渡り廊下サボタージュ
放課後、校舎二階を繋ぐ渡り廊下に人気はない。
昼休みには昼食をとるグループで混雑する渡り廊下も日陰になる放課後は誰も寄り付かないからだ。
そんな放課後の渡り廊下がここ最近のタケル達の居場所だ。
「なぁタケルー、ここ寒いよ。どっか他探そうぜ…」
洋介が言う通り十一月の渡り廊下は放課後の居場所としては寒すぎた。
「じゃあ、どこいくんだよ。色々探してここしかなかったじゃん」
十月まではタケルたちの居場所は漫画研究会の部室だった。
部室に居づらくなった原因は文化祭で発表するための漫画の内容にあった。
漫研内でいくつかのグループに分かれ、それぞれ作品を制作し、それをまとめて一冊の本にするのが漫研の伝統で、タケルは洋介と組んで漫画を制作することにした。
洋介の画力は同級生の中では抜きんでていたし、絵に自信のなかったタケルは原作者に徹することにした。
他のグループは大体二次創作物だったから、俺たちはオリジナルに挑戦しようと決めた。洋介の描く女の子は可愛いと評判だったからジャンルはラブコメに決まった。
そこで少し欲が出た。
ヒロインをみんなが知ってる人物をモデルにしたら話題になるんじゃないか。
誰にしようか候補を挙げあってみたがタケルの中ではモデルは決まっていた。
漫研の顧問である美紀先生は教師二年目の新人で部活の顧問になるのも漫研が初めてだった。
変人と揶揄されることもある漫研部員にも屈託なく接してくれるし漫研のみならず学校中の生徒に人気があった。
教師と生徒の淡いラブストーリー。
これは絶対にうける。
タケルには自信があった。
完成した原稿を発表するのは掲載順を決める部内会議の席だった。
洋介の描いたヒロイン、美紀先生は会心の出来といってよかった。可愛いし先生の特徴的なお団子ヘアもデフォルメされてキャラが立っていた。
あまり他人の作品を誉めない部員たちの反応も上々だったのだが意外だったのは先生の反応だった。
「どうして…」
先生はそう言いうと困ったような表情で押し黙ってしまった。
部内の雰囲気は一変し、こんなものを描いたお前達が悪いという空気。
それ以来部室には行けてない。
「おい。あれ美紀ちゃんじゃね?」
洋介が指さす中庭の植え込みの陰に美紀先生の姿があった。うつむき加減の先生の頭をやさしくなでているのは、たしか野球部の先輩だ。
「そうゆうことかよ…」
渾身の創作はただの実録だったようだ。
「ばからし…なぁ洋介、また漫画描こうぜ」