送球って大事だねというお話(前編)
著:原島(監督) 編:梅村(部長)
皆様こんにちは。
noteは短く読みやすくがモットーの監督です。
4000字を超えるようなnoteは読むのに疲弊します。そうならないように文量は少なく、だけど過不足なく伝えられるように頑張ります。
じゃあどこから削ろうかとなったときに真っ先にやり玉にあがるのがこの冒頭ですね。どうせ碌な話はしないのでさっさと本編に行きましょう。
では今回もよろしくお願いいたします。
1.失策ってどんなイメージですか?
失策の定義は、公認野球規則(NPB)の規定によると以下の通りです。
野球を知っている人なら問題ないでしょう。あまり野球のことを知らない人は、実況・解説が「ああーっと!」と言っているようなプレーだと思ってください(そもそも野球を知らない人はこんなnoteを開きませんが)。
ところで、これらのエラー、どういうパターンが多いのか気になりませんか?
失策はどんな内容であれ「失策(E)」で表記されることがほとんどですが、「守備側のミスによりアウトにできない」という事態を引き起こすのは大きく分けて、捕球ミス・送球ミスになります。
分け方を変えれば技術的要因、環境要因(日差しやイレギュラーなど)、コミュニケーション不足……などと分けることもできますが、今回は「失策の内訳は捕球と送球のどちらの方が多いのか」ということに焦点を置いて調査していきたいと思います。
ただ、調べる前に一度意識調査をしてみたいと考えました。方法は以下の通りです。
【質問内容と補足】
質問内容:「高校野球の失策において、捕球ミスと送球ミスのどちらの方が多いと思いますか?」
【対象と方法】
高校球児の1~3年生。LINEの投票機能を用いたアンケート
【結果】
①11人(21%) ②39人(75%) ③2人(4%)
こう見ると、高校生の中では送球ミスの印象がだいぶ強いそうですね。今回その答えを選んだ理由は聞かなかったので、原因が個人の経験かチームの課題かは分かりませんでした。
では、感性ではなくデータとしてはどうなのでしょうか?NPBで公表されているデータを見ると、「失策」でしか記載がありませんでした。そのため、Baseball Savantで公表されているMLBのデータをご紹介します。
集計方法としては、Savantの「Statcast Search」のページで「失策」が記録されているプレーをすべて抽出します。抽出されたデータのうち、プレーの説明に「throwing error」というワードが含まれているものを「送球エラー」、「fielding error」が含まれているものを「捕球エラー」として分類しました。
すると、8月31日終了時点では、851エラー中271エラー(約32%)が送球エラーとして記録されていたようです。当然残りの68%は捕球エラーです。つまり、MLBレベルでは捕球ミス:送球ミス=7:3ということになります。
ずいぶん上記の印象とは違う結果が出ましたね。これはどういうことなのでしょう。実際に高校野球はプロよりも送球ミスの割合が多いのでしょうか?
2.高校野球における失策の内訳を見てみよう
ではここで、実際に高校野球の結果を見ましょう。
MLBでは失策の大半(70%)が捕球によるミスとされていました。もし高校野球でも同じ結果なら、捕球ミスというものは野球のレベルに関わらず守備の課題であると言えます。
一方、送球ミスが捕球ミスと同じ割合or捕球ミスより多いなら、プロとアマチュアの守備の課題は変わってくると言えます。
もしそうであるならば、なぜそのような乖離があるのかを考えることで、失策を減らす一助となるかもしれません。
さて、調査結果をご覧になる前にご了承いただきたいことがあります。今回僕が調査した失策数の数値は実際の公式記録の数とは異なります。というのも、高校野球の公式記録は失策になりにくく、多少のエラーであれば内野安打として記録されることが多いからです。
たとえば以下の画像は甲子園大会準々決勝戦(仙台育英-花巻東:2023)の一幕なのですが、サードが内野ゴロを捕球して送球するもショートバウンドとなってしまい、ファーストが取り損ねます。画像を見ていただければ分かりますが、送球がファーストのミットに当たったとき、ランナーは一塁ベースの2~3m手前にいました。
つまり、このプレーはファーストが適切に捕球できていればアウトだったはずですが、公式記録は「内野安打」でした。もちろん記録員の方や記録方法に文句をつけるわけではありませんが、今回の調査ではより厳密に「失策」の定義を適用することでプロとの比較を行いたいため、このようなプレーを送球ミス(つまりエラー)としてカウントします。
上記の例のように、今回は公式記録とは異なる基準で調査を進めるため、今回捕球ミスと送球ミスを以下のように独自に定義しました。
捕球ミス
守備態勢が取れていたが捕球できなかった場合は失策(イレギュラー除く)
打球がグラブや身体に当たったが捕球できなかった場合は捕球ミス
送球ミス
送球が適切に行われていたらアウトになっていたと推測できる場合は、送球ミスとする。(外野のバックホームや中継含む)
送球ミスによって、アウトにしようとするランナーが進塁した場合も送球ミスとしてカウントする。
握り替えのミスは送球動作時のエラーとするため、送球ミスに含む
そのため、失策の総計が公式記録より多い数値となっています。
なお、「その他」は、捕球ミスも送球ミスも絡んだプレーです。例えば、内野がゴロをファンブルし、送球するも悪送球となってしまった場合です。その場合は原因が捕球か送球かの判断が難しいので、その他で分類しました。
では、実際に高校野球の失策の内訳を見ていきましょう。以下の表は、その試合で起きた両校合わせての失策です。学校名は五十音順(敬称略)で、対象は第105回全国高等学校野球選手権記念大会(2023年)の全試合となります。
ご覧の通り、結果は送球ミスと捕球ミスはほぼ同じになりました。地方大会や過去に遡って調査すれば多少の変動はあるかもしれません。
ただ、少なくともMLBの傾向とは大きく異なり、高校野球においては送球ミスの割合が大きく増える結果となりました。
ただ、ここで一点補足をさせてください。今回の調査では捕球ミスが50%を占める結果となりましたが、本来はもっと少なくなる可能性が高いです。
というのも、今回捕球ミスの定義はやや広めに設定しました。
捕球ミスの定義は「打球がグラブや身体に当たったが捕球できなかった場合は捕球ミス」とありますが、これは打球の速さによっては「強襲(内野安打)」に分類され、ヒットとして公式記録に載ります。
おそらく、強襲による内野安打と失策を分けていれば、捕球ミスの数は大きく減ると考えられます。とはいえ、今回の目的はあくまでも送球ミスと捕球ミスの比率を確認するものですので調査の主旨には抵触しないと考え、この結果として紹介しています。
(部長より)一応カイ2乗検定(もしかしてこれぐらいの母数だったら正確確率検定の方がいい……?)による検定結果も載せておきます。どうやら統計的にも高校野球とMLBのミスの割合には差があると言えそうです。
3.失策の内訳はポジション毎に変わってくるのか?
最後に補足として、失策が起こりやすい傾向をポジションごとに挙げていきます。こちらは主観によるものなので数値はありません。いつか余裕があったら数値を補足していきます。監督がもう一度甲子園の全試合を見直す気力があればですが(無理)。
もちろん単年の傾向だけで結論付けるつもりはありません(そもそも記録してないし)。ふーんそうなんだぐらいに留めておいてください。
ということで、監督が疲れたようなので今回はここまでとなります。続くかもしれません。よろしくお願いします。