はじめての一人旅のはじめての目的地
完全に間違えた。世界一くらげがたくさん見られる水族館が賑わう中、まだ一時間以上来る予定のないバス停のベンチに腰を掛けた。
思えば人混みが苦手な性格なのに、連休初日に水族館に一人で足を運ぶことは愚行であった。家族連れやカップルが集う水族館を選択した時点でこの結果は想定できたはずだ。きっと人生初の一人旅を、目的もなく、ただただ旅行代理店に勧められたルートをたどるだけの、規模の大きいスタンプラリーのように計画してしまったことが事の発端だったのだ。
「帰りたい。けど帰ってしたいこともないから帰りたくない。」
この旅を否定したいのか、それとも旅ではなく感情の起伏の生まれることのない淡々とした日常を否定したいのか、世界中の誰にも意図の分からないセリフが心の中に自然に浮かんでいることに向き合う気力もなく、かといって、バス停にずっと座っているのもバツが悪いので人気の少ない水族館裏に行ってみることにした。
防波堤を超えると、ごつごつとした岩でできた海岸が広がっていた。水族館のすぐ近くということもあり、屋外ステージで行われているイルカショーの音が聞こえる。イルカの魅せるステージに向けた観客の歓声と、岩で隆起した海岸に打ち当たる波の音が交差する。海岸から見る海には何もない広大な水の塊だった。海を見つめる時間など人生を振り返っても、記憶にはなかった。空と海の境目が同じ青なのにはっきりと分かる。雲がゆっくりと風に流され移動している。そんな当たり前の景色もこの度に来ないと見る機会などなかったのかもしれないと思った。しかし、そんな感傷的な感情もこの旅を正当化するためのこじつけとしか思えず、ただの海と空と雲にしか見えなくなった。今まで見ていた世界と何も変わりなどしないのだ。