見出し画像

2時間で終われない戦争ドキュメンタリー

『精神(こころ)の声』(ロシア/1995)監督アレクサンドル・ソクーロフ

ロシア国境軍モスクワ国境警備隊第十一駐屯地の兵士たちは、旧ソ連のタジキスタン共和国の内戦に出兵した。監督は彼らと半年に渡って行動を共にし、若き兵士たちの日常を見つめる、己の"精神の声"に耳を傾ける。

五部作で上映時感388分の大作。ソクーロフ監督がアフガニスタンとの国境警備にタジキスタンの従軍日記映画。第一部が固定撮影でクラシック音楽鑑賞会になっていてびっくり。普通だったら退屈してしまう(多分自宅鑑賞会だったら寝ていた)のだが、モーツァルト、ベートヴェン、メシアンと解説付きで有名曲だから退屈はしなかった。モーツァルトのピアノ協奏曲で夜明けが明ける寸前にカモメが一斉に飛び回るのだ。その情景が映像マジックだった。

この第一部は、象徴的なんだけどロシアの雪景色。

そして第二部でタンジキスタン従軍。一方アフガニスタン国境は岩山の世界でまったく違うのだ。。砂埃が舞うロシアで見る景色ではない(砂埃をアフガン人という)。ラジオをチューニングすると民族音楽調のポップスが流れてくる。そして、ソクーロフがここはアジアだという。目前の川向こうはイスラム圏でコーランが聞こえる世界なのだ。

ソクーロフも最初は愛国心があるような撮り方だったのだ。第三部も延々と従軍日記映画。戦車が立ち往生したり、塹壕での兵士たちのくつろいだ様子とか、若い兵士がはしゃぐ様子。そんな中でアジア系の兵士もいた。彼らは孤立しているんだよな。そんな場違いにいるような違和感とロシア兵との対比を映し出す。

第4部が突然アフガン兵から襲撃を受ける。すごい緊迫感。ドキュメンタリーだから当然なんだけど。川向うの民家とかイスラムの人々が日常的に暮らしている。コーランなんかも聞こえてきたり。そんな中で襲撃の後の孤立感というかみんなホームシックになったように帰還を望むようになる。戦争の退屈さと緊張感を見事に捉えている。そして厭世観も。負傷兵もいたりして、もう俺たちがここにいるのは間違いだみたいな雰囲気で、帰還することばかり話している。

そして第5部は、新年を国境警備で迎える悲しさ。新年のパーティみたいなことをするのだが、段々暗くなっていく。酔っ払って泣く兵士も。黙り込むクローズアップの顔を延々映す。そこで映画かなにかのセリフをクローズアップにかぶせるのだが、チェーホフの芝居のようなセリフだった。兵士の夢見る寝顔に、そういう演出が上手い。

長いけど戦争の辟易する時間を感じさせその中で厭世観の表情を捉え最初の音楽があるシーンとラストの夢見る映画のセリフに見事にソクーロフの精神の声が反映されているドキュメンタリーだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?