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「すべての若き野郎ども」

冷たい風が街を駆け抜け、夜の帳が落ちる。
都会の灯がぼんやりと輝き始めると、ジョニーはバンドの練習場に向かって歩いていた。
肩にギターケースを担ぎ、ポケットの中でタバコをいじりながら、彼は一人きりの歩調を守った。
彼の頭の中には、いつものようにMott the Hoopleの「All the Young Dudes」が鳴り響いている。
ジョニーはバンドのリーダーだが、最近の練習はどこか空回りしていた。
メンバーたちも本気で音楽をやる気持ちが揺らぎ始めているように感じる。
仕事や家庭の問題、将来への不安が彼らを縛りつけている。彼自身も、音楽で生きていくのはもう無理なのかもしれないという思いが、頭をもたげてきていた。

「すべての若き野郎ども」と、ジョニーは心の中で呟いた。「まだ俺たちは終わっちゃいない。クソみたいな現実に押しつぶされるには、まだ早すぎるんだ」
その時、ふと練習場のドアを開けると、いつもの仲間たちが待っていた。誰もが無言で自分の楽器を準備し、いつもと変わらない夜が始まるように見えたが、その空気にはどこか微妙な緊張感が漂っていた。

ジョニーはアンプにギターをつなぎ、「All the Young Dudes」のイントロを弾き始めた。
音が部屋に響くと、次第にメンバーたちの顔が明るくなっていく。ドラムがリズムを刻み、ベースがその音に重なっていく。ボーカルのトムが歌詞を歌い始めると、みんなの目に輝きが戻っていた。

「すべての若き野郎ども」とトムが叫ぶように歌い、ジョニーは心の奥で何かがほどけていくのを感じた。自分たちは、まだ若い。未来がどうなるかは分からないが、今この瞬間だけは音楽が全てだった。

曲が終わると、部屋はしばらくの間、静寂に包まれた。しかし、その静寂は重苦しいものではなく、希望に満ちたものだった。ジョニーはギターを抱え直し、仲間たちを見渡した。
「もう一度、最初からやり直そう」と言って、再び「All the Young Dudes」を弾き始めた。

すべての若き野郎どもへ。この夜は、まだ終わらない。

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