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雑記 61 / 工芸のありか

このところ「現代陶芸」を勉強している。
「現代陶芸」が何を指すのかわからないまま、とりあえず「現代陶芸」を特集している本とか資料を読み漁っているのだけれど、見れば見るほど、そして作家のインタビューを眺めれば眺めるほど、わけがわからなくなっていく。「現代陶芸」などという包括的なカテゴリーなんか設定不可能で、そもそも言葉に無理があるのだ、と匙を投げたくなりつつも、今の自分には必要なことだからと言い聞かせて改めて学んでいる。

昔、我が父が言った。「親父が昔、陶芸家ってのは『盗芸家』って書くんだと言っていた」「『陶芸家』と名乗られると、あんたは何の芸ができるんだ、と尋ねたくなる」など。改めて書くと恐ろしい。口の悪い血筋だ。
「陶芸」という言葉に否定的だった父は名刺に「陶工」、あるいは自分の名前だけ書いていた。
今の気分がどうか知らない。そもそも近年は名刺も持たないような生活をしている。かつて父の技術はそれこそ曲芸的なレベルに達していたし、手先が震えて力も弱まった今じゃ「芸」の要素が強くなってるんじゃないかとも思う。

ともあれ「現代陶芸」というものを眺めていると、父や祖父が「陶芸」という言葉に向けた拒否感の原因を何となく感じ取ってしまう。
器であることを拒否して自己表現をする、あるいは自意識の器として焼き物を作ること。そこには確かに焼き物という営みを拡張するための挑戦、それに伴うスリルや議論もあって興味深くはあるんだけれども、当事者性の薄い鑑賞者からすると「だから?」と言って終わってしまうような危うさもある。
もういい大人だし、そこに備わった文脈や作り手の真摯な思いもわかるから「だから?」などと僕は言わないけれども。器であることを軸にした焼き物を作る技術者たちからすれば、そうした「現代陶芸」は「だから?」と言いたくなるようなものだったのではないか。

「うつわ」であることと現代的な焼き物であることは両立する。なぜなら、それを作っている人間が現代の人であるかぎり、どこかしらに必ず現代的な要素が滲み出てくるからだ。隠そうにも隠せない。山と空と川しか眺めるものがなかった桃山時代の陶工と、コンクリートジャングルと車社会を身近に知る現代人ではフォルムやシルエットの捉え方が根本的に異なるのは当然だろう。
同時代性は表現の形式に関わらず、強調せずとも浮かび上がってくるものだ。
そして、その人の個性というものも、表現の形式や内容に盛り込もうとする必要はない。そんなことをせずとも線の一本、間の取り方、ボディのカーブの捉え方、そうした物事の積み重ねによって否応なく滲み出てしまう。

「個性」というものが他者との比較の中でしか浮かび上がらないのであれば、そのうつわの個別性は鑑賞者の存在なくしては認識されない。
故に「個性」やその作品の「うつわ」性とは作品と鑑賞者の間に生じるものだ。

(「故に」と雑に焼き物から作品一般の話にスライドしてしまった。細かいことはそのうち書くとしてそのまま行こう。)

「工芸」も同じくである。工芸性とは素材とか技法とかの物の属性ではないと自分は考えている。工芸性とは、物の存在とそれを「道具」としてみなす眼差しの間に存在している。工芸を物の側から定義しようとするから、定義不能の混乱に陥るのだ。道具として見立てようとする眼差しこそが日本的な工芸の根幹にある。そう考えている。これもまたそのうちに長々と書こう。
そしてその道具として見立てようとする眼差しの延長に掛軸があるのならば、やはり絵画作品もその射程に入ってくる。絵画にも工芸的な眼差しを向けることはできる。
そしてそのような絵画は、自己完結した物ではなく、他の何かとの関係性を必要とする「うつわ」的な絵画であるはずだ。ちょうど茶室の床の間の掛け物が、その茶会における「意味の器」であるように。
あるいは、茶盌を彫刻的なうつわと捉えるのであれば…とこのクリシェは続く。

などということを昨晩からつらつらと考えていた。正確に言えばずっと考えてきたことではあるけれども。この考えに強い確信をもたらしてくれる絵画を見たことで一度書き起こしておこうと思った。
「うつわ」と「工芸」を繋ぎ、「現代陶芸」への違和感を示してくれるような絵画が存在している。不思議なことだ。
その絵の話はまた別の機会に。個性と神は細部に宿るのだ。

『日本現代うつわ論4』の宣伝もしようと思って書き始めたのに全然辿りつけなかった。2000字近いのに画像もろくにない不親切な記事だ。
けれど『日本現代うつわ論4』は親切な作りになってる。僕は論考とシラス番組『大槻香奈の芸術お茶会』でのお勉強会記事で参加している。

どちらも同じく「オリジナル」「個性」と言う問題について(良かった。繋がった)別の語り口で論じている。2本セットで読むことでより深くわかりやすくなる親切設計。
企画者の池田はるかさんが設定したテーマは「『茶ノ湯』と『リング』」
そして大槻香奈さんによるこの装画。

長くなったので詳しくはまた後日。ご予約お待ちしております。

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