見出し画像

熟女ものAVにアレンジできそうな『フェードル』である

『フェードル アンドロマック』ジャン ラシーヌ , 渡辺 守章 (翻訳) (岩波文庫)

恋の女神ヴェニュスの呪いを受け,義理の息子イポリットに禁断の恋を抱くアテネの女王が,自らの恋を悪と知りながら破滅してゆく姿を描いた「フェードル」.トロイア戦争の後日譚で,片思いの連鎖が情念の地獄となる「アンドロマック」.ともに恋の情念を抗いがたい宿命の力として描くラシーヌの悲劇が名訳によってここに甦る.

ラシーヌの古典悲劇は、ホメロスやギリシア悲劇から着想を得て、アリストテレス『詩学』(古典悲劇の教則本)を踏まえて書かれている。その特徴は詩であること(韻文)。「三単一」の法則がある。時間が現実と一致、場所も同じ、筋が統一。シェイクスピアに慣れているとちょっとまどろこしい。一番はカタルシス(浄化)の劇で害毒を吐き出す効用を狙ったもの。『フェードル』はまさにフェードルの欲望(性欲)が害毒なのです。以下、

アンドロマック

ホメロス『イーリアス』の後日談でホメロスは読まなくてもいいがトロイ戦争の物語は理解しておく必要があり。ブラック・ピットがアキレスを演じた映画『トロイ』はお勧めです。

かいつまんでまとめると、アキレウスがトロイの英雄ヘクトールを破ったためにトロイは崩壊して、ヘクトールの妻アンドロマックはギリシアの奴隷妻になったが、ヘクトール愛が強い為にアキレスの息子ピュリスの願いを受け入れない。ピュリスにはエルミオタールという婚約者がおり、彼女はアンドロマックがピュリスを奪ったと思い、恨んでいる。しかし、エルミオタールに恋しているオレスト(アガメムノンの息子)が入ってきて複雑な恋愛関係に。

戦争が男の闘いならば、恋愛は女の闘いでもあるわけで、アンドロマックを軸にエルミオタールが闘いを挑むという構図なのだが、アリストテレスの『悲劇』によって悪人でも極端では駄目で人間らしさを描けというセオリーに則った結果エルミオタールも単に悪女でもないのだ。

さらに話を複雑にしているのが、それぞれの主人に侍女や家来が付く形なので、語られるのが家来(世間的な常識か)対する主人たちの激情なる思いなのである。アンドロマックの愛は亡きヘクトールと共にその息子と滅亡させられたトロイと共にあるので、ピュリスの愛を受け入れるわけがない。

ピュリスはそこでエルミオタールに靡くのだ(男としての沽券で奴隷妻に左右されては英雄の名がすたるというような)。それにあせってオレストは気が狂わんばかりになる。男はどうしようもない者として描かれている。

オレストの狂気の愛は報われることがないピエロ的な様相で自滅していく。建前上アンドロマックが悲劇のヒロインなのだがアンドロマックの悲劇は誰が描こうと英雄ヘクトルと一粒種の息子(ギリシアの敵)と同一死しかないのである。ラシーヌはそれに対するオレストの狂気の愛とエルミオタールの復讐愛(ピュリスを暗殺したオレストへの憎しみ)の狂言劇にした。

フェードル

これも古典悲劇エウリピデス『ヒッポリュトス(イポリット)』とセネカ『パンドラ(フェードル)』のギリシア悲劇を元に創作された悲劇。解説やウィキペディアであらすじを知っておいたほうが理解が早い。特にラシーヌの古典悲劇は、古典(ギリシア悲劇)に負っている話なので、ギリシア神話を知らないとさっぱりわからいと思う。

フェードルの夫テゼーは、ヘラクレスと並び称される英雄で、ポセイドンの息子たちである怪物を退治した。その呪いがテゼーに降りかかっているとするのである。ミノタウロスは迷路の怪物で、フェードルが義理の息子イポリットに欲望を抱いたときにその邪悪な情欲が彼女を欲望の怪物にしたというストーリー。だから話が錯綜しているのは、芝居的でもあるがギリシア神話を踏まえていた。

イポリートは父の英雄物語のように英雄になることを望んでいたが、義理の母の情欲には勝てず(去勢されたという分析も)、フェードルの誘惑に負けてしまう。しかし、イポリートは本当に愛していたのは娘のアリシーだと気がつく。アリシーはフェードルの娘だけど純粋さを保っており、フェードルの淫乱さと対になっている。

フェードルは義母としてイポリートを遠ざけていたのだが(欲望を感じていたからか)、夫のテゼーが旅先で死んだという噂を聞いてチャンスと思ってしまったのだ。王位継承のこともあって、イポリートを王位につかせたかった。

そんなフェードルの思惑に反して、テゼーは実は死んでなかった。最初は幽霊かと思わせての演出は三幕最後は声だけで4幕になって実際に姿を現す。テゼー(王)の劇的な登場シーンです。寝屋に帰ってきたのだからフェードルの立場もないのですが(イポリートは逃げ去っている)、アマゾンの女王の息子であるイポリートに襲われたことになってしまった。それは沈黙していたフェードルを庇った、フェードルの乳母エノーヌ機転だったが、イポリートはテゼーの反感を買う。さらに娘のアリシーまで誘惑していることになってとんだ放蕩息子だとなってしまった。

イポリートは国にはいられなくなり旅立つが、そこで怪物(牛の姿でフェードルの分身だと思える)に出会う。そして怪物から国を守る為に壮絶死を遂げる。それが『フェードル』で一番の有名な5幕の「テラメーヌの語り」なんだ。ラテメーヌが突然神話を語るので意味不明だと思うかもしれないが、詩でイポリーヌの死を象徴的神話的に語っているのだ。フェードルが「聖(性)なる怪物」を暗示した詩なのだ。実際は単に自殺したのかもしれない。それは言葉でしか語られていないので、真相は闇の中、あまりにも「テラメーヌの語り」が見事なのでテゼーも疑うことなく信じたということ。

そして、ことの次第を知った乳母エノーヌが自死をして、フェードルもエノールを罵倒しながら死んでいく。ストーリーがわかるとなるほど凄い悲劇だと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?