#ネタバレ 映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」
「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」
2012年作品
様式美の極み
2019/2/1 10:07 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
もちろん刑事ではありませんが、仕事をリタイアした私にとっても、青島刑事が出入りする湾岸署のオフィースや、同僚たちとのやりとりなどが、古巣を思いだし、懐かしく思えました。
映画の中に、リタイアした三人組の上司たちが、「指導員」の腕章を付けて、署内をうろうろし、迷惑がられるエピソードがありますが、三人組の気持ちも分かるような気がします。
あの古巣に漂う「気」を浴びるだけでも、長年生息した彼らには栄養になるのでしょう。ある意味ドラッグみたいですね。
★★★★
追記 ( 様式美の極み )
2019/2/1 16:34 by さくらんぼ
(正直に言えば)あまり躍動感の無い、地味目のストーリーでした。
しかし、このドラマでは、キャリア組トップの面々が、自己と組織の保身のため、関係のない民間人を犯罪者に仕立て上げようと画策するのです。
異変に気づきかけた主人公・青島(織田裕二さん)も、口封じのために、汚名を着せられ、問答無用でクビになります。
一方、ヒロイン・すみれ(深津絵里さん)も、以前拳銃で撃たれた古傷が痛み、刑事を続ける事が出来なくなって、密かに退職願を出すのです。
しかし、そんな、すでに民間人になってしまった二人が、乗りかかった事件を解決するため、そしてキャリア組の陰謀を暴くため、こちらもクビになる予定の、上司の室井(柳葉敏郎さん)の協力を得て、(職務権限というか、法律的にはどうか知りませんが)捨て身の犯罪捜査をするのです。
このドラマでは、従来から描かれてきた「キャリア対ノンキャリア」の対峙が、極めて象徴的に展開されます。それどころか、主人公二人に至っては、民間人になりましたから、ノンキャリアですらありません。
あの「ゴジラ」が「能」にも通じる様式美の世界ならば、今回の映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」も、「踊る…」のファイナルにふさわしい、様式美の世界だったのかもしれません。
追記Ⅱ ( 缶ビール )
2019/2/2 9:04 by さくらんぼ
では、青島たちノンキャリア組は清廉潔白かというと、そうでもありません。
中国系(!?)らしき、日本語が少々不自由な事務係が、お茶か何かと間違えて、缶ビールを軽トラック一台分ぐらい買ってしまったのです。
「警察が予算で缶ビールを大量に買い込んだ」と分かれば、警察の内外で大騒ぎになります。だから、即刻「危険物」のテープを張って隠蔽しました。この件は、もちろん青島も承知しています。
要するに、次元こそ違いますが、キャリアも、ノンキャリアも、自分たちに都合の悪いことを隠ぺいしようとする体質は、同じだったという事です。
このドラマは、そんな人間の真の姿を晒していました。そこは好感が持てますし、対位法とまでは言いませんが、これも様式美なのでしょう。
追記Ⅲ ( やがて哀しき )
2019/2/2 9:19 by さくらんぼ
そして、哀しいのは、ヒロイン・すみれです。
あの後、すみれは、青島を助けるため、単身、バスを確保して、文字通り敵地へ突っ込みます。「ダーティーハリー」も真っ青な描写。
そこで、青島との愛を確認しますが、「刑事を辞めないでくれ」という青島の言葉に、無言で少しうなずいただけで、映画のラスト、事件解決の歓喜の輪の中には、私の知る限り、見当たりませんでした。
追記Ⅳ ( ヒロインの中にもある「芽」 )
2019/2/3 9:31 by さくらんぼ
>要するに、次元こそ違いますが、キャリアも、ノンキャリアも、自分たちに都合の悪いことを隠ぺいしようとする体質は、同じだったという事です。(追記Ⅱより)
そして、以前拳銃で撃たれた古傷が痛み、刑事を続ける事が出来なくなって、密かに退職願を出したヒロイン・すみれも、隠したという点では同じでした。
