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シン・短歌レッスン180
NHK短歌
光る愛の歌 テーマ「日記」
俵万智さんが選者、『光る君へ』とのコラボ企画。ゲストは「いと」役の信川清順さん。テーマは新年にふさわしく『日記』。司会はヒコロヒーさん。
日記は若い時からよく書いていたが、若いときは忘却するために日記を書いていたような。今は健忘録になっているが、若いときはこんなに詳しく書いてなかったと思った。日付のない日記や観念だけの日記とか具体的な行動は現在の方が書き残している。まあどうでもいいような日記ではあるが、俳句や短歌と一緒か?今日の一首。
年老いて記録する日々の糧日記忘却するのも忘れて勤しむ やどかり
露の身の
風の宿りに
君を置きて
塵を出でぬる
ことぞ悲しき 一条天皇
一条天皇の辞世の歌なのだが、行成と道長の日記では下の句が違うという。実際に臨終の言葉なれば聞きづらいこともあり、本人による解釈もあろうということだった。行成の「君」は定子への思い、道長は娘、彰子への思いとして読んでいるという。
<題・テーマ>川野里子さん「青空」、俵万智さん「物語」(テーマ)
~1月20日(月) 午後1時 締め切り~
<題・テーマ>大森静佳さん「書く(テーマ)、枡野浩一さん「さようなら/おげんきで」(テーマ)
~2月3日(月) 午後1時 締め切り~
一年の視点
『短歌研究 2023年 12月号』拡大特集「‘23総合誌作品展望」から。
真中朋久の2023年作品展望
生涯の実像おほむね迫りきて腕時計の電池入れ替へにゆく 篠弘
篠弘の晩年の短歌。2022年の12月に亡くなったということ。篠弘は短歌史の本でお世話になった。
電池入れ替えるという表現からまだ時計は動き続けると思っていたのか?上句は死期が迫っているという句だった。それでも腕時計の電池を変えねばという律儀な人なのかもしれない。腕時計はケータイ持つようになってから嵌めたことがなかった。そういえば最初の給料で買ったのが腕時計のような気がする。それまでしていた腕時計がダサいゼンマイ式だったから。クォーツという呼び名も当時のものかな。
クォーツの腕時計買う初月給不要なりしか 体内時計 やどかり
2022年のことはすでに遠い日だった。安倍晋三元首相の暗殺があった日のもこの年で歴史的にはけっこう大きな事件だと思うがこれらの歌が後世に残るのだろうか?
元首相が暗殺される国に住むだれがころしたのか雲に問ふ 萩原裕幸
参列者の顔ぶれがおのづからなる評価にて死者を打つその過酷なる鞭 永田和宏
あまり切迫感も無かったのは日本国内のことだったからだろうか。むしろロシアのウクライナ侵攻の方が衝撃だったようだ。
夢よりも夢 砲撃に巻きあがり捩れていったこがねの穂波 佐藤弓生
英霊になりたかつたという男、俺によく肖た顔がふりむく 魚村晋太郎
わたしはわたしを(途絶)わたしはわたしを(産む)わたしはわたしを 真っ黒に湿っている海 山崎聡子
今の短歌はこのぐらい自由だった。ただこの歌は「わたしはわたしを」が上句でリフレイン下句で情景句で難解ではないのかもしれない。リフレインはリズムを伴うのでしばしば定型を無視する。この歌は国境の難民が貧困の中でトイレで子供を産むことにインスパイアされたという。その断絶と接続なのか。
無用なれど滅びないもの 人間のたましひの相手してくれる歌 高野公彦
長老の歌という感じだな。
江戸雪の2023年作品展望
歩くたび揺れる手が後ろに来るのを待ってからそっと手をつなぐ 伊藤紺
先の真中朋久の展望は時事詠が含まれていたからわかりやすかったが上の歌が2023年だろうと2024年だろうと変わらないことのように思える。かわらない日常を歌として詠むことが展望ということなのか?先の高野公彦の歌と同じような感じなのか?
顔にあるふたつの水面ねむれないきみを紅葉として浮かべつつ 小島なお
小島なおはすでに大家の部類だよな。この年の短歌で変化したというのがあるのだろうか?まだ恋愛を読める年頃という感じか。
さけしざくろの卓に載すればかがやける粒粒が溜めし時間したたる 馬場あき子
個人的なことを書けば最近馬場あき子が気になっている。この頃は全歌集が出た頃なのか?その前に出ていてすでに注目の歌人だった。私は映画で興味を持ったのだが。
あはれあはれ古布回収の日に出せり肌襦袢など紐にくくりて 小池光
やはり晩歌的なものはいつの時代も胸打つような気がする。
紙で切りしごとき痛みは何ならむ安倍晋三死にて数日つづく 山田富士郎
年代的なものなのか?「紙で切りしごとき痛み」は紙で指を切るような痛みということなのだろう。それは重いのか軽いのか?
かんがへてかんがへて何も出てこない老いのとば口さやければ 坂井修一
老いの歌もここまでくると老獪さを感じる。
ここからがゴドーのいない明日になる夕陽の丘に少年消えて 貝澤駿一
この歌はいいと思ったのはスーザン・ソンタグを連想したからだ。彼女への晩歌かなと。そうでもなかったか。「ゴドーのいない明日」というのはいいなあ。今の状況そのものだった。
小野田光の2023年作品展望
選ばれた雪はだるまになり水に/ 選ばれなくても水になる雪 イトウマ
なんかいろいろ連想する。身も蓋もない短歌だが、投稿短歌とか思ってしまった。どうせ水なんだと。ただその一瞬の景を取り出すことは必要か?
