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視覚性前兆と降雪視に関連した脳画像所見


序論

視覚性前兆(Visual Aura)Visual Snow Syndrome(VSS)は、視覚情報処理の異常に関連する疾患である。視覚性前兆は片頭痛患者の約25~33%に見られる一過性の陽性視覚症状で、皮質拡延性脱分極/抑制(CSD)という大脳皮質の電気現象によって引き起こされる。一方、VSSは視野全体に細かい点が現れ、視覚保続や自己光覚などの視覚異常を伴う慢性的な症候群である。VSSは視覚連合野の機能異常や視覚信号処理の異常が関与すると考えられている。

視覚情報は一次視覚野(V1)から入力され、V2以降で光刺激の性質やコンテキストに応じた細かい分析が行われる。この過程で、ventral streamとdorsal streamという2つの経路を通って、それぞれ「何か」と「どこにあるか」の観点から視覚情報が処理される。

視覚性前兆の神経基盤 - 関連する脳領域と活動パターン

視覚性前兆の発症には、主に一次視覚野辺縁系の機能異常が関与していると考えられている。機能的MRIによる研究では、これらの領域での異常な活動パターンが確認されている。一次視覚野から入力された視覚情報は、辺縁系を経由して高次の処理が行われる。従って、一次視覚野と辺縁系の両領域における活動異常が視覚性前兆の発症に寄与していると考えられる。

また、視覚情報処理経路である腹側経路(ventral stream)背側経路(dorsal stream)の機能障害も視覚性前兆の発症に関与する可能性がある。機能的MRIでは、これらの経路における機能的結合性の変化などが報告されている。視覚情報は経路を通って段階的に処理されるため、各段階での異常活動が視覚性前兆の症状に繋がっていると考えられる。

視覚性前兆の神経基盤 - 構造的MRIと他の神経画像手法

構造的MRIでは、重度で持続する視覚性前兆においてADCの低下とDWIでの高信号が認められることがあり、cytotoxic edemaの生成を示唆している。また、長時間持続する前兆では、責任病巣での腫脹とGd-DTPA造影効果が報告されており、vasogenic edemaを反映する可能性がある。さらに、磁化率強調画像(SWI)では、前兆責任病巣周囲の脳溝の流出静脈の拡張が確認されることがある。

一方、PETやSPECTなどの他の神経画像手法では、視覚性前兆責任病巣での血流低下や代謝異常が検出されている。Arterial spin labeling(ASL)でも前兆責任病巣の血流低下が捉えられており、非侵襲的で繰り返し施行が可能であるため有用な検査方法となる。これらの所見は、視覚性前兆時の皮質機能変化と血流動態の異常を反映していると考えられる。

VSSの神経基盤 - 共通点と相違点

視覚性前兆とVSSは、いずれも視覚情報処理の異常に起因する疾患であるが、発症メカニズムと症状の持続性が異なるため、関与する脳領域や機能的・構造的変化にも違いがみられる。

視覚性前兆は、片頭痛発作に伴う一過性の視覚症状であり、CSD(皮質拡延性脱分極/抑制)によって引き起こされる。CSDの発生に伴い、一次視覚野と辺縁系を中心に活動異常や血流変化が生じることが報告されている。また、責任病巣周囲での静脈拡張や、重症例では浮腫の形成などの構造的変化も見られる可能性がある。

一方、VSSは視覚保続や増強された内視現象など、複数の持続的な視覚異常を呈する慢性疾患である。その発症には、視覚連合野を含む視覚情報処理経路の広範なネットワーク異常が関与していると考えられている。機能的変化としては、視覚連合野やventral streamなどを中心に脳血流の動的な変化が報告されている。構造的変化に関しては不明な点が多いが、視覚連合野を含む広範な領域での変化の可能性が指摘されている。

さらに、VSSでは視覚異常のみならず、耳鳴などの他の感覚異常も高率に合併することから、視覚系のみならず、より広範なネットワークの機能異常が示唆される。

このように、視覚性前兆とVSSの神経基盤には共通点と相違点があり、発症メカニズムの違いを反映した所見が得られている。視覚性前兆は一過性の現象であり局所的な変化が、VSSは慢性的な疾患であり広範な変化が認められる傾向にある。いずれも視覚情報処理の異常に起因するが、その範囲と程度が異なることが示唆される。