要するに、誰の心の中にも、都合の悪いことは隠したいという気持ちはあるのです。そして、その芽が悪く育ち過ぎてしまうと、キャリア組たちの陰謀のようになってしまうのです。
追記Ⅴ ( 知らぬ間に季節はめぐる )
2019/2/3 9:53 by さくらんぼ
又、公務員が法律と現実の間で迷うことは、日常的にあります。「迷うこと自体が日々の仕事だ」と言っても過言ではないぐらいに。
住民は便宜を図ることを求めてきます(つまり「一部の奉仕者を求める」のです。もちろん、役所の仕事は厳格ではなく、適正である事が必要ですが、「全体の奉仕者」でなければいけません)。
そんな中で生きていると、自分たちの裁量でルールから逸脱して行くことへの抵抗感が、気づかぬうちに、だんだんと薄れていくのかもしれません。
もちろん、無実と承知で犯罪者に仕立て上げるなど、言語道断ですが。
追記Ⅵ ( 「憲法尊重擁護義務」 )
2019/2/3 10:44 by さくらんぼ
日本国憲法
第九十九条 「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
第九十八条 「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」(抜粋)
公務員には「憲法尊重擁護義務」があって、新人の時には、宣誓の儀式も行います。
でも、追記Ⅴで書いた通り、もしも、ルールから逸脱することに抵抗感が薄らいだ公務員がいて、「憲法を守る自分たちの仕事の壁になる法律は、憲法違反にも等しく、あまり価値のないもの」という美名で、他の法律への曲解を無意識のうちに行うようになり、一線を越えてルールを軽んじるようになったとしたら…
いや、そんなことは映画の中だけで、現実には、ありますまい。
追記Ⅶ ( ヒロインの依願退職 )
2019/2/3 13:34 by さくらんぼ
刑事はどうかは知りませんが、一般に公務員が依願退職するときは、普通、人事異動の時期である3月末日付で辞めます。他の定年退職者(誕生日ではなく3月末日付)といっしょに退職となります。だから、そこまでは何とか仕事を頑張らなければならず、中途半端な日付で辞める人は皆無に近いです。
退職願は、少なくとも、その数か月前には出さねばいけません。総務課もいろいろ準備がありますから。
そして、退職願を出す、その数か月前には、直属の上司に、人生相談しておくものです。上司としても後任人事などを含めて、いろいろ考える必要があるからです。
今回のヒロイン・すみれの場合も、「立つ鳥跡を濁さず」のために、もっと早く上司に相談すべきでした。
古傷が痛んで、どうしても刑事の仕事がつらければ、たまっているであろう有給休暇や、診断書をもらっての病欠扱いで休んでも良いし、内勤の事務職へ、特例での人事異動を希望してもよいのです。そうやって、出来れば3月末日までなんとか我慢して、他の者と一緒に退職するのです。
さらに、その間に、仕事の引継ぎとか、お世話になった人たちへの挨拶も忘れてはいけません。
この映画では、その辺りのことがカットされていましたが、実は、とても大切なことの一つだと、私は思います。
追記Ⅷ( いかりや長介さんの存在価値 )
2020/8/5 18:04 by さくらんぼ
「踊る大捜査線」は、現場の刑事・青島俊作(織田裕二さん)と、本庁の上司・(柳葉敏郎さん)の対立が見所です。
しかし、青島俊作は、現場たたき上げの和久平八郎(いかりや長介さん)の形見のコートを記号として着ていますから、和久平八郎の分身なのだと思います。
つまり、現場たたき上げのおじさん刑事と、本庁の若手キャリア組との物語でもあるのです。
キャリア組は優秀でしょうが、一般論として、彼らに会議室の経験はあっても、現場の経験が足りません。
どちらに属するにせよ、例えば勤続10年目だとすると、10年分学んだ者と、学んでいない者との差は歴然です。
だからキャリアは、公務員がどのようなアクションを起こせば、住民がどう反応するかのついての(皮膚感覚での)予見が苦手です。
しかし、キャリアもノンキャリアも、具体的事例で、お互いに対立するまで、それに気づかないのです。話し合っても理解しがたい壁があると、対立して初めて悟るのです。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)