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18.職業選択の自由の制約(薬事法事件)
1. 職業選択の自由の基本概念
職業選択の自由は、憲法22条において保障されている基本的な自由権であり、国民が自ら選択した職業に従事する自由を意味します。この自由は、自己実現を目的とし、また経済活動において不可欠な要素とされ、広範に保護されています。しかし、この自由も無制限に認められるわけではなく、公共の福祉に反する場合には制約を受けることがあります。
2. 薬事法事件の概要
薬事法事件とは、薬事法に基づく薬の製造や販売に関する規制が、職業選択の自由をどのように制約するかを巡る事案です。特に、薬事法が定める薬の製造業者や販売業者の資格に関する規定が、職業選択の自由に対する制約となる場合が問題になります。
薬事法においては、医薬品の製造、販売に関する事業を行うためには、一定の資格や許可を得る必要があります。この規制は、公共の福祉を理由に行われており、特に健康や安全に関わる事業においては規制の重要性が強調されます。
3. 薬事法事件における憲法21条と22条との関係
薬事法事件で問題となるのは、薬事法が職業選択の自由にどの程度制限を加えるか、またその制限が合理的で必要最小限度のものであるかです。この場合、職業選択の自由が規制される理由は公共の福祉、特に公衆衛生の保護を目的とするため、制約が認められる可能性があります。しかし、制約が過度であれば憲法に違反する可能性もあります。
4. 職業選択の自由に対する制約の正当性
職業選択の自由に対する制約が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
規制の目的が公共の福祉にかなっていること
公共の福祉とは、社会秩序の維持、国民の健康・安全・幸福などを指します。薬事法の規制は、公衆衛生の保護や市民の健康を守るために不可欠とされています。
規制が必要最小限度のものであること
規制の内容が過度でなく、規制を設ける目的を達成するために最小限度でなければならないという要件です。例えば、薬品を製造・販売する資格については、一定の教育や資格要件を設けることが合理的ですが、その範囲や内容が過度であってはならない。
合理的な関連性があること
規制が職業選択の自由を制限する理由と、その制限が実際に関連性を持つ必要があります。薬事法における規制は、医薬品の安全性や効能を保証するために設けられており、その合理性が認められます。
5. 具体的な規制内容と制約
薬事法が定める制約には、薬品の製造や販売に関する資格・免許の取得義務、広告の規制、販売条件の規制などがあります。これらの制約は、薬品が人々の健康に大きな影響を及ぼす可能性があるため、社会全体の安全・安心を守るために必要不可欠な措置とされます。
製造業者や販売業者の資格要件
医薬品を製造するには、厚生労働省から許可を得る必要があります。これは、薬品の安全性や効果を確認するための条件を満たすことが求められるため、公共の福祉に適う制限といえます。
広告規制
薬品の広告においては、虚偽・誇大広告を防止するために厳格な規制が敷かれています。これも消費者の誤認を避けるために合理的な規制といえます。
6. 判例における判断基準
薬事法事件の判例においては、職業選択の自由に対する制約が合憲であると認められる場合、その制限が「必要最小限度であり、公共の福祉にかなうものであるか」という観点が重視されます。特に、薬事法の規制は、公衆衛生という重大な公共の利益を目的としており、その合理性が認められる場合、職業選択の自由に対する制約が適法とされます。
論文試験対策
薬事法事件に関する論文試験対策では、以下のポイントを意識して答案を作成することが重要です。
(1) 論文の構成
問題提起
薬事法による職業選択の自由の制約が問題となる。薬事法の規制が憲法22条に保障された職業選択の自由を制限するのは妥当か?
規範定立
職業選択の自由は憲法22条により保障されている。しかし、この自由も無制限ではなく、公共の福祉の観点から制約され得ることを示す。規制が適法であるためには、公共の福祉にかなう目的があり、規制が必要最小限度であることが求められる。
事実のあてはめ
薬事法の目的が公衆衛生を守ることにあることを示し、規制の内容が薬品の製造や販売に関する資格要件や広告規制であることを述べる。
これらの規制が公共の福祉にかなうものであり、必要最小限度であることを論じる。
結論
薬事法による職業選択の自由の制約は、公共の福祉にかなうものであり、合理的で必要最小限度の規制であるため、憲法22条に違反しないと結論づける。
(2) 模範解答例
【問題】
薬事法に基づく製薬業者の資格要件が職業選択の自由を制約するか。
【答案】
問題提起
薬事法に基づく製薬業者の資格要件が職業選択の自由を制約するかが問題となる。
規範定立
憲法22条は職業選択の自由を保障するが、この自由は無制限ではなく、公共の福祉に反する場合には制限され得る。薬事法は公衆衛生の保護を目的としており、規制が適法であるためには、規制が合理的で必要最小限度であることが求められる。
事実のあてはめ
薬事法は公衆衛生の保護を目的としており、薬品の製造や販売に関する資格要件を設けることで、薬品の安全性を保証している。これにより消費者の健康を守ることができ、規制は公共の福祉にかなうものといえる。
規制が必要最小限度であることは、薬品の製造や販売に関して一定の資格を求めることは当然必要な措置であり、その範囲や内容が過度でないことが確保されていることからも明らかである。
結論
薬事法による製薬業者の資格要件は、公共の福祉を目的とする合理的な規制であり、職業選択の自由に対する制約は必要最小限度のものであるため、憲法22条に違反しない。