見出し画像

#ネタバレ 映画「とらわれて夏」

「とらわれて夏」
人は自分が信じたいことしか信じない
2014-05-28 21:29 byさくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

「信じるのが仕事の牧師と、疑うのが仕事の刑事が出会う。その時、世界はまさにひっくり返った。この価値観の混乱期に、果たして牧師と刑事のどちらの生き方が通用するのか。従うは社会的弱者たち…」(映画「ポセイドン・アドベンチャー 」2003/7/2 15:17 by さくらんぼ より抜粋)

何歳になっても恋愛論は興味深く読めますね。

そう言えば、若い頃に読んだ本に、「相手の事を完全に理解してから結婚を決めよう、などと企むと、結婚できない」みたいなことが書いてあったのを思い出しました。

道ですれ違う人に一目ぼれをして、恋愛の結晶作用で、勝手に内面まで理想の相手だと信じ込んで、あとは、もう、情熱で突っ走ってしまうのが、無謀と言えば、無謀ですが、ある意味、普通の恋愛なのでしょう。無謀にも相手を信じる、だから結婚できるのだと思います。

誤解を恐れずに言えば、結婚は、ある意味、株と同じ。

結婚も一つのバクチなのだと思います。

たとえ相手が、家柄や外面だけでなく、内面まで文句のつけようのない理想的な人だったとしても、事故や病気で、明日にも亡くなる可能性もゼロではないので、やっぱり人知を超えた賭け事なのです。

そして映画「とらわれて夏」。

フランクはマーケットでアデルを見初めました。さっそくフランクはヘンリーを仲人にしてアデルに接近します。

でも、フランクは殺人犯で脱獄犯、常識的に考えたら、第一級の危険人物です。普通は、このシチュエーションで恋愛ゲームなどありえない。でも、アデルは信じることにしたのでした。

人は自分が信じたいことしか信じない、これが主題でしょう。冗談めかして真実を言ったら相手が信じなかった、と言うエピソードがいくつか出てきましたね。

それから映画の途中で、ドアのところに貼ってある映画「E.T.」のポスターが大写しになり、さらにドアを開けると、七色に輝く、UFO代わりのステンドグラスがありました。

この記号が意味するところは、この作品が映画「E.T.」へのオマージュであり、E.T.同様にフランクは神の使いであり、そして、あの家は協会の記号でもあったのかもしれません。

フランクの脇腹の傷は、キリストが十字架で脇腹を刺された記号でしょう。それなら、フランクが料理から大工仕事まで、それだけではなく、人間心理までも精通している万能選手である意味が分かります。あんな男は、ちょっといませんから。

そして映画「E.T.」をオマージュにしているのなら、子供は重要な役どころです。ヘンリーもまた、屈折した少女(悪魔?)を信じ、操られそうになるのでした。

アデルは一見は悪魔的な(でも、よく見ると、内面の邪気はありません。)フランク(神)を信じ、ヘンリーは一見は天使的な(でも、よく見ると、内面の邪気があります。)少女(悪魔)を信じたのも面白いですね。ここは人生経験を積んだ大人向けの微妙な役作りがされています。

また、普通は「子はカスガイ」とか言いますが、場合によっては、親子で三角関係になり、子が放り出されることもあるのですね。日本でもネグレクトの原因になっています。

そして、ラストは健さんの映画みたいな展開でした。

米国らしく、神を信じた者は最後には救われたのです。

最近公開された映画「あなたを抱きしめる日まで」では、キリスト教の教義「狭き門より入れ」に拘りすぎて起こった不幸を提示したようですが、この映画「とらわれて夏」では、世界を敵に回しても「狭き道より入れ」に従ったアデルの幸福を描きました。逆もまた真なり、と言うか、どっちやねん、と言うか…。

近年、高齢化が進むにつれて、中高年の恋愛の必要性も増してきました。人生経験が豊富で、酸いも甘いも噛み分けた大人には、定石を知ったうえで、あえて定石にこだわらない自由奔放な恋愛がふさわしい、そういう声が聞こえてきました。

今、大人の恋をしている二人は、自信を持ってください。周囲の人は、おおらかな、温かい目で、見守ってあげてください。今さら、手あかのついた常識を振り回さないでくださいと、言いたい気分です。

しかし、殺人犯が親戚に入ったら、親戚縁者は迷惑するだろうなぁ。

映画「手紙」にもあったけれど、孫子の代まで、就職や結婚が難しくなるのを覚悟しなければいけないのかも。

そんな彼らは、(オーバーに言えば)親兄弟、親戚縁者の縁を切って、外国にでも逃避行し、そして一生涯、近所の氏神様あたりに謝罪のお祈りをささげながら、それこそ音信不通状態で、ひっそりと暮らさなければならなくなるのでしょうか。

そんな生活をしたら、自責の念から邪気が溜まり、それが病気を発症させたりして・・・。

ハッピーエンドだと思っていたけれど、レビューを書いていたら、だんだん気が重くなってきました。

結末の本当はビターな大人味かも。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


いいなと思ったら応援しよう!