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シン・現代詩レッスン69
鮎川信夫「あなたの死を超えて」
人はファザコンかマザコンというのは以前書いたが、本当にマザコンと思われるのは嫌なので(もう遅いか?)今日はシスコン(シスター・コンプレックス)。これは少女マンガの洗脳か?だいたい姉は勝ち気で弟は軟弱みたいな。自分には姉はいないのだが、従兄妹の姉ちゃんが姉代わりみたいな。バリバリの不良でキャロル時代の矢沢命みたいな(今でもコンサートに行くようだ)。横須賀だったし。
あなたの死を越えて
一九四七年三月二十七日
生き延びてきたわたしの心に
忘れがたい悲しみの面影がうかぶとき
美しかった姉さん!
いまでは墓穴にかくれ
ひとりで牛乳を匙ですくって
ほそい咽喉に流しこんでいるけれど
愛と死の隠れんぼはやっぱり楽しいものだろか
あなたの育たなかった乳房や
あなたが男を誘惑するはずだった可愛いい額の黒子のことを
実際に鮎川信夫に姉がいたのかはわからないが、これは想像の産物である殺人事件を元に作られた詩のようだった。死んだ者の未来は自由にイメージできるので、ここでは鮎川信夫のミューズとしてイメージされるものかもしれない。
真面目に読むとけっこうコメディっぽさを感じてしまう。「ひとりで牛乳を匙ですくって」とか。母親は育児拒否か?「愛と死の隠れんぼ」は「エロスとタナトス」のイメージ。ここでもオルフェウス神話が用いられているのである。そして「あなたの育たなかった乳房」というのが何ともエロく刹那い。男を誘惑する生き物としての女。イブの系譜か?
2024年10月16日
生き延びてきた僕の精神に
忘却のときが流れ彼女の顔が浮き沈みする
美しかった姉さん!
いまでは暗渠から広い海に漂って
水母の餌となっているかしら
「お前が母をたぶらかした男の息子だな」と
突然、声が降りてきた
「母さんを返せ!お前は死ね!」
繰り返されるイタチごっこのようなセリフ。
でも、それはわれ知らぬこと
そのとき修羅雪のように寒気がしてあらわれたのも
姉さん!
二人の姉が睨み合う
「家 の舎弟に手を出したらあたしが許さないから」
「お前があの男の長女か、姉弟揃ってアホ面だね」
「言っとくけどあたしは父無し子なんでね、親姉弟は義理人情の世界で生きているのさ」
「そんなの私に取ってはどうでもいいんだよ、義理だとか人情だとか、その上に愛があるんじゃないのか?」
「てめえの母親が育児放棄したからって、てめえは今日まで育ってきているじゃないか?筋違いんなんだよ、恨みの晴らし方が」
「うるさい、キチガイ女が、お前は関係ないだろう。これは母と弟と私の関係なんだ」
と言って刃物で切りかかってくるが、修羅雪の姉さんはぱっと切り捨てた
姉さん!
「どっちの姉さんのことを言っているんだお前は?馬鹿なお前の初恋は終わったんだよ」
そんな、姉さんなんて大嫌いだ!
コメディになってしまった。パロディ詩だから。
姉さん!
片言まじりの甘美な言葉で
あなたはどうして人生にさよならを告げたのか
わたしはいまでも眼鏡のつかれをぬぐい
誰もいない淋しい部屋を夢想する
姉さん!