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「私なんてに、さよならを」 第2話


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 中学生の頃は男女6人のグループで仲が良くて、そのうちの1人が冬吾だった。グループ内の愛莉は他校に彼氏がいて、もう1人のほのかは先輩に片想い。2人とも私が冬吾を好きな気持ちを応援してくれていた。

 ただ、男子たちには全然伝わらなかったようで、私はお調子者として、漫才のようなやりとりを日々繰り広げていた。

 そんな中でも、毎日話しているとたまには恋バナにもなるもので、とある昼休み、理想のタイプの話になった。机を適当に持ち寄って、ご飯を食べながら話すいつもの日常のはずだった。しばらく話したあと、グループのリーダー的存在の太地が「美月はねえよなあ、冬吾」と話を振った。

 なんて話題を振ってくれるんだ。心臓がきりきりと音を立てそうなくらい痛い。女子2人も固唾を飲んで見守っているのを感じる。

「そうやなあ、美月とは付き合わへんなあ」

 その直後、冬吾が先生に呼ばれて出て行った。心配する目線を感じながら、なんとか会話を続けたけど、昼休みが終わってすぐでさえも、自分が何を話したのか思い出せなかった。

 1番仲良くしてるうちの2人からこんな風に言われるなんて、私を好きになってくれる人なんておらんのちゃうかという絶望感。頭のどこかで囁いてくる“やっぱりね”という腹落ちからの諦め。

 ちなみにあと1人の朔はほのかに片想いしていた。熱心なアプローチの結果、先輩に打ち勝ち、今ではちゃっかり付き合ってたりする。

 その日は布団に入ってからひとしきり泣いて、泣いて、泣いて、私の初恋に別れを告げた。



 冬吾に会うのは古傷を抉るようで、ご遠慮したいのが本音だが、子ども達と過ごすのは楽しいし、何より花乃ちゃんが気になって、次の手伝いの日も顔を出した。

 これで、ボランティアサークルに本格的に参加することになるのかなと思う私は、まだ映画サークルに未練があるのかもしれない。

 施設に入り、あたりを見回す。今日は冬吾は来てないみたいで、少しほっとする。各校から千紗さんには、事前に何人来る予定か連絡しているみたいだけど、それを特別に教えてほしいというのは気が引けた。

 今のところ私の心持ちの問題だけだし、それを許してしまうと、逆に来る日を教えてほしいという子を断りづらくなるだろう。

 ボランティアで来ているのに、恋愛のいざこざを持ち込むのは絶対に嫌だった。

 そんなことを考えていたら、大きな声で挨拶しながら、子どもたちが駆け込んでくる。梅雨終わりに蝉が一気に鳴き出すように、急速に音が部屋に広がり、ぶつかり合っては弾ける。

 子どもの持つエネルギーに思わず笑顔になって、負けず劣らず大きな声で返事をした。



 それからボランティアに参加する日は、花乃ちゃんを見かける度に、声をかけ続けた。侑雨ちゃんも一緒に声をかけたり、遊びに誘ったりしてくれている。

 侑雨ちゃん自身は、元々は一人でいたい子もいるからと、とりあえず様子見していたらしいけれど、話を聞きたいと言う私に協力してくれている。

 花乃ちゃんは相変わらずの無視だったけど、たまにこちらへの視線を感じるようになったある日。最初に見た時と同じ席に座っていて、周りには誰もいなかった。

「ここ、座ってもいい?」

 花乃ちゃんの横に置いてある椅子を指差す。警戒心をばしばしと感じるが、無言のまま頷いてくれた。

「宿題してたん?わからんとこあったら、一緒に考えるし教えてね」

 こちらを見てもう一度頷いて、プリントの方に視線を戻す。勉強は得意なのか、鉛筆の動きは止まることなく、答えを紡ぎ出していく。これは勉強に関する助けはいらないかもしれない。

