預金ではなく。もっとも、自治体によっては手法のバラツキもあるでしょうが。いずれにせよ、稀有な地方公務員ドラマとして評価したいです。

(追記2)

徴税吏員は集金人ではない

実地調査先で、「税金を払います」と現金を出されるシーンがありました。このような場合、徴税吏員はその場で納付書を書いて渡してきます。そして滞納者に自主的に金融機関で納付させるのです。納期限までに納めない人には延滞金をつけ、増額した納付書で自主納付させる、それが原則です。そうしなければ、「税金なんて、ほかっておけば、その内、税金取りが集めに来る」という事になり、「自主納税の制度が崩壊」しかねません。だから、徴税吏員は、差し押さえはしても、集金人ではないのです。

(追記3)

(トラブル覚悟で)公務員は言うべきことは言うが、(トラブル回避のために)余分なことは言わない


ドラマのラスト、「税金泥棒」的な捨てゼリフを言う滞納者に、徴税吏員が「公務員をなめるな」みたいな、ドラマの決めゼリフらしきものを言いました。これは、公務員バッシングを受けている公務員には溜飲が下がるものでしょうが、しかし、同時に冷や汗が出るシーンです。リアルな公務員がそんな反撃をしたら先輩上司から注意されるでしょう。この辺りも漫画チックです。

公務員は言うべきことは、嫌われようが、怒鳴られようが、言うのが仕事です。住民に正しい情報を伝えるのが役目だからです。しかし、その反面、余分なことは言わない人がほとんどです。つまらぬトラブルを避けるためです。TVドラマ「ハコヅメ〜たたかう! 交番女子〜」にもありましたが、公務員は住民の「サンドバッグ」なのです。

(追記4)

「ゼイチョ―・・・」は(ケンカツ)をライバル視しているのか

「ゼイチョ―・・・」の第1話を観なおしています。そうしたら、ヒロインがお弁当を開くと、豚肉を巻いたおにぎりが3つ入っていました。そして、第1話だというのに、滞納者が自殺騒動を起こすのです。幸い、ヒロインたちの機転で一命を取り留めますが。

このあたり、特に(ケンカツ)のヒロインの大好物がとんかつだったことを連想させ、そして、(ケンカツ)では助けられなかった住民を、「ゼイチョ―・・・」では機転を利かせて助けますから、どうも「ゼイチョ―・・・」は(ケンカツ)のオマージュの可能性があるというか、ライバル視しているような気がするのです。

「ゼイチョ―・・・」では徴税を、そして、尖がった性格の娘が丸くなっていく様を描き、(ケンカツ)はその税金を使った福祉を描き、そして、丸い性格の娘が尖がっていく様を描いて、一対にしたのかもしれませんね。本来これらの仕事は、「公平」にもつながる行政の裏表ですから。

(追記5)

おまわりさんに保護と逮捕という二面性があるように、市区町村役場の役人にも二面性はある


往年の人気TVドラマ「必殺シリーズ」は、昼行燈と揶揄されている江戸時代の目立たぬ公務員が、夜になると補助者つれて悪を成敗に行くお話です。

現代においても連想するものはあり、街のおまわりさんは住民に対して、保護と逮捕という二面性をもっていますし、それは、意外にも市区町村役場職員にも当てはまり、A面がケースワーカーなど、対象者にサービスする仕事であり、これが職員の大多数をしめ、B面が徴税吏員なのだと思います。

しかし、市区町村役場に就職しようとする多くの人は、A面しか想像してないと思います。面接で「福祉の仕事がしたいから公務員を選びました」とか答えるのではないでしょうか。

でも、全体の奉仕者であるためには、目の前の住民の財産を差し押さえ、その場にいない人との公平を図るという事もあるのです。この徴税吏員を経験すると、公務員の二面性が体感できます。ときに目の前の住民に嫌われるのも、必要な公務員の仕事である事が。

10/17の朝日新聞に「支援の食品 転売相次ぐ」という記事がありました。生活支援目的の米や食品引換券がフリーマーケットサイトで転売される事例があるのだそうです。それに対し、識者は「『性悪説』に立って考える訓練も行政には必要」との考えを示していました。この意識改革にも「徴税吏員」の仕事は適していると思います。

(2023.10.22)

Aさんが滞納者であるという情報は、原則として公務員の守秘義務になる

@ 2023.10.15の記事の続きです。『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』日本テレビ の第2話を観ました。 例えばAさんが滞納者であるという情報は、原則として公務員の守秘義務になると思うのですが、この回では、徴税吏員が第三者に教えてしまったように見えました。又、逆に、他人のプライバシーをAさんに教えているようにも。

どうやら、このシリーズは、「払えないにはワケ」を調べるときに、滞納者本人だけでなく、過去にさかのぼっての、周囲の関係まで調べ、問題が見つかれば、その関係を徴税吏員が調整することで、税金を払ってもらおうとするお話のようです。その斬新な作戦がウリなのでしょう。

