#ネタバレ 映画「ウインド・リバー」
「ウインド・リバー」
2017年作品
がんばれ新人
2018/7/30 21:57 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
正直に申し上げますと、私は「雪山」を舞台とした映画があまり好きではありません。白一色の世界で、地味な物語でも語られようものなら、それこそ退屈でたまりませんから。
この映画「ウインド・リバー」も、予告編を観ても、チラシを眺めても、触手が動きませんでした。それでも観に行ったのは、「だからこそ、きっと空いているはずだ」と踏んだからです。ものごとには優先順位というものがあります。
ところが何ということでしょう。驚いたことに、近ごろ珍しいほどの満員ではありませんか。
そして、とても面白い佳作でした。さすが皆さまは眼が肥えていらっしゃる。
これは、まるでTVドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(ケンカツ)の、警察版と言っても良いような物語だったのです。
さらに驚いたことには、私が冒頭で述べた「白い退屈」を、映画の後半、犯人たちまでが語りだしたのです。
★★★★☆
追記 ( まろやかな音 )
2018/7/30 22:07 by さくらんぼ
この映画館(と言っても、どの映画館だか分からないかもしれませんが)、以前から、こんなに音が良かったでしょうか。
まろやかで耳障りな刺激音が無く、しかも音量も適切でした。「うっとりと」、まるでホームシアターで観ているみたです。
映画が終わってから気がついたのですが、疲労感が少ないのです。従来の「映画の疲労」の中には、「音による疲労」も少なからずあったことが、今回分かったような気がしました。
追記Ⅱ ( 深層的にはホラーなのか )
2018/7/31 8:37 by さくらんぼ
これは映画「スリー・ビルボード」+映画「ペイルライダー」みたいな作品。
追記Ⅲ ( 白い馬 )
2018/7/31 8:52 by さくらんぼ
チラシを見てください。
血のりの散った、人型にくぼんだ雪と、
それを眺める白装束一人。
まるで霊魂が、自分の抜け殻を眺めているようでもあります。
映画「ペイルライダー」の主人公が乗っていた白い馬、あれも主人公がこの世のものでは無いことを暗示していました。
白装束は、かつて誰かに娘を殺されたベテランハンターのコリーです。彼は自分の娘のようなFBI捜査官から依頼を受け、スノーモービルを駈って馬代わりになるのです。
追記Ⅳ ( 娘の面影 )
2018/7/31 9:14 by さくらんぼ
コリーの娘に続き、今回はネイティブアメリカンである親友の娘が犠牲になりました。同じような手口で。
親友の娘は、雪山で眼を開いたまま死んでいました。眼球にもうっすらと雪が。
そこに派遣された新人FBI捜査官ジェーン。
(眼にあたる)クルマのウインドウには雪が貼りつき、曇っていました。コリーとウインドウを開けて会話するジェーン。
ジェーンは出先から直行してきたので、防寒具がありませんでした。しかたなく地元の家で借りることに。
着替えた姿を見たコリーが「はっ!」とするシーンがあります。たぶんコリーは、普段着になったジェーンに自分の娘の面影を見たのでしょう。
これで役者はそろいました。今、娘たちの魂が、白い馬に乗って悪を成敗するために降臨したのです。
追記Ⅴ ( 法律より正義 )
2018/7/31 9:40 by さくらんぼ
レイプ犯罪が行われ、そこから雪山に逃げて死んだのに、直接の死因は「マイナス30℃の冷気で肺がやられた事故死」になるのです。もし、それをFBI本部に報告すれば、ジェーンに帰還命令が来ます。殺人事件では無いからです。
後の処理は、地元の警察に任されます。しかし地元警察は頼りなく、迷宮入りの可能性が高い。そこまで考えたジェーンは、報告を保留し、自らコリーに協力を依頼して、単身捜査に当たるのです。
彼女は「法律より正義」を大切にしたのです。そのこだわりは、新人だからでもありましょうし、「娘たちの魂」でもあったからでしょう。そして、あの場所での、法的な捜査権はジェーン一人にしかありませんでした。
追記Ⅵ ( まるで西部劇 )
2018/7/31 10:06 by さくらんぼ
広大なアメリカ大陸。FBIが出てこないと、辺境ではずいぶん迷宮入りの事件があったようです。
そんな地では、映画「スリー・ビルボード」みたいな自警団といいますか、「身の安全は己の銃で守る」となるのかもしれませんね。
まるで西部劇のよう。
「 厳寒の大自然に囲まれたネイティブアメリカンの保留地“ウインド・リバー“を舞台に、色濃い差別や偏見が渦巻く、閉鎖的なアメリカの片隅の世界を鋭く描き出す 」
( 映画生活「ウインド・リバー」解説より抜粋 )
追記Ⅶ ( 反対側から見てみる )
2018/8/1 9:01 by さくらんぼ
「法律より正義」。
しかし「法律は一つでも、正義は人により違う」ことがあります。
映画「ランボー」では、田舎の警察官が、よそ者のランボーを厄介者扱いし、いじめていました。この思想は、もしかしたら多くのアメリカ人が持っているものかもしれませんね。上級官庁のFBIでさえ、ああだったぐらいですから。
リアルでも、警察官による黒人への暴行や射殺事件が絶えません。「人種差別」という言葉でかたずけられていますが、警察官の心の片隅に、「法律より正義」という気持ちはまったく無いのでしょうか。彼らの正義とは、「黒人を見たら犯罪者と思え」なのではないのでしょうか。
他国の話とは限りません。
日本でも「人を見たら泥棒と思え」という言葉がありますが、これは「名誉棄損」の疑いはないのでしょうか。昨今は、「よそ様の子どもに話しかけると警察に通報されかねない雰囲気」でもありますが。
追記Ⅷ ( エンディングテーマ )
2018/8/2 11:09 by さくらんぼ
ともあれ、エンディングテーマの美しさは忘れられません。聴き惚れてしまい、慌ててトイレにダッシュしました。
追記Ⅸ ( 池上さんも )
2018/8/2 11:14 by さくらんぼ
「 池上彰、映画『ウインド・リバー』にうなる!『アメリカの闇が見えてくる』 」
追記Ⅹ ( 「マイナス30℃」の疑惑 )
2019/2/9 22:11 by さくらんぼ
>レイプ犯罪が行われ、そこから雪山に逃げだして死んだのに、直接の死因は「マイナス30℃の冷気で肺がやられた事故死」になるのです。もし、それをFBI本部に報告すれば、ジェーンに帰還命令が来ます。殺人事件では無いからです。(追記Ⅴより)
「マイナス30℃の世界では、走ると、すぐ肺が凍って即死する」。そのように、映画 「ウインド・リバー」では描かれていました。
そして、2019年の2月初め、記録的な寒波で、北海道でもマイナス30℃が観測されましたが、NHKのニュースでも、シャボン玉が空中で凍ってしぼむ様子とか、子どもたちが外で遊ぶ姿を報道しても、「即死する」という注意は、私の知る限りありませんでした。
謎は、また深まりました。
追記11 2022.12.18 ( お借りした画像は )
キーワード「雪山」でご縁がありました。苦手な白い「雪山」で検索して、だいじょうぶかと思いましたが、こんなに心地よい風景を見つけました。無加工です。ありがとうございました。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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