「いつも声かけてくれてありがとう。今まで無視してごめん」

 そう考えていたら、ぽつりとそう一言、花乃ちゃんが囁くように呟いた。

「ううん!こっちが勝手にやってたことやし、気にせんといて。あ、自己紹介まだやったよね。知花美月です。よろしくね」

「最初の日に、みんなの前で言ってたから知ってる。尾木おぎ花乃。小5。よろしく」

 少しぶっきらぼうながらも、きちんと自己紹介までしてくれた。

「よろしく!宿題終わったら何する?」

「……本、一緒に読んでほしい。自己紹介で映画や本が好きって言ってたから」

「了解!じゃああと一息頑張ろう!」

 そこからすっと終わらせ、持ってきたのは所謂冒険ファンタジーで、主役の騎士が敵と戦いながらドラゴン退治をするものだった。

「図書室から借りてきて家で読んでたら、女の子なのにそんなものばっかり読んでって言われんねん。あと、読んでる暇があるなら勉強しなさいとも。でも私はこういうお話が好きやし、読み終わったら誰かと感想を言いたい」

 つぶやくように紡がれる言葉に胸が痛む。

「めっちゃわかる〜!私も家では常に女の子らしくを強要されてたな。どちらかというとお調子者タイプなのに、家ではお淑やかにしろって怒鳴られるから黙って本や映画の中に逃げ込んでた。うちは見た目上、大人しくしてたら、読んでるものの中身までは関心が無いのか確認されなかったけどね。今は離れて暮らしてるからもう関係ないし」

 あの男の仕事の都合で転居することになったが、大学があるからと、どうにかもぎ取った一人暮らし。今後もう一緒に暮らすことはないだろうけど、まだこの子にはその選択肢を取ることができないし、何もしてやれないのが辛い。

「でも、好きなものは好きだって言ってもいいし、たとえ言えなくても心の中で宝石みたいに大切にしてていいんだよ。それを勝手に捨てることは誰にもできないから」

 少し驚いたような顔をしたあと、眉を寄せて、口をきゅっと結んで頷いたのを見て、私も頷いてから、何も言わずに読み出した。



 バイトもあるし、週に1〜2回ほど子ども食堂に行くようになってから1ヶ月。

 花乃ちゃんもぽつぽつと話をしてくれるようになった。

 中学受験に向けて、元から厳しい親がさらに厳しくなって、塾の模試で悪い点数を取ろうものなら怒られたり泣かれたりする。

 志望校の制服は可愛いと思うけど、本当は受験せずにみんなと同じ学校に行く方がいいと思っているけど、期待してくれていると思うと言えない。

 塾の無い日に図書館で勉強すると言ってここに来ているけど、来年になったら毎日塾になるからここに来るのは難しくなる。

 暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりしているわけではないから、家庭の外から口を出すのは難しい問題。話を聞くだけしかできないのがもどかしいけど、行ける範囲で可能な限り、子ども食堂に顔を出すようにしていた。

 冬吾とも2回くらい参加がかち合ったけど、無難な会話に終始して、こちらが勝手に気まずく思っているのが申し訳なく感じるくらいだった。



 そんな日々を過ごす中、映画サークルの春ちゃん先輩からLINEが来た。

“久しぶり〜!最近顔見ないけど元気にしてる?してないから来てないのよね〜。みんな何となく察してるし、陽太も気まずいのか全然来てないから、たまには来なさいよっ!部員一同、待ってるからね♡”

 開く前に予想したよりも、さらに直球なお言葉に、先輩らしいなあと思いながら、次の鑑賞会の日付と観る映画を確認する返信を送った。

 運が良いことに、バイトもボランティアも無い日だったので、久々に映画サークルの部室のドアを叩いた。

 鑑賞会が始まるぎりぎりの時刻。最悪は映画が終わったらすぐに用事があるから帰ると言えばもし来ていても喋らずに帰れるだろう。そう思いながら恐る恐る開くと、薄暗くされている部室の中に、陽太の姿は無くて安心する。

 元々映画館に行く日以外はたまにしか来ていなかったうえに、最近は来ていないと聞いていても緊張した。

「美月じゃなーい!やっときたわこのお馬鹿さん!もう始めるから座った座った!」

 先輩を始めとするみんなに口々に声をかけられながら席に着く。

 今日の鑑賞会の映画は、少しファンタジー色のある作品で、花乃ちゃんが好きそうだなと思った。映画は時間的に難しいかもしれないけど、子ども食堂で、短編のアニメフィルムをみんなで観るのもいいかも。

