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「雨上がりの夜空に」

夜の街を見下ろす丘の上に立つと、昨日までの雨が嘘のように澄み切った空が広がっていた。川島はハーモニカを手に取り、口元に運ぶ。手元が震えるのは、寒さのせいだけではなかった。
「雨上がりの夜空に響かせるには、ちょうどいいかもしれないな」
川島は独り言のように呟き、ハーモニカを吹き始めた。

「雨上がりの夜空に」——RCサクセションの曲は、彼の高校時代を思い出させる。
バンドを組んで、ライブハウスで演奏した青春の日々。観客がほとんどいない夜も、仲間と熱い気持ちを共有するだけで十分だった。
だが、現実はいつも夢の延長線上にあるわけではない。大学に進学し、やがてメンバーたちはそれぞれの道を歩むようになった。川島も就職し、音楽から離れる生活に染まっていった。忙しい日々の中で、ハーモニカを吹く時間すら忘れてしまっていたのだ。

ふと、川島の脳裏に一人の顔が浮かんだ。かつてのバンドメンバーであり、親友でもあった俊一。数年前に事故で亡くなったが、あの夜のステージで歌った「雨上がりの夜空に」は、今でも鮮明に記憶に残っている。
川島はハーモニカを吹き続けた。音色は風に乗って、街へと消えていく。俊一と共に過ごした日々、そしてその後の別れ。それは確かに辛かったが、今夜のように澄み渡る空の下では、どこか穏やかな気持ちで振り返ることができた。
演奏が終わると、川島は深く息を吸い込んだ。雨上がりの空気は、どこか懐かしくも新しい。

川島は再び街へと歩き出した。今度は自分自身の音楽を、もう一度取り戻すために。

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