しかし、滞納者本人を離れての調査は、公務員によるプライバシーの覗き見と言われかねませんし、たとえ調べても、その情報を漏洩した(守秘義務違反)と言われかねない作戦は、いかがなものかと思うのです。私が上司なら、あのような作戦を取ろうとする部下には「基本から離れるな」と注意したいです。

行政には適正な判断が必要だが、徴収率第一主義になると、「適正から乖離」する心配がある

又、終わり近くには、同市の徴収率を上げるため、副市長が納税課の職員多数をあつめ、檄を飛ばすようなシーンがありました。しかし、行政には適正な判断が必要であり、徴収率第一主義になると、「適正から乖離」する心配があります。

しかし、徴収率を上げて欲しい上層部。私なら、ドラマのように主事(平職員)まで集めて副市長自らが檄を飛ばすことは避け、代わりに、副市長が納税課長に話をし、納税課長が各係長を集めて話をし、各係長が係員を集めて話をさせるようなスタイルにしたいです。と言いますか、これが定石なのでは。

このように現場経験のある者をクッションとして入れる事で、とんがった副市長の話にいくつかの翻訳が入り、係員に伝わる頃には、適性な指示になることが期待できるからです。

そうしないと、副市長直々のとんがった指示だけでは、(神の声だと思った)主事は、差し押さえが適当ではない事例まで差し押さえかねず、結果、住民に迷惑をかけるだけでなく、マスコミで市長が謝罪する事になりかねないと、それが心配になります。

(追記)

徴収の仕事には順序があり、一般論として、滞納者にいきなり家宅捜索はしない

滞納者Aさんの勤務先であるパチンコ店に実地調査に行った徴税吏員たち。Aさんに面会して納付依頼をしますが、「払わない!」と言われます。すると徴税吏員は「家宅捜索をする事になる」と返すのですが、「家宅捜索」の前に、預金、申告書に記載の生命保険などの職権よる解約返戻金、そしてパチンコ店の給与差し押さえ等の手段があるように思います。

(追記2)もちろん、TVドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(ケンカツ)にも疑問点はありましたが、(ケンカツ)では新規採用者であるヒロインたちの(見習いゆえの)言動がその中心であり、教育係はほぼ常識的な言動をしていました。そして、ヒロインたちも回を追うごとにしっかり者になって行きました。しかし、「ゼイチョ―・・・」では教育係が疑問のある言動をしているように見えるので残念に思うのです。と言いつつも次回に期待していますが。

(追記3)

リアルには、徴税吏員とケースワーカーの両方を経験した人もいる

徴税吏員になるにはどうしたら良いですか? - 市区町村に採用さ... - Yahoo!知恵袋 実に端的な回答でした。確かに敬遠する人が多い係の一つです。その中で、知人には①徴税吏員③ケースワーカー③徴税吏員の順で経験した人がいます。両方経験して、徴税吏員方が性に合っていたと言っていました。徴収成績も優秀でした。

(追記4)

ヒロイン・山田杏奈さんは、新規採用者特有の初々しさを良く出していた


「ゼイチョ―・・・」のヒロイン・山田杏奈さんは、新規採用者特有の初々しさを良く出していました。まるで18歳で入ってきた新人さんのようでした。

(追記5)

TVドラマ「シッコウ!!~犬と私と執行官~」との違い

TVドラマ「シッコウ!!~犬と私と執行官~」と似ているという声があるようです。確かに「差し押さえに乗り込む」という点では似ています。しかし、ざっくり言えば、①執行官の仕事は裁判所が決めたことを実行する事であるのに対し、②徴税吏員の仕事は、自力執行権で、差し押さえの決定も自分でするものです。裁判所は関わりません。

しかし、自分で決めると言っても、そこにたどり着くには、担当者一人で100件単位の滞納者を抱えていることもあり、一件に数か月から、難件では年単位の時間がかかります。その間の、地道な催告と調査の不成功が、差し押さえにたどり着くのです。たとえは悪いですが、外交交渉の失敗が戦争になるのを連想します。

ドラマでは地道なその9割以上の仕事の描写をカットしていますから(たぶん絵にならないので)、TVドラマ「シッコウ!!~犬と私と執行官~」と似ているように見えてしまうかもしれませんが。

(2023.11.26)

「ゼイチョー」では「家宅捜索」を口にするが、「家宅捜索(差し押さえ)を回避するために働く」という、徴税吏員の仕事の本質を描いていたのかも

@ TVドラマ『ゼイチョー ~「払えない」にはワケがある~』の話です。第1話のオープニングに、ヒロインが警察官を引き連れて家宅捜索するエピソードが、いきなり挿入されました。これを観た私は、直前にも類似の番組がありましたし、この番組も家宅捜索のカタルシスがウリなのかと思いました。