三人組の短歌グループというのも面白い。今も続いているのだろうか?気になる。
夜半に聞く実況はかくいきいきと 絞める、収める、削る、切り込む 大辻隆弘
ワールドカップだから時事詠なのだろう。全然覚えてないというか興味がなかった。最近この手のスポーツ観戦は格闘技しか興味がないな。
取組後すぐに力士にインタビューするのは計算された笑いか 小坂井大輔
その格闘技相撲だが、この頃ドラマがあったよな。最近の相撲も厳しくなっているようで。
ナショナリズムを煽るサッカー嫌いにて炬燵にひとりエンヤを聴けり 久々湊盈子
このタイプかもしれないな。それにしても名前が凄い。
スノードーム割れてみーんないなくなるだから一汁一菜でええねん 北山あさひ
ウクライナの時事詠だが脱力系。口語がいい。
息子十九「プロフェショナル」出演の打診すれば秒で断る 俵万智
これ見たな。俵万智の地声はドスが効いていた。それでプロフェショナル歌人だと思う一方,NHK短歌の笑いは営業用だと思ってしまう。
歌人が日常を短歌に切り取る歌が流行っているのか、老いはそれこそがテーマとなるのか。
歌詠みて午前四時まで徹夜せり歌を詠むとき高野氏頑健 高野公彦
自分で言っていれば世話ないな。高野公彦が目立つということだった。
気を付けて刑法上は器物でもそいつ吠えたり愛したりする 久永草太
獣医の歌壇賞の歌だった。番犬のことを詠んでいるのか。危険物扱いではなく物扱いということだった。
後藤由紀恵の2023年作品展望
来嶋・篠・松坂三氏卓をへだて在りし昼餉のありありとして 森山晴美
挽歌が強いのだが三人まとめればさらに強力か。
坂本龍一病みて高橋幸宏亡くしテクノポップの老いたるごとく 米川千嘉子
坂本龍一はまだ死んでないときだよな。すでに挽歌だが。
置き配のような母の死コロナ禍の入院生活終わりを告げる 平山繁美
そうだ。自分もコロナ禍に母を亡くしたのだった。こんな感じだったような。コロナ禍の社会詠と身内の挽歌。通常ではない入院生活。
極月のひまわりの花ながめをり 侵攻が戦争になりしは何時か 小林幸子
十二月はいくらなんでもひまわりは咲いてないと思うのだが、映画ポスターとか絵かもしれない。『ひまわり』の映画ポスターだと想像する。その頃映画があったような。
レイプされたかったんだろう?と言はれたり かもしれないがあなたにではない 黒木三千代
随分ストレートな歌だった。「ハラスメント」特集の時のもので、黒木三千代には歌集『クゥエート』の傑作がある。
侵攻はレイプに似つつ八月の 涸谷超えてきし砂にまみるる 黒木三千代
「ホトトギス」の同人除名今ならばハラスメントと呼びたき仕打ち 松村由利子
虚子の杉田久女除名のことだが、虚子はそれだけではない男根主義者だ。
木田一弘の2023年作品展望
目をつむるのはよいとして断っておくが見たくないだけなんだな 平井弘
目をつむるのもダメだと思うが臭いものいは蓋をしろという社会は誰が作ったのだ?ジャーニーズ問題も今も騒がれているが。
一億総三年寝太郎草ぬいて何よりここをはじまりとして 今野寿美
これは諧謔性があるな。コロナ禍の社会詠で一番かも。
ミサイルが発射されたと速報が!! 都市伝説のひとつと慣れてしまひぬ 尾崎朗子
これも記憶に新しいと思ったが二年前だったのか?それより実際にウクライナでは毎日のようにミサイルが飛んできているのだが、無力感。慣れるしかないのか。
AIに歌つくらせてハンモックわれはゆつくり胡蝶とならめ 坂井修一
AIの歌がもっとあってもいいと思うのだが。AIに短歌作らせても売れるわけじゃないから。
尾崎朗子の2023年作品展望
いちめんに燃えし市街地 3日目に火を噴きて落ちる倉庫二つ見き 奥村晃作
もうこういう歌は聞き飽きてしまったイメージが。具体的に何が出来るのかと。ミサイルの前に歌はあまりにも無力なのか?
現地の人に見えざる帯よ今朝も画面に線状降水帯という赤いかたまり 佐佐木幸綱
TV画面の安全な場所から危険地帯へは戦争も同じなのだがのんびり歌をつくっているように思える。切迫感がない。
終末ではないはずだからタオル地のサウナハットに汗を吸わせる 谷川電話
サウナブームも社会詠といえば社会詠か。
うーんうーんと携帯うなりまたくるしそうどうしますかと訊かれる なみの亜子
なんだか経験あるような。緊急警報とか突然鳴り出すから困る。この場合は電話か?
「竹は竹、我は我ゆゑ」 りゅうちぇるは りゅうちぇるゆゑと風うたはむを 米川千嘉子
「りゅうちぇる」も自殺したのだっけ。この挽歌はいいかも。「竹は竹、我は我ゆゑ」は北原白秋の言葉だそうだ。