「遠き恋人の君」
「遠き恋人の君」 西城秀樹
詞 沢田知可子 曲・編曲 宅見将典 duet Rie(#MILK)
2008年に録音されたままリリースされず、隠れた名曲というクリスマスソング。秀樹が、若き恋の想い出を沢田さんに語り、それを歌にしたのだそう。そう思って聴くと、ちょっと胸がざわついたりもするけれど。
私がこの歌に重ねるのは、まさにあの頃。学校帰りに赤坂へ飛んでいって、秀樹が来るのを待っていた、あの頃のこと。
あの頃。私達にとって赤坂のあの事務所界隈は、現実の学校生活とは別の「青春学園」のようなものだった。
仕事の合間に駆けてくる秀樹と、ほんの束の間でも向かいあい、
「おはよ」「さむいね」「こっちにおいで」「どうしてた?」
そんな他愛ないことばを交わすだけで、十分だった。
わざといじわるをされたり、からかわれたり。そのいじわるにムキになって怒って笑われたり。そんな「青春ごっこ」の相手をしてくれた秀樹の存在は、やっぱりあまりに大きくて。
16歳のまだ子どもだった女の子にとって、3つ年上の秀樹は「憧れの君」だったけれど、17になる頃には(たとえごっこでも)「片想いの相手」となり、18になりもうすぐ高校卒業という頃には、この「片想い」の途方もないせつなさが、苦しいばかりになってきて。
そんな「壮絶片想い」の辛さから逃れるべく、私たちは、赤坂の街を去ったのだった。と言っても、こちらが勝手に恋焦がれて苦しんでただけで、もちろん当の秀樹はそんなこと知るよしもなく(笑)。ちょうど猛烈に忙しくなっていく頃で、事務所に寄る回数も減っていたから、自然な流れではあったのかもしれないけれど。
でも、とにかく。今思えば少女漫画の主人公のような人を相手に(たとえ一方的にであっても)「恋してた」のだから、そこから離脱するのは大変なことだった。油断すればすぐにも引き戻されそうで、でももうあんなに苦しい日々に戻る勇気もなく、とにかく普通の(?)青春生活を楽しむべく、それまでの3年間のことは、固く硬く封印したのだった。
だから。
私達にとって秀樹との日々は、まさに「ちゃんと終わらせてない恋」だった。終わらせないまま封印して、ずっと見ないようにしてきた。そして秀樹がこの世にいなくなって、封印がとけて。
立ち止まり、ふり向いてみれば、とっくに朽ち果てたと思っていた「終わらせていない恋」が、今も瑞々しいままにこぼれ落ちてくる。
持て余すほどの切なさを何とかしたくて、人は恋を成就させようとする。でも成就させる術を知ったオトナになってから振り返ってみれば、「恋愛」と「恋」は別物だってことが分かる。
あの切なさこそが「恋」だった。
あんなにも誰かに恋焦がれることができたのは、あの切なさを丸ごと抱えていたから。恋を恋のまま抱きしめていられたあの頃、ほんとうに、一番「恋してた」。
遠き恋人の君。
クリスマス に君を思う。
「遠き恋人の君」は『HIDEKI UNFORGETTABLE-HIDEKI SAIJO ALL TIME SINGLES SINCE1972』(CD+DVD BOX)に収録されています。