 思考を少し脱線させつつも楽しく観終わり、感想タイムに入る。思わぬ視点を得られたりするこの時間が1番楽しい。そんなわくわくする時間も終わり、三々五々に帰っていく。

 何となく余韻に浸りたくて、部室に置いてあるパンフレットを見ていたが、気づけば先輩と2人になっていた。

 上野春馬うえのはるま先輩。通称春ちゃん先輩。

 身長が高く、がっしりしていて、ラガーマンと言われても違和感のない体型をしている。クォーターで、ドイツ人のおじいさんの隔世遺伝が強く出たらしい。淡い髪と瞳の綺麗な顔をした、中身は心優しきオネエさんで、将来は保育園の先生を目指している。ギャンブラーたかり男を家から追い出すのも手伝ってくれた。

「で、陽太とは結局別れちゃったの?この前、話した時には付き合って半年になるから記念日には料理頑張るんだって張り切ってたじゃない」

 先輩に聞いてもらうと、不思議と話してしまう。居心地の良い空間。あったことを1から10まで話してるうちに、瞳が潤んでくる。

「あの時、陽太の話を信用して、もう一回やり直すべきだったのかなって思ってもうて」

「“べき”とか言っちゃってる時点で、無理してるじゃない。価値観が噛み合わないまま続けても苦しくなるだけだし、これでよかったんじゃない?」

 渡してくれたティッシュで鼻を噛む。帰ったら冷やさないと、明日の朝、目がすごいことになっていそう。

「よかった。私が狭量すぎるんちゃうか、こんなんじゃ今後誰とも付き合うなんてできないんじゃって思って」

「もう馬鹿ね〜。まだまだ若いんだから、気に入らなかったら千切っては投げ、千切っては投げしても大丈夫よ」

 不敵なウインクを送ってくる。わざとらしいのに、様になってるのが何だかおかしくって、涙を拭いながら笑った。

 ひとしきり聞いてもらった後は、この1ヶ月ちょっとの間に観た映画や、行き出したボランティアの話なんかもして、一緒に部室を出た。家に帰ってから、私ばっかり喋っていたなと少し反省する。

 今日の会に声をかけてもらったお礼も兼ねて、甘味好きな先輩を満足させられるお店を探しておこうと思って、“美味しい甘味処を探す!”とToDoリストに入れておいた。



 広い講義室の中、先生の説明と、チョークが黒板を叩く音が響き渡る。

「虐待は、児童の健全な成長を阻害するものです。主には身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトの4つがあります」

 今日は子どもに対する虐待についての授業だ。中学生のころ、自分のスマホを持つようになってから調べたから、復習のつもりでノートを取る。

「身体的虐待・ネグレクトは外から気付きやすい虐待と言えるでしょう。一方で、性的虐待や心理的虐待は外から見えにくい虐待と言えます。みなさんは、児童にとって1番身近な大人の1人になります。児童をよく観察し、虐待かもしれないと感じたら、周りと連携して適切な対応を取ることや、普段から困った時に助けてくれる人だと思ってもらえるような信頼関係を築くことなどが大切になってきます」

 そう、だから私は教師になりたいと思った。仲野先生みたいな教師に。思わず、ノートを取る手に力が入る。

 “無理やから、じゃなくて、あなたはどうしたいの?”

 先生の声が脳裏に響く。

 あの面談の時の衝撃は、今も私の中に残っている。

「育児ノイローゼや産後うつなどから、虐待につながることもあるので、ご両親に支援が必要な場合もあります。虐待をしたくないと思っているのに、子どもを前にすると手や口が出てしまうというパターンですね。過去に親から虐待を受けていて、どう子どもに接していいかわからないという“虐待の連鎖“も問題になっていますね。また、先ほど述べた法律で定められた虐待には入っていませんが、最近は教育虐待なども話題になっています。」

