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「頭頂葉の機能とその神経心理学的意義」

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序論

頭頂葉は大脳皮質の中央上部に位置し、前頭葉、後頭葉、側頭葉などの他の大脳連合野と密接に連携している重要な神経接合領域である。この領域には、体性感覚情報を処理する中心後回や、視空間認知などの高次機能を担う後部頭頂皮質が存在する。頭頂葉は外界の対象を認識するための視覚、聴覚、触覚、平衡感覚などの多様な感覚情報を統合し、対象のイメージ形成や操作、自己身体の認知を可能にする。このような視空間認知や多感覚統合の機能を果たすには、前頭葉や後頭葉、側頭葉などの他の大脳領域との相互作用が不可欠である。


頭頂葉の神経解剖と機能連携 - 解剖学的位置

頭頂葉の主要部位の一つが中心後回であり、これは一次体性感覚野(SI)に相当する。中心後回は中心溝と中心後溝に挟まれた細長い領域に位置し、頭頂葉の最前部に当たる。この領域には体部位再現があり、背側から腹側に向かって足→手→顔面の順に体性感覚が体系化されている。中心後回のうち、BA3は一次領野の特徴を持つ顆粒化皮質であり、BA1/2は二次領野的な性質を帯びている。

一方、中心後溝より後方に広がる領域が後部頭頂皮質(PPC)である。この領域は視空間認知や多感覚統合など、高次の認知機能を担う頭頂連合野に相当する。後部頭頂皮質は頭頂間溝により上頭頂小葉(BA5、7)と下頭頂小葉に分かれ、下頭頂小葉はさらに縁上回(BA40)と角回(BA39)に区分される。下頭頂小葉では体部位再現に加え、動作のゴールが符号化されており、視覚情報の処理にも関与する。頭頂間溝内部にはVIP、LIP、AIPなどの機能分化した領域があり、体性感覚、視覚、運動情報を統合する。このように頭頂葉は前頭葉や後頭葉、側頭葉などの他の大脳領域と密接に連携しながら、感覚統合と行動制御に重要な役割を果たしている。

頭頂葉の神経解剖と機能連携 - 機能的連携

頭頂葉は前頭葉、後頭葉、側頭葉などの他の大脳領域と密接に連携しながら、様々な感覚情報の統合と処理を行っている。視覚情報の処理においては、一次視覚野のある後頭葉との連携が不可欠である。また、聴覚情報の処理や対象の視聴覚的認知、カテゴリー形成には前頭側頭連関が重要な役割を果たす。

特に後部頭頂皮質では、頭頂間溝内に機能分化と体部位表現がみられる。縁上回前部やVIPは口部顔面、縁上回後部やAIPは手指、角回やLIP、CIPは視覚や眼球運動に対応している。これらの領域は、物体把握、注意・運動制御、空間知覚、多感覚統合など、高次の認知機能を担っている。

一方、頭頂葉内側面の楔前部は、デフォルトモード・ネットワークの中心的役割を果たし、外部からの感覚情報と自己情報を統合する。この領域は後部帯状回や脳梁膨大後部領域と結合して、エピソード記憶の想起や道順想起などにも関与している。このように、頭頂葉は各領域が分担しながら、他の大脳領域との機能的ネットワークを形成し、視空間認知や多感覚統合、自己身体認知など、高次の認知処理を可能にしている。

多感覚統合と空間認知

頭頂葉は視覚、聴覚、触覚、体性感覚、平衡感覚など、様々な感覚モダリティからの情報を統合する機能を担っている。外側頭頂皮質、特に後部頭頂皮質の上頭頂小葉領域では、物体把握、空間知覚、注意制御、多感覚統合などの高次認知処理が行われており、前頭葉や後頭葉といった他の大脳連合野との連携が不可欠である。頭頂葉はこうした多感覚統合を通じて、外部対象のイメージ形成やその操作、さらには自己身体の認知を可能にしている。

また、頭頂葉は視空間認知のみならず、社会的認知にも関与している。後部頭頂皮質の下頭頂小葉、特に縁上回や角回は、模倣行動や動作理解、意味処理や表象形成などに関わっており、共同注意のネットワークを形成する。つまり頭頂葉は、他者の行動を理解し、自身の行動と統合する機能を担っているのである。

さらに最新の知見では、頭頂葉が空間のみならず数や時間などの「大きさ」の一般化システムを有することが示唆されており、今後のさらなる機能解明が期待される領域である。

頭頂葉損傷と神経心理学的症候 - 左半球

左半球損傷では、主に言語や行為の障害が現れる。代表的な症状として、観念運動性失行や観念性失行がある。これは行為の実行や意図形成に障害が生じる症状で、道具の使用や手指運動の模倣などができなくなる。

