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#ネタバレ 映画「白夜行」

「白夜行」
2010年作品
誰もが自分のシナリオを書く
2011/2/18 10:29 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

つい先日も、ストーリーを作って、証拠まで改ざんして…というニュースがありました。

この映画では、警察の上司が、出世という自分のシナリオを早急に叶えようとして、捜査会議で異論をとなえる部下の口を封じてしまうシーンがでてきます。

部下の潤三は、出世など望んではおらず、ただ愚直に生きる、というシナリオを持っていただけなのに。純粋に事件の真相を解明するということしか考えていなかったのに。

そして雪穂。彼女が見本にした人生のシナリオは「風と共に去りぬ」でした。もちろん、それ自体は問題ありません。

亮司。彼は、最も可愛そうな女だと認知した雪穂を守る、いわば騎士の役目を、自分のシナリオに選んだのでしょう。

シナリオは誰でも大なり小なり持っているでしょう。持っていないのは、明日を思い煩わないペットぐらいなのかもしれません。

しかし、今回問題だったのは、二人が子どもの頃に初めて直面した社会というものが、極限の性悪説を二人に植え付けてしまったことです。それが不幸なシナリオを育てる種になった。

それからの彼らにとって、社会とは利用すべき道具、にしか過ぎません。他人にはゴキブリ程度の価値しか認めなくなってしまったのでした。

この作品は、どこか映画「ぼくのエリ200歳の少女」にも似ていますね。もちろん細部は違いますが、ともに深い哀しみの物語で、モールス信号まで登場します。

モールス信号は、いつから「孤独な魂を結びつける為の、はかない道具」という!?記号を持っていたのでしょうか。

少し雑然とした感が残ります。良い素材ですが、もう少しシナリオの推敲ができたかもしれません。

★★★

追記 ( 誰もが自分のシナリオを書く )
2011/2/19 12:18 by さくらんぼ

>シナリオは誰でも大なり小なり持っているでしょう。持っていないのは、明日を思い煩わないペットぐらいなのかもしれません。

警察の上司と雪穂は、自分の利益を優先するシナリオに生きていました。意外な組み合わせですね。でも、上司は出世を焦っていたようでしたし。

潤三と亮司は、他人の利益を優先するシナリオに生きていました。潤三は自分の出世よりも、他人の出世の踏み台になることを甘んじていましたし、愚直に仕事をし、社会貢献することも喜びとしていましたから。

ラストで、潤三が亮司に対し、自分の子どもであるが如く感情移入していたのは、潤三の中に、もう一人の自分を見たからだと思います。そして亮司が自殺したのは、自分が逮捕され事件の全容が解明されれば雪穂も破滅するからですね。

でも騎士としてそれは甘受することは出来なかった。亮司は潤三を殺すことも出来たはずです。しかし、心から発せられた言葉、思いもよらない温かい言葉をかけられたので殺意は消え、もう自分が死を選ぶほか選択肢は無かったのでしょう。

他人に捧げるのみの人生で、ささくれ立ってしまった亮司の心には、暖かな言葉をかけてくれる潤三のことが仏様のように感じられたのかもしれません。

誰もが自己のシナリオを書くでしょう。その中には、自己の利益の他に、他者の利益(公益、公徳心など)もバランスよく含めるものだと思いますが、この映画ではそれを分離して二者に分けることで、人生の危うさを見せたのかもしれません。

でも、ラストの亮司の行動は、バランス感覚が回復したとも取れるのではないでしょうか。潤三のしたことは、ある意味、聖職者と同じだったのです。

よく「黄金の中庸」とか申しますが、その意味の大きさを再確認しました。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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