 咄嗟に花乃ちゃんのことが頭を過ぎる。講義の後、先生に質問してみようかなと考えながら、大事な部分に蛍光ペンでラインを引いた。



「田坂先生、ちょっとよろしいでしょうか」

 授業終了後、みんなが教室を出ていき、人もまばらになる中、私は先生に声をかけた。花乃ちゃんの現状を伝え、これが教育虐待に当たるのかどうかを尋ねた。

「教育虐待の難しいところは、親が心から子どものことを思って言っているつもりで、自分は教育熱心なだけだと考えていることが多いところだと思います。ただ、子どもが息苦しさを感じている、どうしたいのか本音を話せていないというのは問題ですね。中学受験をしたくないと本音を話せたとして、それでも勉強や受験を強要されるということであれば、教育虐待と言えるかもしれません」

 話を聞きながら、いつのまにか顔が強張っていたらしく、先生から心配されてしまった。

「相手のことを大事に考えているのですね。またいつでも相談してください」

 お礼を言って、教室を後にした。



 今日の授業の課題をしながらも、花乃ちゃんのことを考えてしまい、つい手が止まってしまって進まない。少し気分転換しようと、部屋着にパーカーを羽織って、財布とスマホだけポシェットに入れて、コンビニへ向かった。

 アイスにするか、コンビニスイーツにするか。あたりの暗さに反して、白く輝く店内を眺めながら歩いていると、ふと店の外にいる男性の4人グループの1人と目が合った。こちらを指差して何か話していて、後ろには窓がスモークガラスになったバンが停まっている。

 なんかやばい気がする。痴漢だったり、性的な言葉を投げかけられたり、何かしらの性被害に遭った事のある女性は多いと思う。

 そして、その度にそういった事象へのセンサーが鋭敏になっていくもので。私の中にもあるセンサーが、今、最上級のアラートを鳴らしている。もし、あのバンに引きずり込まれたらアウトだ。

 現時点で何かの被害を受けたわけじゃないから、警察に連絡するのも気が引ける。かと言って、コンビニの店員もひょろっとした男の人が1人いるだけで、最悪の場合が起きても太刀打ちはできなさそう。

 家が近いからと夜中に歩いて来てしまった、自分の迂闊さを恨む。もし、これで追いかけられたりしたら、家までついてこられる可能性も否定できない。

 かくなる上はと、私はスマホを取り出した。



「いい?私たちはカップル。はい、腕組んで〜、不自然じゃないくらいにくっついて〜。はい、あとは普通に歩いて車まで。私は何も気づいていませんという顔でね」

 困った時の春ちゃん先輩。頼りすぎて申し訳ない。ばくばくと音を立てる心臓に気づかないふりをして、お会計を済ませて店を出る。

「ちっ。出てこんと思ったら男待っとったんやん」

 そんな言葉が聞こえて、やっぱり待ち伏せされていたのかと、背筋がぞっとした。でも、聞こえなかったようなフリをして、車に乗り込む。

 むっとする暑さが残る車内に、先輩が急いで来てくれた事を感じる。

「来てくれてありがとうございました。親族も近くにいないし、どうしていいかわからなくて、春ちゃん先輩の顔が浮かんだら電話をかけてしまいました」

「もうこんな時間に出かけちゃダメよ。あと、そんな部屋着で外に出ない。たまたま私が家にいて、たまたま免許も持ってて、たまたま車があったから良かったけど、そうじゃなかったら、どうなってたかわからないからね」

 はい、と小さな声で返事をした。今更ながらに震えが出てくる。

 つけられていたら良くないからと遠回りして、マンションまで送ってくれた。車を停めて、部屋の前までついてきてくれる。

 施錠したのを確認したら行くからねと言う先輩の腕に、思わず手を伸ばす。

「お茶でも飲んでも行きませんか。いや、嘘です。私がまだ怖いから一緒にいてほしいだけです……」

 申し訳なさに、声が尻すぼみになる。先輩はふぅっと溜息をつくと、部屋に入ってきた。

「じゃあ、寝られるまで一緒にいてあげる。怖いなら一緒に映画でも観る?」

 こくりと頷くと先輩を招き入れた。


 温かいココアをいれてから、せめてものと買っていたコンビニスイーツをお出ししてから、ソファに2人でかける。もっとちゃんとしたおやつをごちそうしたかったのに、その前にまた迷惑をかけてしまった。