また、伝導性失語も左半球損傷で起こりやすい。音声言語の復唱が困難になり、音韻性錯語(子音や母音の入れ替えなど)が多く見られる。これは、言語の音韻処理に関わる左半球の障害によるものである。

さらに、Gerstmann症候群は左半球の体性感覚野や頭頂葉が損傷した際に生じる。手指失認(自身の手指が正しく認識できない)、左右失認(左右の区別ができない)、失算(計算障害)、失書(書字障害)など、一見バラバラな症状が同時に現れるのが特徴である。これらの症状は、左半球の視空間認知や数の処理、身体イメージ形成などの障害に起因すると考えられている。

左半球損傷による神経心理学的症候は、言語や行為、視空間認知、身体認知など、多岐にわたる高次機能障害を呈する。言語と行為の障害が中核にあり、空間や数、身体のイメージ化の障害も重要な役割を果たしていると考えられる。

頭頂葉損傷と神経心理学的症候 - 右半球

一方、右半球頭頂葉の損傷では、左半側空間無視が特徴的な症状として現れる。患者は左側の空間を無視してしまい、左半身や左側の物事に気づかなくなる。これは右半球、特に右頭頂葉が空間的注意の分配に重要な役割を果たしているためである。また、道順障害も右半球損傷で生じやすい。道順の記憶や方向感覚が障害され、場所の認識や経路の把握が困難になるのが特徴だ。さらに、病態失認といった症状も起こりうる。見たものとしての認知は可能だが、その対象の使用方法や目的が分からなくなる。

このように、右半球損傷では空間認知や視空間的注意に関わる広範な障害が生じる。これは右半球が座標的な空間情報処理に優れているためと考えられる。一方、左半球は対象部分間の関係をカテゴリー的に処理するため、言語などの機能障害が目立つ。このように、左右半球の機能の違いが、損傷後の症候の現れ方に影響を及ぼしている。

頭頂葉の一般化システム

頭頂葉には、数のみならず空間、時間、サイズ、スピードなどの「大きさ(magnitude)」に関する一般化されたシステムが存在することが示唆されている。この「マグニチュード理論」では、様々な次元間にリンクがあり、空間と数、時間と量など、類似したメカニズムで処理されていると考えられている。具体的には、左半球は数の処理、右半球は空間・時間・量の処理にそれぞれ長けており、正確な数処理には言語が必要だが、時間・空間情報は運動の調整により重要とされる。

このように、頭頂葉には「大きさ」の一般化されたシステムが存在する可能性が指摘されており、今後さらなる機能解明が期待される。頭頂葉は巨大な接合領域であり、様々な角度から捉え直すことで、その機能がより明らかになっていくと考えられる。

結論

頭頂葉は視空間認知や多感覚統合、自己身体認知など、高次の認知機能に深く関わる大脳の中核的領域である。前頭葉や後頭葉、側頭葉などの連合野と密接に連携しながら、外部対象のイメージ形成や操作、内的感覚の統合を担っている。頭頂葉損傷による様々な神経心理学的症候は、この領域の機能的重要性を物語っており、左右半球損傷で異なる症状が現れることから、頭頂葉内での機能局在も示唆される。

さらに、頭頂葉には空間や数、時間などの「大きさ」に関する一般化されたシステムが存在する可能性が指摘されている。頭頂葉の巨大な接合領域は、人間の高次認知機能に関する重要な手がかりを秘めていると考えられ、今後の研究が期待される。その解明には、他の大脳領域との相互作用を考慮に入れることが不可欠である。様々な角度から頭頂葉を捉え直すことで、この領域の機能がさらに明らかになるであろう。頭頂葉研究は、人間の認知メカニズムを解き明かす上で極めて重要な意義を持つ。

キーワード

頭頂葉(Parietal Lobe): 大脳皮質の中央上部に位置する重要な神経接合領域。視空間認知、多感覚統合、自己身体認知など、高次認知機能に関わる。

一次体性感覚野(Primary Somatosensory Cortex): 中心後回に存在し、体性感覚情報の一次投射野。

後部頭頂皮質(Posterior Parietal Cortex): 視空間認知や多感覚統合に重要な役割を担う。上頭頂小葉、下頭頂小葉(縁上回、角回)に分かれる。

縁上回(Supramarginal Gyrus): 身体部位の認識や模倣行動、言語機能に関与。

角回(Angular Gyrus): 視覚的認知や表象形成、意味処理に関わる。

視空間認知(Spatial Cognition): 外部環境を理解するための空間的情報処理能力。

多感覚統合(Multisensory Integration): 視覚、聴覚、触覚などの感覚情報を統合する過程。

神経心理学的症候(Neuropsychological Symptoms): 頭頂葉の損傷による運動、認知、言語などの機能障害。

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