
21.財産権の保障と公共の福祉(憲法29条)
1. 財産権の保障とその意義
憲法29条は、財産権の保障を規定しており、個人の財産に対する国家の介入を制限する役割を果たす。
憲法29条の規定
第1項:「財産権は、これを侵してはならない。」
第2項:「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律で定める。」
第3項:「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」
この条文の趣旨は、私有財産制度の保障と、それに対する合理的な制約の許容のバランスを取る点にある。
2. 財産権の保障の範囲
(1) 財産権の概念
財産権とは、個人が有する経済的利益の総体を指し、典型例として所有権があるが、債権、知的財産権、営業の自由なども含まれると解される。
(2) 財産権の保障の範囲
財産権の保障は強力だが、無制限ではなく、公共の福祉の観点から一定の制約が認められる。
財産権の不可侵性
29条1項は、国家が個人の財産権を侵害することを原則として禁止している。
ただし、全ての財産権が絶対的に保護されるわけではなく、一定の制限が許容される。
財産権の制約
29条2項は、財産権の内容が「公共の福祉に適合するように法律で定める」としており、立法による制約が可能であることを示している。
29条3項は、「正当な補償の下に」財産権の収用を認めており、公共目的のための財産権の制限を可能にしている。
3. 財産権の制約と公共の福祉
財産権が無制限ではない以上、制約が許される範囲と、制約が違憲とされる場合を区別する必要がある。
(1) 財産権の制約の基準
憲法29条2項の「公共の福祉」は、財産権の内容が法律によって制限されることを許容するが、その制限には合理性が求められる。具体的には以下の基準が考えられる。
必要性・合理性の原則
制約が公益を確保するために必要であり、かつ合理的であることが求められる。
過度な制約の禁止(比例原則)
制約が過度であれば、財産権の侵害として違憲となる可能性がある。
(2) 財産権制約の具体例
土地規制
都市計画法による建築制限
農地法による所有制限
環境規制
公害防止のための企業活動の制約
価格統制
家賃統制、物価統制
相続税
高額財産の継承制限
(3) 財産権の制約が違憲となる場合
財産権に対する制約が、合理性を欠く場合や、過度な負担を課す場合には、違憲と判断される可能性がある。
判例
森林法共有林事件(最高裁昭和62年4月22日判決)
旧森林法186条に基づき、分割禁止の制約を設けていたが、制約が強すぎるとして違憲判決が下された。
4. 財産権の収用と補償
憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と規定しており、財産権の「収用」について定めている。
(1) 収用の要件
財産権の収用が認められるためには、以下の要件を満たす必要がある。
公共目的
道路建設、都市開発、災害対策など、公益性のある事業のために行われること。
法律の根拠
収用は法律に基づいて行われる必要がある。
正当な補償
収用される者に対して適正な補償が支払われること。
(2) 収用の例
土地収用法に基づく土地の収用
都市再開発における立ち退き補償
5. 論文試験対策
論文試験では、財産権の保障と公共の福祉のバランスについて論じることが求められる。
(1) 典型的な論点
財産権の内容と制約の範囲
財産権制約の合憲性判断基準
収用と補償の要件
比例原則の適用
(2) 論文の書き方
以下の構成を意識して答案を作成する。
問題提起
財産権の保障と公共の福祉の関係について、制約の合憲性が問題となることを示す。
規範定立
憲法29条は財産権を保障するが、公共の福祉の観点から制約が許される。
ただし、制約は合理的な範囲にとどまるべきであり、必要性・合理性・比例原則が考慮される。
事実のあてはめ
具体的な事例を分析し、制約が合憲か違憲かを検討する。
結論
収用や制約の適法性を明確にする。
(3) 模範解答例
【問題】
ある自治体が環境保護のために土地所有者に建築制限を課した。この制限は憲法29条に違反するか。
【答案】
問題提起
本件では、自治体が環境保護のために土地の建築制限を課したことが、憲法29条の財産権保障に違反するかが問題となる。規範定立
憲法29条は財産権を保障するが、29条2項は公共の福祉に適合するように法律で制限できると定める。したがって、財産権の制約が許されるかは、必要性・合理性・比例原則によって判断される。事実のあてはめ
本件の建築制限は、環境保護という公益目的のためのものであり、正当な立法目的を有する。ただし、制限が過度であれば、財産権の侵害となる可能性がある。結論
制限が最低限度であり、正当な補償があれば合憲。しかし、過度な制約であれば違憲の可能性がある。