しかし、先日もお話した通り、住民税のリアルでは、ほとんどの場合、自主納付や、預金や給与の差し押さえで済んでしまうので、家宅捜索に至る件数は僅かなのです。滞納額が50万円以上を受け持つような大口担当の納税係なら時どき家宅捜索もあるでしょうが、(滞納者の大勢である)滞納額50万未満を受け持つような小口担当の納税係では、一回も家宅捜索を経験せずに卒業する担当者ばかりだと言っても良いぐらいです。そこに、私は困惑したわけです。

しかし、その後、数話を拝見して、もう少し、このシリーズの事が分かって来たように思います。もしかしたら、第1話の家宅捜索は、視聴率を上げるための「つかみ」「撒き餌」(まきえ)のようなものだったのかもしれません。

毎回あるのかと思っていた家宅捜索は、その後は、あまり出て来ません。それどころか、ヒロインたちは、家宅捜索を回避しようと、(自主納税をさせるべく)汗を流しているのです。ここに至って、この、「家宅捜索(差し押さえ)を回避するために働く」という、リアルな徴税吏員の仕事の本質を描いていたのかもしれないと思いました。

滞納者だけでなく、一般の住民も、徴税吏員を「税金取り」という目でしか見ないと思います。過日、お話したように、法律上は「督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押さえなければならない」となっています。

なので、徴税吏員の手に仕事が回ってきたときには、遅滞なく差し押さえなければならず、(ある意味)それを回避すべく、滞納者側にも何かやむをえない事情があるのではないのかと、調査に動き回るのが、徴税吏員でもあるのです(もちろん、同時にそれは財産調査にもなります)。

一般には理解されていない、この逆の姿を、デフォルメして、マンガチックに描いたのが、この番組だったのかもしれません。先日お話したように問題点を感じなくもありませんが、このドラマの言わんとしていることが少しわかったような気もします。

(追記)

マイナカードの登録口座から自動的に差し押さえるようなプログラムは考えられない

マイナカードでは預金口座登録を求められていますが、もし「督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押さえなければならない」という法律を厳格に適用するならば、11日目には自動的に登録口座から差し押さえるようなプログラムは出来るでしょうか。

私は(絶対という言葉を使いたくなるほど)政府はそのようにはしないと思います。それでは滞納者各々の事情が無視されるので適正ではなく、又、実際の差し押さえには、納付確認のための期間や、差し押さえ予告などの手続きも必要だからです。徴税吏員は、その仕事のためにも、働いているのです。

(追記2)

「督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押さえなければならない」を父性だとしたら、それを回避しようと働く徴税吏員の仕事は母性とも言えそう

男女に対するステレオタイプの見方だと言われるかもしれませんが、「督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、財産を差し押さえなければならない」を父性だとしたら、それを回避しようと働く徴税吏員の仕事は母性とも言えそうです。

そう思って、このドラマを俯瞰すると、ヒロインは母子家庭であり、ヒロイン宅に家宅捜索に来た徴税吏員(後のヒロインの目標となる人物)も女性でした。

そして、笑顔を見せないヒロイン(父性も忍び込ませてある可能性も)とペアになる教育係の先輩は、(お道化が過ぎる)まるで子どものように描かれているのが見えてきます。実調でお菓子を欲しがり、ヒロインから止められるシーンもありました。まるで母子のようでもあります。

そして、(寝たきりで無言の)飛び降り自殺未遂の子供の世話をしているのはいつも母親です。無言の子供は、秘密を持つ滞納者の記号でもあるのでしょうか。

このように、このドラマは、ヒロインを通して徴税吏員の母性性を描いていたのかもしれません。

(2023.11.27 追記)

「お仕事ドラマ」の主人公は、深く仕事相手と関わることで感動の物語を作るが、リアルでは、さまざまな理由で、そのようには動けない

2023.10.22の記事にも関連する話ですが、例えば、滞納者Aさんが税金を払えない理由が、知人のBさんにあった場合、通常、ドラマのように、役所は間に入って調整はしません。ですから、ドラマのような活躍を役所に期待してもらっても困ります。

役所はAさんに催告をするだけです。Aさんは自分でBさんと交渉する必要があります。それは役所側の守秘義務の問題もあるでしょうし、他の住民との公平性の問題や、住民同士の問題に役所が巻き込まれるのを嫌う事もあります。なので、通常、役所はAさんに、結果だけを求めます。

その事情は役所にまったく考慮されないのかと言えば、必ずしも、そうではなく、役所がやむを得ないと判断すれば、一括納付が分割納付になったり等、なんらかの配慮がなされることはあります。

これにかぎらず、いわゆる「お仕事ドラマ」の主人公は、深く仕事相手と関わることで感動の物語を作りますが、リアルでは、さまざまな理由で、そんなふうには動けないようです。

(これは2023.1015.以降のパレット記事をまとめ加筆再掲したものです。)


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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