 いわゆるハリウッド超大作というドンパチしまくる映画をかけながら、お喋りをすると、少し心が落ち着いてきた。

 趣味が合うのもあって、話は全く尽きない。先輩と話すのはいつも楽しくて、後から思い出しては口元がにやにやと緩んでしまう。

 緊張状態の後に、先輩といるのが楽しすぎて喋り倒して、疲労感でうつらうつらしてしまった。体が宙に浮くのを感じる。どうやら運んでくれているようだ。

 ベッドに寝かせてから、そっと頭を撫でてくれたのを感じながら、意識はフェードアウトしていった。



 火曜日。子ども食堂に来たけど、今日は花乃ちゃんは来ていない。

 塾は月水金と言っていたと思うけど、家から抜け出せなかったのだろうかと心配になる。以前は週1回来るかこないかだったのが、最近はほぼ週2ペースで顔を出していた。冬吾もいるし、今日は来ないほうが良かったかなと思っていたら、当の本人から話しかけられた。

「なあ、美月。今度の日曜日あいてる?」

「バイトやけど。なんで?」

 本当は何も予定なんてない。思わず吐いてしまった嘘に罪悪感を感じるが、そもそもボランティアの場で私的な誘いをしてくるのに、ちょっと嫌な気持ちになっている私もいる。

「映画のチケット2枚もらったから一緒にどうかと思ってんけど、それやったら他の日かな。この前公開された“好きなひとのはなし”ってやつ。映画好きやったやろ」

 タダで観られる映画には興味はあるものの、冬吾と2人でラブストーリーを観るのは正直きつい。

「ごめん、それもう観たわ。他の子誘ってあげて」

「そっか。また違うチケットもらうことあったら誘うわな」

 にっこり笑う冬吾に、いや、誘わないでいいですとは言えずに、私は曖昧に微笑んだ。



“相談したいことがあるから集合したい!”

 ボランティアが終わって、家に着いてから、愛莉とほのかにLINEを送る。

“今週なら金曜日の晩か、土曜日の昼なら行けるよ”

“じゃあ土曜日の昼12時で!いつものファミレスでいい?”

 OKのスタンプを送ると、そこで会話が途切れた。いつもながら予定だけをぱぱっと決めてしまうやり取りが気持ちいい。話したいことは会うまでとっておく。それが暗黙のルールになっている。



「で、どうした?美月から相談って珍しいやん」

 注文を済ませ、ドリンクバーを注いで席に着いた第一声がこれである。

 陽太と別れたこと、ボランティアサークルで冬吾と再会したこと、映画に誘われたけど断ったし正直気まずいと感じていること、花乃ちゃんのことが気になっているのでボランティアには行きたいことなどを一気に話した。

 喋りすぎて、さっき注いできたオレンジジュースはもう無くなった。

「冬吾かあ〜。懐かし。あいつ、美月とは付き合わへんとか言って傷つけたくせに誘ってくるんか!もうほっときいや。毎回それ観たからでええよ」

 服飾の専門学校に通っている愛莉が、怒ったような顔で話す。

「でも美月ちゃん、年々可愛くなってるもん。誘いたくなる気持ちもわからんではないけどなあ」

 国立大学の文学部に通うほのかが話すと、はんなりといった雰囲気が漂う。お母さんが京都出身らしく、柔らかな雰囲気だが、時々とんでもなく毒を吐く。

「中学の頃のこと、なーんも覚えてないお馬鹿さんみたいやから、付き合うのはやめといたほうがいいやろうけどねえ」

 言うまでもなかった。

「ほんまはボランティア行かんのが1番ええんやろうけど、美月の心情考えたら、花乃ちゃんのことが気になって支えになってあげたいという気持ちもわかるからなあ」

 私のこれまでを知っている愛莉とほのか。2人と初めてちゃんと話した日を思い出す。


 第一声は「ちょっと可愛いからって調子のってるんとちゃう?」だった。


第3話

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