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『MARCH』を読む

『MARCH 1 非暴力の闘い』

ジョン・ルイス (著), アンドリュー・アイディン (著), ネイト・パウエル (イラスト), 押野 素子 (翻訳)( 単行本 – 2018)


バラク・オバマの大統領就任式の日、かつての公民権運動の闘士、ジョン・ルイス下院議員は、これまでの道のりを振り返っていた。南部の農場で生まれ育った少年が、いかにして差別に対抗する非暴力の手法を学び、運動に身を投じるようになったのか。公民権運動の歴史を当事者の目線で描く、骨太のグラフィック・ノベル第一弾。

ジョン・ルイスというとMJQのリーダーかと思ったほど、公民権運動の活動家で米国下院議員のこのジョン・ルイスは知らなかった。先日ニュースで訃報が流れて存在を知ったわけだが、彼の半生を描いたアメコミ。アメコミだけど非暴力の公民権運動の教科書になっている。実際に『キング牧師とモンゴメリー物語』という人気コミックを有和会というところが出していることからその影響(連鎖)もあるのだろう。黒人の公民権運動と非暴力の闘い方を興味を持って理解できる。

大阪なおみのBLMマスクの意思表示はこれを読めば理解できる。(12020/09/07)

『MARCH 2 ワシントン大行進』

南部にむかうバスに乗って,人種の区別を公然と破るフリーダム・ライド運動に参加したジョン・ルイス.南部の白人社会の反発はすさまじいものだったが,果敢な行動で社会を揺り動かしていく.そしてワシントン大行進で運動は頂点に達したかにみえたが…….

「ワシントン大行進」というとキング牧師の演説で有名だが、このコミックで描かれているキング牧師は生ぬるい。1963年の「フリーダム・ライダーズ」(黒人が自由にどこにでもいける運動)での白人至上主義者からのヘイトと暴力、その中で犠牲になった黒人。ジョン・ルイスの「ワシントン大行進」の演説はその現実とまさに今やるべきことを伝えている。未来の夢物語ではない。この漫画の途中で一瞬だけマルコムXとの邂逅が描かれているのは、非暴力主義者だけれども彼への共感もあるのだろう。その狭間で揺れ動くのだ。

参考図書『キング牧師とマルコムX 』上坂 昇(講談社現代新書)

だからラストのジョン・ルイスのスピーチが感動を呼ぶのだった。しかし、このコミックで本当のラストに描かれているのはアラバマ州のハプテスト教会の爆弾テロだった。4人の未来の子どもたちが亡くなったのだ。この鎮魂の曲を捧げたのがジョン・コルトレーンの「アラバマ」だった。

  https://youtu.be/saN1BwlxJxA

『MARCH 3 セルマ 勝利をわれらに』

一九六四年の公民権法の成立後も,アラバマ州セルマでは選挙権登録に来た黒人市民を保安官が妨害していた.ジョン・ルイスは抗議のデモに参加するが,警官隊は催涙弾を打ち込み,デモ隊を棍棒で殴り倒す.「血の日曜日」事件は全米に放送され,世論や議会に大きな影響を与え,六五年の投票権法の成立を導く.

これはアメリカの公民権運動を理解するには本当に良い本。形としてはオバマ(黒人)大統領の誕生を現在(ここまでの出来事として)として描き、そこまでの道のり(公民権運動の歴史)を漫画で描いている。ただ成功譚ばかりではないということ。「ワシントン大行進」であれだけのデモがあってもすぐには公民権が与えられたわけでもなく、揺れ戻しというようなさらに酷い白人の暴力、それが公権力(警察)によって引き起こされ彼らを潰そうとする。政治的に民主党への参加も企てるが思うようにならない。

なにもかも挫折しかけたときにジョン・ルイスはミュージシャンのハリー・ベラフォンテからアフリカ訪問の誘いを受ける。アフリカの黒人の姿を見て勇気づけられる(そこには黒人のパイロットも警官もいる)。そして、イスラム原理主義を脱退したマルコムX との再会。この本ではキング牧師よりもマルコムXのほうが目立つ。彼の暗殺は泣ける。そして、『セルマの行進(『グローリー/明日への行進』で映画化)』。ただそこまでの道のりはけっして安楽ではなかった。

だから大坂なおみがBLMを支援しようとするのも、黒人が公民権を得るまでの闘いが多くの犠牲者や逮捕者を出してのものだった。それを失うことはあってはならないとするからだ。香港の例をみても民主化運動がどれだけ大変なことか、日本人はもっと学んだほうがいい。




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