総合討論 - 視覚処理ネットワークと研究の限界

視覚性前兆とVSSの発症には、一次視覚野、辺縁系、視覚連合野などの視覚処理ネットワークが深く関与していることが明らかとなっている。機能的MRI研究では、これらの領域における異常な活動パターンや機能的結合性の変化が報告されている。また、構造的MRIでは、責任病巣周辺の静脈拡張や浮腫形成、白質の構造変化などの所見が得られている。これらの神経画像所見は、視覚情報処理ネットワークの機能障害や構造変化を示唆しており、これらの疾患の病態生理を反映していると考えられる。

一方で、VSSでは視覚連合野以外の領域の関与も指摘されており、より広範なネットワークの異常が示唆されている。また、これらの疾患の発症メカニズムや症状の違いを完全に説明するには至っていない。今後は、機能的結合性などの新しい解析手法を取り入れることで、視覚処理ネットワークの理解がさらに深まると期待される。さらに、MRI以外の脳機能評価法や遺伝子、分子レベルの情報も統合することで、より包括的な病態解明が可能になると考えられる。

結論

本研究では、視覚性前兆およびVSSに関連する脳画像所見を概説し、視覚情報処理のメカニズムと病態生理の解明を試みた。主要な知見として、視覚性前兆では一次視覚野と辺縁系、VSSでは視覚連合野を含む広範なネットワークの機能異常や構造変化が関与していることが示された。機能的MRIでは、これらの領域における異常な活動パターンや機能的結合性の変化が確認された。また、構造的MRIでは責任病巣周辺の静脈拡張や灰白質変化などの所見が得られている。

これらの神経画像所見は、視覚情報処理ネットワークの異常を反映しており、視覚障害の病態解明に大きく貢献している。一方で、発症メカニズムの違いを完全に説明するには至っておらず、より広範なネットワークの関与や新しい解析手法の導入が必要とされる。今後は機能的結合性などの解析や、他の脳機能評価法、遺伝子・分子レベルの情報も統合することで、包括的な病態理解が可能になると期待される。神経画像研究は視覚障害の理解促進に重要な役割を果たしており、さらなる研究の発展が望まれる。

質問と回答

  1. 視覚雪症候群(VSS)とは何ですか?

    • 視覚雪症候群(VSS)は、持続的な視覚的異常で、視界に雪のような点や閃光が存在する状態を指します。多くの患者は、他の視覚症状も経験します。

  2. VSSの患者はどのような視覚異常を報告していますか?

    • VSS患者は、視覚保続や動く物体の像がスローモーションのように見える現象を体験し、84%の患者が視覚保続を示しています。

  3. VSSと片頭痛の関係は何ですか?

    • VSSは片頭痛と関連しており、片頭痛患者に多く見られます。特に片頭痛前兆を伴うことが一般的です。

  4. 研究の目的は何ですか?

    • この研究は、VSSおよび視覚性前兆の病態生理を理解し、視覚処理メカニズムに関連する脳の機能異常を明らかにすることを目的としています。

  5. 使用された脳画像技術には何がありますか?

    • 頭部MRI、18F-FDG-PET、拡散テンソル画像法(DTI)や機能的MRI(fMRI)などが使用されており、脳の構造と機能を評価しています。

  6. VSS患者の脳に見られる特異な変化は何ですか?

    • 研究により、右上側頭回や左下頭頂小葉の代謝低下、視覚連合野の灰白質体積の変化が観察されています。

  7. 視覚情報処理におけるventralとdorsalの経路の役割は何ですか?

    • Ventral経路は「何を」認識するのに関連し、物体の形や色を処理します。一方、dorsal経路は「どこに」あるかを識別し、動きや位置の情報を分析します。

  8. 視覚的刺激に対する脳の応答にどのような変化がありますか?

    • VSS患者は視覚刺激後のBOLDシグナル変化が低下し、代謝関連の変化も示しています。

  9. 視覚過敏についてのVSS患者の評価はどうなっていますか?

    • VSS患者は光過敏な症状を持つことが多く、慢性片頭痛患者の光過敏と同等のレベルと評価されています。

  10. この研究が将来的に医療に与える影響は何ですか?

    • この研究によってVSSの理解が進むことで、適切な診断法や治療法の開発につながり、患者の生活の質を向上させる可能性があります。

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