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アルコールライセンス

そもそも、僕のお店は惣菜デリカテッセンである。なのであまりアルコール提供に関して言えば重要度が低かったのだけれど、そこはメキシコ、欧米人も含め昼間っから飲むという文化の中ではアルコールの提供ができた方が良い。というセニョールの助言のもと僕のお店にもアルコールライセンスが届けられた。 

実は、開店当初に自力でアルコールライセンスの取得に向けて動いた。だけれど結果は撃沈。もともとランチとテイクアウトをメインで営業するつもりでもあったので、以降アルコールライセンスについては断念していたのだ。それが、路地にテーブルを3つ置けるようになってから、イートインのお客さん、欧米人のお客さんが増えてきて「ビールないの?」と昼間っから言われることが増えてきたのと、当時は21時まで営業していたので流石にノンアルコールで居酒屋風の夕食メニューを提供することに違和感しかなかったということもありアルコールライセンスの取得に再度チャレンジした。

【僕のお店が21時まで、実はワンオペ営業過労でおかしくなるまでは22時まで、営業していたのを知る人は少ない。居酒屋とか串カツとか色々やってたなあ(遠い目。。。)】 

とはいえ、アルコールライセンスはそうそう簡単に取れるものではない。借りたり買ったりという裏技が当時はあったけれど、手が出る金額ではなかった。そこで僕が得た情報は「ビール会社に取得してもらう」という方法だった。

※ちなみにこの方法は現在もあるかどうかは不明だ

それは、ビール会社が自社のビールを卸すのを条件にアルコールライセンスにかかる費用を出してくれるというものである。そこで僕はビール会社に片っ端から電話をするのだけれど、相手にされることはなかった。

ある日、セニョールが家族を連れてお店に夕食を食べに来てくた。大家族のメキシコ人を象徴するように小さなお店は貸し切り状態になったけれど、もともとノンアルコールでディナー営業するような店である。夜営業は每日閑古鳥が鳴いていたので大歓迎だった。

セニョールはお酒を一滴も飲まないのだが、彼の家族はビールを注文した。

「実はビールも他のお酒もないんです。。でも、コンビニで買ってくるので。」

と僕はコンビニでビールを買ってきて提供した。

「品切れかい?ビールが良く売れるんだね!繁盛してるみたいで良かったじゃないか!」

セニョールは僕のお店が繁盛してるのを喜んでくれていたけれど

「いや。。。そうじゃなくてアルコールライセンスがないのでビールは置いてないんです」

「ライセンスがないのかい?? それならなんでもっと早く言わないんだ!!なんでも相談しなさいって言ったじゃないか!」

そうは言ってもアルコールライセンスをどうにかできるとは僕は考えてもみなかったし、あまり誰かに頼って迷惑をかけるのは申し訳ないという思いがあったのか僕はセニョールに相談することをすっかり忘れていた。

 「ビール会社に何社も連絡したけれどどこも門前払いで。なので諦めてます。ビールがなくてもランチ営業は困らないので」

と強がる僕を横目にセニョールは誰かに電話をかけた。電話口の相手に僕のお店の場所をわかりやすく説明し電話を切ると、僕に言った。

「明日、アレハンドロという男が来るから話を聞きなさい。彼がなんとかしてくれるだろう。」

翌日、セニョールの言うとおり、アレハンドロという男がやってきた。営業マン風の彼は厚化粧だが顔立ちのとても綺麗なアシスタントとおぼしき女性と一緒に僕に名刺を渡した。

2人はビール会社の名前が刺繍されているノリの効いたシャツを着ていた。
そして名刺に書かれた会社名は誰もが知るコロナビールだった。

つづく

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